初対面だった。だからこんな繊細な歌詞を書く篠塚将行(ヴォーカル&ギター)は、きっと口数が少なく、その思いをなかなか口にしない男だろう、と思っていた。そんなイメージとはまったく逆で、本当によく喋る。1時間の間、まったく言い淀むことがない。しかしそれは、人への不信感の裏返し、なんだなと思った。ドラマーの脱退により活動を休止していたそれでも世界が続くならは、9月1日に新しいメンバーを迎え、正式に活動を再開し『彼女はまだ音楽を辞めない』をリリースする。この作品を聴けばわかるが、人を信じられなくて絶望しているということは、誰よりも人を信じている、ということだ。脱退によってバンドを休止させた彼は、その出会いによってバンドを再開させた。そういうことなのだ。彼はどんなに絶望したって、人に期待して、そしてその愛を信じている。だからこのバンドの歌は決して絶望しない。消えそうな光をどこまでも追いかけるのだ。
(これは『音楽と人』2019年10月号に掲載された記事です)
今回、活動再開ということですが、そもそも何でお休みされたんでしょう。
「ほんと単純なんですけど、ドラムが辞めたいって言ったことがきっかけですね」
活動休止を選ぶほど、バンドから1人抜けるっていうことは大きなことでした?
「そうですね。代わりがきかないバンドをやろうって、ずっと思っていたんですよ。そしたらいつの間にか、本当に代わりがきかないバンドになってたんです。もう1回ゼロからやり直す精神力が自分にはなさそうで……こういう時にこそ、夢とか希望みたいなエネルギーが必要だと思うんですけど、それが僕にあんまりなかったんです。もう漠然と、このまま続けるのは無理そうだなって」
それが今回、新しいメンバーが入って、4枚目のミニアルバムが出ることになったわけですけど、そんなにバンドはもう続けられないと思ったのに、もう一度やる気になった理由は?
「新しいドラムのカレンちゃん(ツチヤカレン)と出会えたのが1つ。それから残った2人がバンドをやろうと待ってくれてたのと、僕らのバンドが好きな人たちも同じように待っててくれたこと。それが大きかったですね」
そういう人たちが待ってくれているとは思ってましたか。
「思ってなかったっすね。もう呆れられてると思っていました。自分の音楽を好きな人とか、ライヴに来てくれる人に対して、裏切ってしまった気持ちでいました。でも、どうにかしてドラマー探して、転がりながら続けようという強い決意があるわけではなかったし、逆にきっぱり辞めてしまう覚悟もなかった。正直、どっちも決めたくなかったんです」
でも、ファンもメンバーも、篠塚さんはそういう人なんだっていうのをわかってるというか。
「そうですね……」
だから納得してる気がします。
「一番そういうのがわからないのは近しい人かもしれないですね。僕、あんまり相談とかしないんですよ。あと、あんまり自分の暗いところっていうか、心の奥底を見せるのが苦手で」
確かに、今こうして話してますけど、楽曲から想像した人とはまったく違うタイプで、ちょっと戸惑ってます(笑)。
「印象違うってよく言われます。でも、自分で言うのも変ですけど、相手の言葉が気になっちゃうんですよ。喋らなくていいんだったらそのほうが楽なんですけど」
黙ったまま15分無言でいるミュージシャンもいますよ。逆に聞いてもないことまで曝けだして喋りまくる人も。
「勇気がありますね。僕、それをやったら相手が辛いだろうなとか、そっちのほうが気になっちゃうんですよ。そう思うと僕も辛くなってくる。だからそういうことができる人って、バンドに向いてるなって思うんですよ。他人の顔色を気にせず、相手がどんな気持ちになるか関係なく、自分の気持ちを放てるじゃないですか。僕って相手次第で合わせてしまうんで、向いてないんですよね、きっと。なんか……上手く言えないですけど、たぶん僕は根が怖がりなんでしょうね」
嫌われるかもしれないとか、嫌な気持ちにさせちゃうかもしれないとか。
「そうですね。その人を傷つけてしまうことで自分も傷つくんじゃないかって思うから、何も傷つけたくないんですよね」
だからそういうのを言える場所が音楽なんでしょうね。
「そうですね。僕、音楽に出会わなかったら、もしかしたら自分が本当に思ってることを口にする場所が見つからなかったかもしれない。知り合いやバンドメンバーにも相談をしたことがないし。いじめられた時も、バンドやってる時も、相談の仕方がわからないままで。愚痴の言い方とかわかんないんです」
恥ずかしげもなく曝け出すんですよ、すべてを。
「それが音楽なんです」