ついにはじまったARABAKI ROCK FEST.19。今日からの2日間、音楽と人編集部が観た景色や感じたことを数回に渡ってお届けしていきます。
「寒いですね」
今日会場で会う人たちと最初に交わす言葉がこれだった。アラバキは開催者の日頃の行いがいいのか、いつも天候に恵まれることが多い。雨は降ってもにわか程度で、寒くなるのも陽が落ちてから。むしろ昼間は夏のような強い日差しに体力を奪われてしまうほどだったりもする。
それが今日はダウンジャケットとカイロが必需品で、さらに時折降り出す雨の心配もしなければならない。こんなに過酷なアラバキはもしかして10数年ぶりかもしれない。今もこの原稿を書くのにも寒さで手がかじかんでキーボードを打つのに難儀しているのだ。
ARAHABAKIステージのトップバッターを飾った初出演のSIX LOUNGEや、4年ぶりの出演となるMICHINOKUステージでのSiMもMCで今日の寒さについて触れていたが、今日のアラバキはとにかく寒い。そんな中、数時間前に観たばかり竹原ピストルのライヴについて触れておきたい。
彼が立ったのは奥羽山脈が吹き下す冷たい風を纏うBAN-ETSUステージ。そこで彼はTシャツ半パン姿で登場し、白い息を吐きながら唄っていた。しかし、そんな寒さが竹原の歌の熱さを引き立てる。〈薬漬けでも生きろ〉と吠える「LIVE IN 和歌山」をはじめ、吉田拓郎の〈落陽〉のカバー、そして彼の十八番である「Amazing grace」。アコギと歌だけで織りなすドラマチック人生劇場は、どこまでもリアルかつ鮮烈で熱くたぎっている。
しかし、そこには人を労わるような優しさと慈愛のようものも横たわっていた。だから彼の歌は火傷をしそうなほど熱いのに、どこか人肌のような温もりを感じるのだろう。今日の寒さはそのことをより肌身で感じることができる、竹原にとっては最高の演出だった。大きな声援と拍手で彼の熱演に応えるオーディエンスも、きっと彼の歌で寒さをしのいだことだろう。そういえば出演前の竹原とステージ裏で握手を交わした時、大きくて分厚い彼の右手は、ステージから放たれていた歌と同じようにとても暖かくて優しかった。
文=樋口靖幸
このあとも更新予定。続報をお楽しみに!