ペルシカリアのニューアルバム『神様は僕達と指切りなんてしないぜ』は、バンドが自分たちの理想とするところへ向かっていくための所信表明のような一枚だ。これまでは、矢口結生(ヴォーカル&ギター)が自身の情けなさやしょうもなさを歌にし、でもこんな自分を愛してほしいと訴えるようなところがあったが、このアルバムにはそれがあまりない。それよりもバンドのスタンスを示すようなアグレッシヴで情熱的なギターサウンドと、自分たちはこうやって進んでいくんだ、という力強い言葉が全体を先導している。情けなさもまだあるけれど、それはきっと矢口の変われない性みたいなものなんだろう。だが、出会ってきた大事な人のために過去の自分に手を振って、前を向いて変わろうとする姿勢が希望となり、このアルバムを力強いものにしている。未来への決意が詰まった一枚について、矢口に話を聞いた。
(これは『音楽と人』2024年11月号に掲載された記事です)
今年のUKFC on the Roadはどうでしたか?
「僕はUKプロジェクトに入った時から、ほんとに自分たちがいていい事務所なのかっていうのをずっと感じているんですね。たくさん先輩がいる中で自分はまだまだ足りてないなって思う面がたくさんあって、この場所に自分たちは見合ってないんじゃないかって。で、今年のUKFCはやっぱりまだまだ足りないなっていうのを痛感するようなライヴだったかな」
どんなところでそう思いましたか。
「自分たちの前のthe dadadadysがフロアの雰囲気をガラッと変えたんですよね。僕、ダディーズと対バンするたびに精神を病んでるんですけど(笑)。もうバンドとして完成しすぎてて、いつも自分の未熟さを強く感じさせられる。あの日もやべえやべえって焦っちゃって。でもバンドとしてボコボコにされる経験は大事だと思うので」
でもそれって辛いし、しんどいじゃないですか。
「めちゃくちゃ辛いですよ。なんで自分たちのレーベルのイベントでこんな悲しくなんないといけないんだ!って思いますよ。最年少だからもっと優しくしてほしいのに、先輩たちは誰も甘やかしてくれないし。でもそれだけ本気で向き合ってくれるカッコいい先輩が近くにたくさんいて、まだまだ足りてないって思えるのは、バンドが成長していくいい機会だと思うんで」
おお、前向き! 焦りはあったかもしれないけど、ライヴ自体はちゃんと曲を届けようっていう意識をすごく感じられたし、バックステージでも矢口くんの周りにはいつも人がいて、先輩たちからも愛されてるなって思いましたよ。
「そうですか? それこそダディーズの貞さん(小池貞利)には『もっとグイグイ来いよ。じゃないとかわいくねえだろ』って言っていただいてるんですけど、行くに行けないというか」
どうして?
「グイグイ行って嫌われるのが怖いんでしょうね。そういう僕のことを貞さんや兼丸さん(the shes gone)はわかってくださってるから、逆にグイグイ絡みに来てくれる(笑)。それは本当にうれしいんですけど、かわいい後輩になり切れてなくて申し訳なくなっちゃう」
もっと素直になれたらいいなって思いますか。
「思いますね。それこそからあげ弁当の焼きそばとかは、ほぼ同期なんですけど、アイツはグイグイ行けるタイプで、〈いいなあ〉って思いながら見てます。僕はそれができないから、せめてからあげ弁当よりはいいライヴしようって(笑)」
そういう張り合い方なんだ(笑)。でも、このアルバムを聴くと、バンドのスタンスや矢口くんの人との向き合い方も変わってきたんじゃないかなと思いますが。
「どうでしょう? あんまり何かこうしようと思って行動に移したことは少ないかな。意識的に変わっていったのはライヴスタンスぐらいですね」
ライヴスタンスはどう変わってきましたか?
「これまでのペルシカリアはラヴソングが多かったり、組んだのがコロナ禍だったのでライヴでのいろんな制限もあって、歌をちゃんと聴いてもらうっていうライヴが多かったんですね。お客さんとの距離の縮め方が難しかったというか。だからイベントに呼ばれる時も〈歌モノ〉にジャンル分けされることが多くて。けど、コロナも落ち着いてライヴの規制が緩くなった時に、モッシュやダイヴが起きて、今まで見たことないくらいフロアがぐちゃってなったんですよ。そんなのペルシカリアのライヴで想像してなくて。それからはそういうライヴをしたい――要はライヴバンドとしてやっていきたい、っていうのを意識するようになって。そこは変わったところだと思ってます。今回のアルバムもライヴで楽しく演奏ができるような曲を意識的に作っていったから」
フロアがぐちゃぐちゃになるライヴが好きなのはどうしてだと思います?
「目に見えてみんなが楽しんでくれてるのがわかるから、かな。コロナ禍はみんなマスクしてたから声も出せなかったけど、今は自分が作った曲をみんなが大きい声で唄ってくれたり、中にはぐちゃぐちゃに泣きながら唄ってくれてる人もいて。そういうのを見ると、ちゃんと届いたんだなとか、大事にしてくれてんだなとか、音楽で感情がキャッチボールできてるみたいで、それがすごく楽しいんです」
つまり、お客さんとの距離が縮められた感覚があるってことですよね。それって、この人たちは自分のことをわかってくれた、っていう気持ちにもなれたりするもんですか?
「100%僕のことを理解してくれてるとは思ってないです。でも……僕はネガティヴな人間なんで、こんな僕みたいな人間が作った曲をみんなが唄ってくれるとうれしいんですよ。みんな無理してるんじゃないかな?って考えることもあるけど、でかい口を開けて唄ってくれてる人たちの表情を見るとそんな心配も吹っ飛ぶぐらい安心するというか」