(これは『音楽と人』2019年3月号に掲載された記事です)
彼らの現在形が、強く、深く、刻み込まれている。信じる道をひたむきに走り続けてきたバンドが今、指し示すもの。そのアルバムは『Eye of the Storm』という。
とにかく前に行く、この先へと歩みを進めていくという意志が感じられる。まずタイトルナンバーである1曲目では、抽象的な表現とともに、そうした思いが描かれている。〈暗がりにまとわりつく光の尾/向こう岸にはまだ見えぬ未知の陽〉……今このバンドの楽曲のほとんどは英語詞だが、部分的にはさまれる日本語には、歌のキーになる言葉が選ばれる傾向がある。そしてこの歌の〈台風の目〉という意味を持つ題には、自分たちが今後、渦の中心にまで突き進んでいこうという姿勢が託されているはずだ。
こんなふうに、今いる場所から前進する、ここから先を見ているという表現は随所で顔を出す。〈昨日も明日も越えて/更にそのもっと先へ〉と唄われ「Head High」はその最たるものだし、「Push Back」「In the Stars (feat.Kiiara)」といったナンバーも同じくだ。そんな思いをさらにポジティヴに表現したのが〈光り輝く/栄光の場所/We can be giants giants〉と綴られた「Giants」だろう。
言うまでもなく、こうした歌の内容は、近年の彼らの活動ぶりとリンクしている。ライヴもレコーディングも世界レベルでの視野に立ちながら敢行。この2年の間には北アメリカにロシア、南アメリカ、それにオーストラリア、ヨーロッパ諸国にアジア圏と、まさに世界ツアーを行っている。とはいえ……たとえば日本ではドーム球場をツアーで廻れる彼らも、世界のマーケットから見るとまだニューフェイス的な存在で、会場規模もそこまで大きくはない。それだけにバンドとしてはチャレンジが続いている状況にあるのだろう。このアルバムの歌詞は、そんな思いがストレートに出たものだと思う。
サウンド的には、パワフルなところはよりパワフルに、繊細な箇所はよりさらに繊細にと、可能なかぎり突き詰めている。前作『Ambitions』はアメリカで制作されたが、今作では新たにロンドンでのレコーディングも行われており、起用したプロデューサーやエンジニアも多岐にわたる。その過程ではEDM的な要素も取り入れるなど、全体にポップなサウンドトリートメントがなされている印象だ。ONE OK ROCKは、日本のファンにはブチ上がるラウドロックやドラマチックなバラードのバンドというイメージが強いと思うが、海外制作に切り替えたここ数作はそうしたエネルギーの放熱をポップなメロディや練り込んだアレンジのほうに向けている。それも作を重ねるごとに。
これと足並みを揃えるように、本作のヴォーカルのシャウトやギターのリフ、演奏のへヴィネスが向かう矛先は、決して攻撃的な方向ではない。あるいは、音に意欲的なアプローチがあっても、実験的な領域にまでは偏らない。こうして聴くと、昨年発表の「Change」はこの方向性を予告するものだったということだ。さらに翻ると、『Ambitions』の発表時にTakaは「自分たちが今進んでいくべきスタート地点に立ったと思っているんです」と言っていたが、その態勢がさらに前進した結果、今の状態にあるということだろう。
衝動や表現欲求に忠実であることを遵守するのは、彼らの変わらない姿勢である。ただ、それを勢いやその時のなんとなくの感覚で振り切ることはせず、注意深くバランスを衡りながら、音を構成すること。情熱と冷静さを合わせ持つこの意識のありようには、世界レベルで戦うアーティストの矜持を感じる。
ただ、そんな中でも人間くさいところがポロポロとこぼれ落ちるように表れているのも彼らの魅力だ。〈ただ自分らしくありたい/ありのままで〉と唄う「Stand Out Fit In」では曲中で男女それぞれへの視点をはさんでいるし、MVでは人種や肌の色の違いにまで踏み込んでいる。ロックバンドがポップなアプローチに挑んだ曲で、ポリティカル・コレクトネスへの意識も指摘できる描写だが……それ以上にこの歌には、孤独感を包み込むような優しさのほうを感じるのだ。
また、静と動のダイナミズムが圧巻の「Grow Old Die Young」には今のTakaの人生感がうかがえるし、「Wasted Nights」や「Letting Go」、「Worst in Me」「Can’t Wait」では葛藤する思いを吐露するような表現が見られる。そこにはひとりの人間に立ち返った瞬間の心境が反映されているかのようだ。昨年フルオーケストラを従えたライヴで過去の楽曲を唄う際、Takaは自分たちが30歳になったことに少しだけ触れていたが、彼らの人間としての成長や変化もこうした楽曲に表れている気がする。そして本作でのTakaの声は、力強さとともに、優しく、あたたかみのある響きを聴かせてくれている。
前進する意志だけでなく、ポジティヴに大人になろうとしている彼らの、そして懐の深さを得ようとしているバンドの姿が垣間見える。それでいてスケールは過去最高。『Eye of the Storm』は破格のアルバムである。
文=青木優
NEW ALBUM『Eye of the Storm』
NOW ON SALE
01 Eye of the Storm
02 Stand Out Fit In
03 Head High
04 Grow Old Die Young
05 Push Back
06 Wasted Nights
07 Change
08 Letting Go
09 Worst in Me
10 In the Stars(feat. Kiiara)
11 Giants
12 Can’t Wait
13 The Last Time
ONE OK ROCK HP