【LIVE REPORT】
音楽と人LIVE2019
ストレンジャー イン トーキョー 〜DEZERT 異種格闘3番勝負〜 ROUND 3
2019.11.20 at TSUTAYA O-WEST
DEZERTと雑誌『音楽と人』が共同開催したイベント〈ストレンジャー イン トーキョー ~DEZERT 異種格闘3番勝負~〉。メリーとの第1戦、minus(-)との第2戦を経て、3戦目となる眉村ちあきとの対バンライヴが、TSUTAYA O-WESTにて行われた。
ヴィジュアル系のDEZERTと弾き語りトラックメイカーアイドルの眉村ちあき。まったくジャンルの異なる2組ということもあり、開演前、両者のファンが詰めかけたフロアからも、お互いの様子を伺い合うような、期待と不安が入り混じる独特の空気感が漂う。どんな一夜になるのか。誰も予想がつかない状態で幕が上がった。
紗幕がゆっくりと開き、先攻の眉村ちあきが登場。眉村自身の顔がプリントされた上下のセットアップという出で立ちで、ステージ上をくるくると動きながら「MCマユムラ 」でライヴスタート。PCから流れるトラックにあわせて、軽快なラップを披露したり、ゆったりフロウしたり、即興でミュージカルをしたりと、初っ端からぶっ飛んだ展開。初めて彼女を観るであろうDEZERTファンの戸惑いを感じ取ったのか、眉村自身も「こんな空気味わったことないよ」と思わず本音をポロリ(笑)。しかしそんな空気をものともせずに、ウァーという強いシャウトから「ピッコロ虫」へ突入し、ポップなサウンドと芯のある彼女の歌声がフロアを揺らす。エレキギターをかき鳴らす彼女は誰よりも楽しそうで、全力で音楽を味わっている。
そんな彼女が、何もできない自分を励ますため、きっと自分と同じであろうファンの人を勇気づけるための曲だと言って演奏した「DEKI☆NAI」。落ち着いたビートのうえで綴られるリリックからは、彼女の生き辛さ、そしてその気持ちをどうしても唄わずにはいられない切実さが滲む。それと同時に、音楽を通じてそれを誰かと共有できる喜びも、彼女の歌から伝わってくる。〈君と私が音で繋がった今日は/特別な日だって思えるんだ〉と唄う「ほめられてる!」、アコギ、マイクなしで音楽への情熱を響かせた「音楽と結婚ちよ」、うまくいかなかい自分へ背中を擦ってくれるような優しいメロディの「大丈夫」。社会の中でうまく生きていけない、何も持ってないと感じている眉村にとって、誰かと一緒に楽しい気持ちを共有できる音楽、そしてライヴがかけがえのない空間だということが、どの曲を聴いても伝わってくる。
眉村のエネルギッシュなパフォーマンスに、戸惑いながらステージを見ていたDEZERTファンの身体も徐々に動き、「壁みてる」では「土井! 土井!」という不思議な掛け合いがバッチリ決まる。エスニックな香りが漂う「インドのりんご屋さん」では眉村が客席へ乱入し、フロアの真ん中で「ぐるぐるどっかーん!」と、まるで子供ようにぴょんぴょん飛び跳ねながら唄う姿に、みんなが自然と笑顔になっていた。最後は「ビバ☆青春☆カメ☆トマト」の掛け合い、そしてQueenの「We are the champions」をフロアに大合唱させてステージアウト。自分の信じた道を突き進み、楽しく自由に、眉村ちあきにしかできない音楽の形を見せつけた。
後攻のDEZERTがステージに現れる。こちらの千秋は、髪の毛を大きく立ててベージュのスーツという装い。「みぎて」から始まったステージは、「Dark In Black Hole」「MONSTER」「バケモノ」と攻撃的な曲を展開させていく。一気に加速していく演奏にフロアも全力の盛り上がりを見せる。しかし5曲目の「大塚ヘッドロック」では千秋が歌詞を飛ばしてしまい、わざわざ間奏の間に唄い直す場面も。ミスに対して自分の中で決着をつけないと気が済まなかったのだろう。不器用だが、真摯な彼の姿が垣間見えた瞬間だった。
千秋がアコギに持ち替え、ベースのSacchanが鍵盤を弾く「天使の前頭葉」では、万華鏡のような照明がステージを幻想的に彩る。切ないメロディに柔らかい歌声とMiyakoのギターが美しく重なり、SORAのドラムが丁寧に支え、4人がひとつになって音を生み出す。先ほどまでのダークで溜まったものを爆発していくような瞬間とは逆にある、胸の内側をそっと温かくなる。その後は「「排泄物」」「「君の子宮を触る」」とアッパーな曲が続き、フロアの熱気もさらに高まっていくが、ただ激しいだけではなく、胸ぐらを掴むような喧嘩腰の音でもない。ちゃんと目の前にいるあなたへ届けようとする、真っ直ぐな音を彼らは鳴らしていく。
「「遺書。」」を唄い終え、眉村へのリスペクトを口にし、「前はカッコつけて唄うとか言ってたけど、本気で今思ってるのは、あんたらひとりひとりに本気で唄うから」「真実はなんてないかもしれないけど、俺は真実を唄いたい」と千秋が宣言。続く「True Man」では疾走感あるバンドサウンドの中で、〈愛して醜さを 愛して自分自身を〉というフレーズが飛び込んでくる。センターでマイクを握り叫ぶように唄う千秋もまた、周りにあわせてうまく生きていくようなことができないタイプだ。お世辞を言えないから敵を作ったり、お客さんを困惑させることもあった。だけど、そんな自分を音楽を通して愛してくれる人たちがいることもわかっている。だから自分の中にあるものをどんな醜い形であろうと形にして、ここにいる誰ひとり置いていかないようにと必死に喉を鳴らすのだ。「辛いこともあるし、楽しいこともある。だから頑張ってください」と言って披露された本編最後の「TODAY」。自分の弱さも受け入れ、新しい一歩を踏み出すこの曲は、この日のラストにぴったりだった。
アンコールで再び登場した4人。ここで千秋がちあきを呼び込み、お互いに1曲ずつパフォーマンスをする予定だったが、慣れてないせいかグダグダ。こういうところでうまくできないのもご愛嬌か。しかし、グダグダの呼び込みのあと緊張を振り払うように眉村がアコギで弾き語った「おじさん」はこの日のハイライトだったし、それに負けじと千秋が即興で披露した「おじさん」、丁寧に演奏された「I’m sorry」は実にDEZERTらしいパフォーマンスで、2組の共演は幕を下ろした。
普段はまったく違うフィールドで活動する2組だが、この日のライヴを観て、彼女/彼らが抱える思いはどこか近いところにあるんじゃないかと感じた。居場所のなさ、居心地の悪さ、そんな自分を音楽に投影し、外の世界と繋がれること。異種格闘だからこそ見えてきた共通点。そんな2組の道が再び交わるのは、千秋の言葉を借りるならばそれぞれが「日本武道館」に立つ瞬間か。そんな期待もしたくなる夜だった。
文=竹内陽香
写真=かわどう
【SET LIST】
■眉村ちあき
01 MCマユムラ
02 ナックルセンス
03 東京留守番電話ップ
04 ピッコロ虫
05 DEKI☆NAI
06 ほめられてる!
07 音楽と結婚ちよ
08 壁みてる
09 大丈夫
10 インドのりんご屋さん
11 顔面ファラウェイ
12 ビバ☆青春☆カメ☆トマト
■DEZERT
01 みぎて
02 Dark In Black Hole
03 MONSTER
04 バケモノ
05 大塚ヘッドロック
06 御法度
07 天使の前頭葉
08 「排泄物」
09 「君の子宮を触る」
10 「遺書。」
11 True Man
12 TODAY
ENCORE
眉村ちあき/01 おじさん
DEZERT/01 おじさん 02 I’m sorry