『音楽と人』の編集部員がリレー形式で、自由に発信していくコーナー。エッセイ、コラム、オモシロ企画など、編集部スタッフが日々感じたもの、見たものなどを、それぞれの視点でお届けしていきます。今回は、レビューページを担当する編集者が自粛期間中の雑誌作りで感じた思いを綴ります。
緊急事態宣言の発令により、対面での撮影&取材は断念せざるを得なかった4月7日から5月25日――私が最も悩んでいたのは「レビューページ」である。
レビューページとは……このマニアックな編集部通信をわざわざ読んでくださるくらい『音楽と人』に愛を持っておられるであろうディープな読者の方(いつも本当にありがとうございます)には説明不要かと思うが、改めて説明させていただくと、編集部員を含む8人のライターがおすすめする最新作(音楽だけでなく、書籍や映画なども含む)を紹介するという内容である。私はこのページの担当者だが、上記の期間は今思い返しても、苦戦、苦戦、苦戦の連続だった。
というのも、皆さんご存知の通り、リリースが軒並み延期や中止となってしまったのだ。それはもちろんやむを得ないことではある。しかし、無事に発売前の音源や歌詞資料をいただき、「よかったあああ! 掲載できる! きゃっほう!」なーんて喜んだのも束の間、土壇場で延期になり掲載NG、ということもザラにあった。だからと言って、そんなふうに空いた穴を「無事にリリースされるこっちの作品でいっかぁ~」と適当に埋めてはいけない。あくまでライターが書きたいと思うもの、これが重要である。気持ちがしっかりと乗った状態の、心からの批評を掲載したいのだ。もし第1希望の作品が掲載できない場合、すぐ第2希望に切り替えるのだが、その第2希望の音源を取り寄せるのにもまた一苦労だった。普段であれば、例えこれまで弊社とあまりお付き合いのなかった会社の作品(=問い合わせ先を編集部員が誰も知らないようなところ)であっても、基本的には速やかに連絡をとり、音源を宅急便なりメールで送っていただいていたのだが、世間は絶賛リモートワーク中……なので、電話で問い合わせてみても連絡すらつかなかったのだ。「弊社はリモートワーク実施中のため、対応できかねます」といったような無機質なアナウンスが流れ茫然とした時の感覚は、今でも鮮明に残っている。
こんなふうに危機的状況に追い込まれていたが、4月はたくさんの方のご協力のもと何とか乗り切れた。問題は5月。リリースありきの作品に頼ってしまうと、また同じ目に遭ってしまうのではないか――ということで、リリースものではなく、この期間だから作られた作品、つまりリリースの予定はないが、リモートという特性を活かして作り、既に公開されている楽曲や映画を、レビューで取り上げる作品の候補として入れることに決めた。そこからは「リモート 制作 作品」などさまざまな検索ワードを駆使し、WEBで検索。逆境でこそ燃えるというか、ランナーズハイのような状態になってしまうのが私の特性であるため、この頃は無駄に熱くなっていた部分もあったと思う。それに、「レビューならびに次号の音人を楽しみにしてる読者が全国にいると思うと、うかうかしてられない! 仕事を万全な状態で行うために体調管理も徹底しておかねば!」と健康状態にも気を遣い始める始末であった。
余談だが、この時の心境はデビュー前のさくらももこさん(当時高校生)と同じだなと思った。さくらさんはかつて、目がキラッキラな王道少女漫画を『りぼん』に投稿し続けていたが、なかなか芽が出ず、自分にはその作風は合わないと思ったそうだ。そんな中、授業で小論文を書いたところ、これまでの人生でなかったくらい先生に褒められたそうで、その文才を活かしてエッセイ調の漫画に路線変更した。その途端、初めて漫画賞を受賞し、デビューに1歩近づいたという。それにより、「私を待っていてくれる少女がいるかもしれない。もう私1人の身体じゃないわ」と妊婦のような気持ちになり、健康に気を遣いだした……というエピソードが『ちびまる子ちゃん』の第4巻に収録されているので、ご興味のある方は是非ご一読を。
と、少し話は逸れてしまったが、ももこフリークな私は、勝手に過去の彼女の心情と自分を重ね合わせつつ、何だかんだこの期間の制作を楽しんでいた。それに、コロナ禍に限らず日々痛感していることではあるが、音楽雑誌というのは、何よりも音楽がなければ作ることができない。当たり前のことだが、そのことを痛感しない日が1日たりともなかった。だからこそ、取材に協力してくださった人たちには感謝の気持ちでいっぱいだし、それを手に取ってくれる読者の方々がいてくれること自体、とても幸せなことだなと改めて気づかされた。
そして、幸せだなと思ったことがもう1つ。それは、雑誌作りを通じて、人に会えない期間でも、人の赤裸々な感情に真正面から向き合えたことだ。アーティストとのインタビューももちろんそこに含まれているが、レビューページのエッセイでも、ライターの皆さんがリアルな心境を綴ってくださった。特に渡辺裕也さんのエッセイは、原稿が上がって確認してる段階で、あまりの悔しさに涙が込み上げてきた。コロナの影響で、生まれたばかりのお子さんには画面越しにしか会えない日々が続いたという。渡辺さんの気持ちを察するとどうしようもなく悲しくなるが、その一方で、ありのままを綴ってくださったことが本当にありがたかった。渡辺さんに限らず、皆さんがそれぞれの形で「今」の思いを吐露してくださったおかげで、いつもに比べて取り上げる作品のバリエーションこそ少ないかもしれないが、とても濃密なページに仕上がったのではないかと思う。書き手の温度がダイレクトに伝わる内容というか、『音楽と人』の名に恥じない1冊に仕上がったと思っている。入社してまだ3年目の自分が言うのも微妙な気がするが(笑)。それでも、この歴史に残るような期間に作られた数冊はとても思い入れの強いものになったし、学ぶことも多かった。
あ、今さらですが、この編集部通信、私のターンでは毎回「好きなもの」を綴ることにしています。今回は「レビューページ」です。好きなものというか、ぶっちゃけ最初は失敗の連続で、雑誌を作る上で苦手なページだった。でも、より愛おしくなったもの、と言ったほうが正しいかもしれない。
誌面もWEBも、これからも面白いものを作れるよう頑張っていきますので、どうぞ宜しくお願い致します。
文=宇佐美裕世