-真天地開闢集団-ジグザグ。このバンドがブレイクしたのは、そのギャップにあると思う。構成はバンドで、演奏もしっかりしているが、どんなに激しい曲でも歌メロが非常に美しい。さらにこのように作り込んだヴィジュアルで、世界観がしっかりあるにも関わらず、命-mikoto-(ヴォーカル)の声はそっちに行きすぎない落ち着きがある。設定を重要視しているものの、それがうまく機能せず、ネタと化す時も多い。面白いのは、その向こう側の素顔にみんな気づいているはずなのに、本人が一番無自覚で、ファンから教えられていることだ。彼はジグザグというバンドをやることで、自分らしさを素直に出すことを、そして本当の自分らしさを手にしたのだろう。アニメ『地獄先生ぬ~べ~』のオープニングテーマとなった新曲「P0WER-悪霊退散-」は、ヘヴィでぶっといギターリフに〈悪霊退散!〉というエモい叫びが印象的だが、それは、自分の弱い心に巣食う何かを振り払おうとする、彼の叫びでもある。
(これは音楽と人2025年9月号に掲載した記事です)
〈愚かな者に救いの手を〉というバンドのテーマは、これだけブレイクした今も変わってませんか?
「ギリギリ保ってます(笑)。そもそも一生ガチガチのコンセプトバンドをやりたかったわけではないんですけど、それがなくなると普通のバンドになっちゃうので(笑)、それだけは避けたい。だから残す部分はちゃんと残しておこう、って感じですね」
なるほど。
「僕ら、やってる音楽がバラバラなので、何かひとつ〈らしさ〉がないと、本当によくわかんないバンドになっちゃうじゃないですか。そういう意味で役に立ってるんですよ。この見た目とこの世界観とこのキャラクターがあるから、何をやってもジグザグになると思うんですよね」
やりたいことが自分の中でちゃんと形にできてる自負はありますか。
「もうやりたいことしかやってないです。でもこれに、こんなにみなさんがついてきてるのは……なんでなんでしょうね(笑)」
わはははは。
「僕もいつも思うんですよ。〈そんなにいいですか?〉って(笑)。確かに俺はいいと思ってやってますけど、今世間で売れてるものとはまったく異なるというか。目が前髪で見えてなくて、白くて、変な口紅塗ってて(笑)。いわゆる売れてるヒットソングとは違って、だいぶ流行りに乗ってない音楽をやってるのに」
ヴィジュアル系が集まるフェスに呼ばれることもないし。
「そうなんですよね。だからだいぶ異端児をやらせていただいているとは思うんですけど、それが横浜アリーナを埋めて、ホールツアーを廻る。ありがた過ぎるけど、みなさんだいぶ変わってますよ? 日本は大丈夫なのか?と(笑)」
はははは! 自信や自負は出てこないんですか?
「自分が作った音楽と声には自信はあります。ただ、先ほど言ったように、この規模感になるとは思ってなかったので(笑)」
やってみたいことは?
「あるけど、それはあんまり言えないかもしれない(笑)」
突然、目を出すとか(笑)。
「命様が目を出すことはたぶんないです。5年くらい前、お客さんが100人くらいの時代は、そういうことも考えてましたよ。でもここまで来ちゃったらもうダメですね。それはキャラクターが変わっちゃう。みんなの記憶に一発で刻ませて、アイコンになるためには、やっぱりキャラクターだと思ったんですよ」
でもそれを日常から徹底的にやろうとする感じでもないんですよね? 命になりきろうとしないというか。
「それはやれないです。なぜならそこまでの根性がない(笑)。スターになりたいって欲望も根っからない。僕はもともと裏方志望だし、ある程度結果出したら普通に地元に帰って、スタジオ経営とか考えてたし」
日常にいる時って、そんな華やかな自分でいられるものなんですか?
「日常は何も変わってないですね。何十年前から。最近、お金がちょっと入ってくるようになって、生活の水準がちょっと上がった感じはありますが(笑)。根本的なところは何も変わってないですね。髭面だし」
髭面なんですか(笑)。
「あ……あの、て、天界に住んでるんですけど(笑)。天界から地上に降りてる時の姿は、髭面のまま部屋着でコンビニに行ってます(笑)。僕はそもそも、あんまり変なプライドがないんです。こだわりもないし、つねに肩の力を抜いてる感じなんです。楽しんでやれればなんでもいいんですよ。ザ・アーティストとか、芸術家や職人気質の人ってすごくこだわりがあったり、曲げたくないものがあったるすると思うんですけど、僕は逆に、そういうものがあんまりないです」
今回の「P0WER-悪霊退散-」は『地獄先生ぬ~べ~』のタイアップだから、やりやすかったりしました?
「唄うテーマが明確なので、作りやすかったですね。とはいえ、昔のアニメの令和ヴァージョンですから。僕も『ぬ~べ~』といえば〈バリバリ最強No.1〉を聴いて育った世代なんで」
聴いてたんですね?
「あっ……前世の記憶です(笑)。でも、そのイメージは壊したくないんですよ」
でも歌詞の中に〈Show must go on?〉〈But I Can’t...〉という、自分に言い聞かせるようなパートが出てきますね。
「全体的には、ぬ~べ~先生の強さ、優しさ、愛、みたいな、普遍的なテーマで書いたんです。いろんな人に当てはまりますし、この時代の行き詰まりを解決するのは、人と人のつながりと愛、そして思いやりだと思ってるんで。でも、今のこの時代に生きていて『頑張れや』って背中たたかれても、無理な時だってあるじゃないですか。そもそも僕自身そんなに強くないし」
話してて、そうだろうなとは思いました(笑)。
「最近、自分も気づいたんです(笑)。もともと僕は、がさつで大雑把でザ・O型!みたいなタイプだと思ってたんです。でも意外と自分って繊細なんだな、打たれ弱いのかもしれないな、って」