それはかなり突然だった。7月に自身のインスタグラムで9月8日に恵比寿リキッドルームでライヴを行うと告知。そして当日の物販には、初音源が2曲ずつ収録されたCD/アナログ盤が並び、さらにソロ・ファーストアルバム『#1』のリリースと東名阪を廻るライヴツアーが発表された。その流れはまるで「自由にやらせてもらいますね」と僕たちに告げているように思えた。plenty解散から1年。江沼が音楽を続けることは間違いないと確信していたけれど、表舞台に出てくるかどうかは正直わからなかった。そして続けるとしても、トラップミュージックや、よりミニマルなものに接近していくだろうと思っていた。しかし『#1』は、確かにそういうアプローチの曲はあるものの、普通に歌メロが前に出たものも多い。彼はこれからどんな音楽を鳴らそうとしているのか。
ソロアーティスト、江沼郁弥。ファースト・インタビュー。
(これは『音楽と人』2018年12月号に掲載された記事です)
お久しぶりです。
「ですね。去年の9月以来ですか?」
そうだね。あの日、野音が終わったあとは、もう表舞台に出てこないかもなと思いましたよ。
「そうなるかもしれませんでしたよ。終わった直後は、本当に何も考えてなかったんで」
知らないうちに、昔やりたいって言ってた映画音楽でも作ってるんじゃないかとか。
「その夢も諦めてないです」
でも心配はしてなかったです。江沼くんは、絶対音楽からは離れられないだろうな、と思ってたから。
「まあ、野音の次の日にはもう曲作ってましたからね。でも、それをお披露目する機会とか、そのために何曲作るとか、そういうことはまったく考えなくて。だからそのぶん、すごくフラットに音楽に向き合えたんですけどね」
野音終わった翌日には曲を作ってた、と言ってましたが、去年の9月以降、どんなことをして過ごしてましたか?
「曲作りと……あとは犬の散歩しかしてないですね」
ちょっと休息が欲しかったんですかね。
「そう。やる気がなかったわけじゃないです。音楽を作るだろうな、とは思ってた。でも野音が終わるまで、フラットな精神状態じゃなかったので、いったんフラットな状態になりたかったんですよね。俺はどういう曲を作れるんだろう?って。様子見というか、自分との会話というか、そういう期間でしたね」
plentyの江沼郁弥じゃなくて、江沼郁弥としての音楽を鳴らしたい、と。
「それです。音楽とか芸術って、唯一ピュアでいれる場所だから。再スタート切るなら、絶対にそういう音楽にしないといけないなと思ってました。だから、そういう作品になってます」
今回の『#1』が。
「うん。ピュアなアルバムだ……って自分で言うのも何だから、誰かに言ってもらいたいんだけど」
わはははは。
「自分が音楽を純粋に楽しみたかった。だから最初、唄うのが嫌だったんですよ」
そう。このアルバムを聴いて、こんなに歌メロがあるなんて、正直、予想もしてませんでした。
「最初は全然唄う気なかったんですよ。トラックメイカーのようにいっぱい曲を作って、新たな方向性を模索してたんです。どれが自分の気持ちに素直かな、って。でもこれまでメロディを中心に考えて曲を作ってたから、それをなしにしたら、その代わりになる何かがないと居心地悪くて。それでいてオリジナリティがちゃんとあるものってなんだろう?って探してるうちに〈あ、唄おうかな〉と思って」
自分の気持ちに嘘がない、自然な流れだったわけですね。
「うん。変な下心なくまた音楽に関われたことが、自分にとってとても大事なことで。アルバムに『♯1』っていうなんでもないタイトルを付けたのもそう。フラットに音楽と向き合って、そこから生まれてきたものにいいなと思えたことが嬉しかったから。唄いだして、それが形になって、歌詞がついて、聴いてもらいたくなった。自然な流れなんです」