ローファイな音像に、初期衝動あふれる歌声。BiSHのメンバーであるアユニ・Dのソロプロジェクトとして昨年始動したPEDRO。楽器を持たないパンクバンドのBiSHから、アユニはベースを手にし、一部楽曲の作曲と全曲の作詞を担当している。サポートギターに田渕ひさ子(NUMBER GIRL/toddle)を招いて作られたファーストフルアルバム『THUMB SUCKER』は、自身を解放し、音楽で遊んでいるかのような自由で素直な楽曲が詰め込まれていた。そこからは、この音楽を必要としている人が作った作品だということがたしかに伝わってくるのだ。人と話すことが苦手で、周りとうまく馴染めなかった彼女は、PEDROを通じてさまざまなことに気づき、少しずつ変化しているという。その過程に迫った初インタビュー。
(これは『音楽と人』2019年9月号に掲載された記事です)
インタビューは好きですか? それとも苦手ですか?
「私は話が下手っぴなんで、あまり答えられなくて。BiSHの時は大体他のメンバーが喋ってくれるので……1人は大変ですね。ラジオとかも苦手で、毎回死にそうになりながらやってます。でも頑張ります」
よろしくお願いします。アユニさんは、高校時代が楽しくなくて、それを変えたくてBiSHのオーディションを受けたそうですね。
「はい。北海道の工業高校で、あんまり女の子がいなくて友達ができなかったんですよ。中学は普通に楽しかったんですけど……高校はつまらないって感じで。姉がBiSH好きだったんでオーディションがあるのを知って、どうせ出来レースだから受かんないだろうって好奇心で応募してみたら受かってしまいました」
友達ができなかったから高校が楽しくなかったんですね。
「できなかったというか、自分から作ろうとしなかっただけなんですけど。女の子も何人かはいるんですけど、ギャルっぽい子たちばかりで、私とは合わないなって思ったから話しかけることもなかったし。何年か我慢すれば卒業するし、みたいな」
諦念してますね。昔から人とコミュニケーション取ったり、自分の思ったことを話したりっていうのは苦手でしたか?
「苦手でしたね。学校で先生に当てられても、赤面症だったんで、答えるだけで汗だくになったりして。それがイヤでどんどん言えなくなっちゃいました。昔から仲いい子とかは全然喋れるし、はしゃいだりもするんですけど、新しい環境にはなかなか馴染めなくて。1人で閉じこもっちゃう感じでしたね」
そういうタイプの人が東京に出てきて、人前に立つような活動をするって大変だったんじゃないかと思うんですが。
「大変でした……BiSHに入って3年経つんですけど、馴染むまでも1年半くらいかかって。こんな喋れるようになったのは、ほんと最近で。ここ1年ぐらいでようやく気持ちがラクになりました」
どうしてそうなれたんでしょう。
「うーん、環境に慣れたんですかね。今までは、メンバーにも自分から話しかけに行かなかったんですけど、知らず知らずのうちに打ち解けてて。BiSHはあまり干渉し合わないっていうのもあるんですよ。それは仲が悪いとかではなくて、個性的な人が集まってるんで、みんな自分の世界を持っていて、変に干渉しないで、お互いを理解してやってるので。私も自分の好きなようにいられますね」
こうしないといけないとか、誰かに合わせないといけないというのがなく、そのままの自分でいられると。
「周りに合わせないとっていうのはまったくないですね。最初はそういうことも気にしてたんですけど、今はなくなりました。一人ひとりが一個人としてちゃんといられる世界にいるからか、自分も一個人としてやっていけてる感じはあります」
BiSHを通して自分を出せるようになった感じですか?
「あ、でもBiSHのライヴとかで自分をちゃんと表現できているなって思えたのはほんとここ1ヵ月くらいで。やっと、って感じですね。PEDROも今回のアルバムでようやく自分のやりたいっていう衝動に駆られたことを表現できたので。PEDROがあったから、BiSHのほうでも変わってきたのかなとは思います」
PEDROは渡辺淳之介さん(註:事務所代表。BiSHのプロデューサー)に「ベースやってみない?」って言われたのが始まりですよね。言われた時はどうでしたか?
「渡辺さんの〈やってみない?〉は〈やれ〉ってことなんで、『はい』って言ったんですけど……〈なんでやらなきゃいけないんだろう〉って。当時は自分がピックアップされるのがすごくイヤで」
どうしてですか?
「私はひとりじゃなんもできないし、BiSHでも役割みたいなのがある中でやっていけてるだけなので。例えばメンバーでお母さんみたいな性格の子がいるんですけど、その子がまとめ役で。私は……目立たないタイプの人間なので、だからひとりでやるとか考えられないし、できないって思ってたんで、ソロデビューとかイヤだったんです」
みんなと一緒ならいいけど、ひとりで前に出るのは無理だと。
「はい。今は好き勝手やらせていただけて、すごく恵まれてるし幸せだなっていうのはわかるんですけど、当時は自分にはできないっていう気持ちのほうが大きくて。それに自分から何かをやりたいっていう欲もなかったんで、ただメンバーの足を引っ張らないようについていって、用意されたステージは精いっぱいやって、みたいな感じでした」
自分から何かしようっていうよりも、与えられたものを一生懸命頑張るっていう。
「そうでしたね。音楽も、普通に好きだったんですけど、そこまでいろんなバンドを聴くとかしてなかったし、それこそ楽器についても無知で。でもPEDRO始めてから海外のバンドも聴くようになったりとか、あとは関わる人が増えたりして、音楽の楽しさや尊さっていうのがわかって。そういう中で自分にとって一番心地いい、聴いてて気持ちいい音楽ってこれなんだっていうのが明確になってきて、〈こういうことをやりたい〉とか自然と思うようになりましたね」
自分がどういうものにワクワクしたりドキドキしたりするかっていうのが、わかってきたんですね。
「それまでは自分は何が好きなのかとかも考えることがあまりなくて。いろんなものに対してまず足を踏み入れなかったし。だからつまんないなって思う人生だったんだと思います。今は興味を示す物事が増えました」
どんなことに興味を示してます?
「やっぱりベースですね。最初はやれって言われて仕事のつもりだったんですけど、今はすっかり趣味になってて。あとはBiSHに入ってから映画のコラムを書くようになって、これも仕事として観てたものから、それがないと生きていけないくらい好きになりました。いろんなものに出会って、それが自分の生活の一部になって、人生豊かになってる気がします」