『音楽と人』の編集部員がリレー形式で、自由に発信していくコーナー。エッセイ、コラム、オモシロ企画など、編集部スタッフが日々感じたもの、見たものなどを、それぞれの視点でお届けしていきます。今回は女性アイドル好きの編集者が、NMB48の吉田朱里の魅力について綴ります。
私は女性アイドルが好きだ。彼女たちは嫌なことがあっても笑顔を保ち、華やかな空気を放ち、ファンに心配をかけさせるようなことをしない。私はそういうことをするのがどちらかと言うと苦手だ。昔から感情の浮き沈みが激しく、些細な出来事で大袈裟に喜びもするし、悲しくもなるし、腹が立ったりもする。今はだいぶマシになったけれど、新卒の頃なんかは本当にひどくて、失敗してはあからさまに落ち込む私を見かねた先輩から「心にATフィールドを張るんだ」と助言をもらったこともあるほど、自分の心の内はダダ洩れ状態だったと思う。そこからはなるべく「感情が一定な人風」に見せようと努めてきたが、そこに力を注ぐ自分に対してめんどくさいなとか、器用にこなせるような人を羨ましく思う瞬間が何度もあった。そんなこともあり、もともと小さい頃からアイドルは好きだったけれど、社会人になった7年くらい前から特にアイドルに対して尊敬の念を強く抱くようになったのだ。
アイドルの苦労は私には計り知れない。大所帯のグループであれば序列争いだってあるだろうし、体型やヴィジュアルもキープしなければいけないし、見ず知らずの人から心無い言葉を浴びせられる瞬間だってあると思う。それでもオンオフをしっかりと切り替えて、人前ではキラキラとした自分を演じることのできる彼女たちはカッコいい。彼女たちのように、自分も必要に応じて違う自分になりきれる術はないのか……とバカバカしいことを考えたこともあったが、その考えを根本から覆してくれたアイドルがいる。あくまでアイドルという括りで惹かれたのに、気がつけば人として好きになっていた人、それはNMB48の吉田朱里だ。アカリン(敬意と愛情を込めて、ここから先はそう呼ばせてもらう)を好きになったきっかけは、正直わからない。テレビかツイッターかミュージックビデオか覚えてないが、当時、黒髪ロングと色白な肌が特徴的だったその見た目に単純に惹かれたのだと思う。確か2013年頃には好きだったはずだ。新卒1年目の頃、さっきのATフィールド先輩にNMB48の「北川謙二」のMVを見せて、アカリンが抜かれる瞬間に「ここです! 見てください!」とか力説して、謎のアカリン推し運動を行った記憶は残っているので。
彼女はNMB48の1期生で、10年前に加入してからずっとNMB48をホームとして活動を続けてきた。その一方で、2016年からYouTubeに「女子力動画」と名付けた美容系の動画(メイクのやり方やスキンケアなどを解説するもの)をアップし続け、それらが大きな反響を呼んだことで、今やYouTuberとしての地位を確立し、さらには「B IDOL」というブランドのコスメのプロデュースを手掛けたり、女性ファッション誌のモデルとしても活躍したりと、もはやアイドルという一言では括れないほど活動は多岐にわたっている。アカリンの魅力を挙げると枚挙にいとまがないが、努力家なところは特に素敵だなと思う。こうやって書くとありきたりだし、努力家なアイドルなんてごまんといるだろうが、何がすごいって、はっきり言って彼女はグループの推されメンバーではなかったのだ。つまり、先ほど述べたアイドル業以外の仕事は全て彼女が能動的に動いてきたことで得たものであり、事務所が与えてくれたものではないのだ。
彼女が動画を上げるようになったのは、アイドルとしてどん底にいた頃、自身のツイッターに巻髪の作り方の解説動画をアップしたのがきっかけだという。思いつきでアップした動画に、いつもの何十倍もの〈いいね〉が付き、ネットニュースにまで取り上げられたことで、こういった美容系動画に需要があることに気づけたそうだ。そして今ほどYouTubeが盛り上がっていなかった2015年の年末、「YouTuberになります」と事務所の社長に宣言し、YouTubeの世界へ足を踏み入れた。そこからは、「アイドルの前髪はなぜ崩れないのか」「アイドルメイク術」など、「アイドル」という立場を活かした動画をコンスタントに上げていき、特別にゲストが出演していない動画でも、中には300万回近く再生されたものもあった。好きこそものの上手なれとはよく言うが、まさにその言葉どおり。大好きな「美容」を通じて、活躍の場を広げていった彼女の自己プロデュース力は本当に素晴らしいと思う。でも私がアカリンの一番好きなところは、そこじゃない。どんなに可愛く着飾っても、心は基本的に裸であろうとするところだ。そんな一面が伝わる私の好きなアカリンの動画を3本紹介しようと思う。
【1日密着】私生活丸見え。現役アイドル兼ユーチューバーの寝起きから寝るまで
(個人的ツボ)
〈アカリンFes.2020 ~可愛いをアップデート~〉(註:今年4月に開催予定だったが、新形コロナウイルス感染防止のため延期)のための打ち合わせで、大人に囲まれながらも臆することなく自分の意見をしっかりと伝えているところはカッコいいが、ブランド物のバッグを買ったあと、ファンからの見られ方をずっと気にしてしまうギャップが魅力的。
【パッキング】必需品!便利コスメなど...全部紹介するよ♡一泊二日in韓国 Packing Video
(個人的ツボ)
荷造りの参考になるのはもちろん、ご両親のそばで動画を撮影しているので、素のアカリンが垣間見えるところがいい。
【深夜のお悩み相談】赤裸々に語りすぎた、、、悩んでる時にみてね
(個人的ツボ)
「嫌いな人への接し方」についての回答だったり、アカリンより私は年上だけれど勉強になる瞬間が本当に多いなと実感。
こんなふうに、美容系のみならず素の部分を発信することも多いアカリンだが、個人的に印象に残っている……というか彼女に感謝しているのは、ステイホーム期間中の真夜中、彼女が寝るまでの間にInstagramのライヴ機能を使い、暗闇の中で自分の声だけを配信し、ファンのコメントに返事をしたり、その時々の自分の気持ちを吐露していたことだ。先の見えない日々の中、余計なことをごちゃごちゃと考えてしまいがちで、親にも友達にも電話するのが憚れるようなド深夜、リアルタイムで誰かの声を聴けたのは嬉しかった。交流と言っても、私の場合はコメントを投稿せず他の人たちが投稿したコメントを目で追いながらアカリンの声に耳を傾けていただけだったけれど、それはまるで、友達の家に泊まりに行った時、寝落ちするまで布団に潜りながら他愛のない話をするあの感覚に近くて、孤独な自粛生活の心の支えになっていた。素をさらけ出してくれる彼女に正直ここまで自分が救われるとは思っていなかったが、アカリンのファンの中で意外にこういう人は多いんじゃないかと思う。見た目、コスメ、雑誌――彼女を好きになったきっかけはさまざまだろうが、最終的には何よりもその人となりにハマってしまう。アカリン自身はNMB48に加入してからしばらくは王道アイドルになりきれない自分に苦しんでいたこともあったそうだが、自分らしさを貫き続けた彼女が今こうして多くの人に愛されている姿を見ると、等身大の自分で勝負していくことがやはり大切なのだと気づかされる。
そんなアカリンが今年NMB48を卒業する。卒業を記念して先日エッセイ本が出版されたが、そこには順風満帆とは言えなかったアイドル人生の中で感じた赤裸々な思いや、毎日を楽しく過ごすための秘訣などが格言的な台詞と共に綴られている。タイトルは『アイドル10年やってわかった"わたしが主人公"として生き抜く方法』だが、決して〈私が世界の中心!〉という自分本位な内容ではなく、家族や周りの人への感謝が非常に多く語られていて、〈常に誰かに支えてもらっているんだ〉という意識を強く持っている人であることが伝わってくるし、そういうところも好きだなとしみじみと思う。アイドルという籠から外へ出たあとの、これからの彼女の活躍もとても楽しみだ。
文=宇佐美裕世