ヒトリエというバンドの原動力。それは届かない存在や取り戻すことのできない過去との距離感、遠くにあるものへの憧憬であることが、ニューアルバム『Friend Chord』を聴けばわかる。リーダーであるwowakaを失ってから3人が守ってきたものは、今でもかけがえのないものだろうし大切な財産でもあるだろう。でも3人はこの5年間、それを必死に背負いながら、自分たちが囚われているものから解放されるのを待ち続けていたのだ。ロックンロール。3人を解き放ったのはそれだった。スリーピースのロックバンドだけが鳴らすことのできる必然の音とロマンチシズムに基づいたメロディ。ここまで彼らが憧れを鳴らすバンドだとは思わなかった。『REAMP』『PHARMACY』と3人体制で辿ってきた彼らのドキュメントは、ここで新たな局面を迎え、新しい物語をここから紡ぐことになる。2025年、一発目の名盤について彼らと語った。
(これは『音楽と人』2025年2月号に掲載された記事です)
3人体制になってからのアルバムと、今回のアルバムの違いってどこにあると思います?
シノダ(ヴォーカル&ギター)「まず3人体制になったタイミングでコロナ禍に突入したこともあって、しばらくライヴの本数が減ったり制限が多かった時期が続いたんです。そこから制限もなくなって初めて3人体制でのライヴが多くなって、しかも今年(2024年)はメジャー10周年っていうタイミングでもあって。慌ただしい1年を駆け抜けて作ったことが大きな違いですね」
前の2作とは違う状況が反映されたアルバムだと。
ゆーまお(ドラム)「そういう意味では一番ライヴに直結したアルバムになったと思います。実際ツアーを廻りながら作ってたし」
最初からこういうアルバムを目指してたわけじゃなく?
ゆーまお「〈次はバンドライクなものを作りたい〉っていう話はしてました。今まではシーケンスに凝ったものが多かったけど、そういうものではなく」
イガラシ(ベース)「先駆けで出した〈ジャガーノート〉ってシングルがあるじゃないですか。あれを作ってた頃のシノダって、ライヴでも3人の音だけで完結させたい欲求が強くなってた時期で。さらにそのあとブランキー(・ジェット・シティ)がサブスクを解禁したことで、空前のブランキー熱が訪れて(笑)」
そうだったんですか?
シノダ「影響をもろに受けました(笑)。それまで3人体制になってからは〈新しいものを作ろう〉っていう考えにずっと囚われてたんですよ。でもここにきて、小細工じゃないけどそういうことはやめて、三位一体のカッコよさみたいなのをバンドとして意識するようになって」
ちなみにwowakaさんがいた時からのヒトリエの歴史において、このアルバムはどんな位置付けになると思います?
シノダ「それぞれのアルバムの位置付けか……そういうのを今まで考えたことがなかったな」
2人はどうですか?
ゆーまお「今まで作ってきた中で一番邪念のないものだと思います。〈こっちのほうがいい、あっちのほうがいい〉みたいにいろんな意見を擦り合わせていく時間より、〈これだ〉ってすぐミートポイントを見つけることが多かった気がする」
イガラシ「3人が一番解き放たれてる作品だと思います。〈ヒトリエはこうあるべき〉みたいな意識より〈こうあってほしい〉みたいな憧れが勝ってる。あとやっぱりライヴハウスの景色ですよね。あそこで鳴らしたい音を目指したし、そういう音を選んだアルバムだと」
シノダさんはアルバムの位置付けを考えたことがないということですが、2人の発言を聞いてどうですか?
シノダ「そうですね……さっきそう聞かれてハッとしたんですけど、今回は一番解放されてるというか、ある種の無責任になってきたのかもしれない」
どういうことでしょう。
シノダ「これまではヒトリエっていうバンドを背負いこんでいたんですよ。それこそフロントマンとしてwowakaのあとを継ぐじゃないけど、バンドを背負って曲を書いたり歌詞を書いたりしてきた5年間で。4人から3人になったことで、足りない何かを埋めようとしてた。でもライヴの本数を重ねていくうちに、足りないなりに3人でも胸を張れるようになったというか、肩の力が抜けてきたというか、そんな気がします」
だからこんなアルバムができたんですね。
シノダ「こんなっていうのは……」
なんなんですか、これは。
イガラシ「……え?」
ゆーまお「どういうことですか?(笑)」
ヒトリエってこんなバンドだったんだってビックリしてます(笑)。めちゃめちゃロックンロールじゃないですか。
シノダ「……よかった(笑)」
ゆーまお「やっぱブランキーのサブスク解禁が(笑)」
お世辞抜きに最高です、このアルバム。
シノダ「ありがとうございます。嬉しいです」
背負ってきたものからバンドが解放された作品だと思いました。ここまでバンド感が強いのは初めてじゃないですか?
イガラシ「バンド感ってどういうことですか?」
さっきの発言にもありましたけど、三位一体のカッコよさだったり、ライヴハウスの景色を想起させる音だったり。そういう意味でのバンド感ですね。迷いがまったくない。
イガラシ「確かにそうですね。曲作りは大変だったけど、レコーディング自体は爆速で終わって。なんも迷いも滞りもなく」
シノダ「それはキミたちの演奏が上手いから。それですぐ終わる」