今でもウジウジする時はありますよ。でも進み続けるしかないっていうのは、僕の価値観のひとつになってる
前のEP「俺様は世間に用がある」の時に、とにかく自分のことを歌にして、こんな情けない自分を認めてもらいたい、愛してもらいたいんだ、と言ってましたよね。
「自分はまっとうな人間ではないとは思うので、僕のことを認めてもらいたい、こんな情けない自分と似てる人を見つけたい、みんなに肯定してもらいたい、って気持ちは前のEPの中にはありましたね。でも今回のアルバムは、共感してほしいとかっていうよりは、ライヴに来てくれる人、音源を聴いて好きって言ってくれる人たちに対して意思表示みたいな感じになってるのかな」
そうですよね。それって、ライヴを通して自分を肯定してくれる人の存在を感じられたから、そういう方向に向かえたのかなって話を聞いてて思いました。
「たしかに、情けない自分を認めてもらった先で、自分たちが強気になって言えることを言ったのがこのアルバムかなって思う。歌モノからライヴバンドになるって決めてから、離れていくお客さんもやっぱりいたんですよ。あの子もうライヴに来なくなっちゃったなってことがあって。ライヴをもっとよくしたいから決めたことだけど、一度好きになってくれた人が離れていくのはすごく寂しかったんです。本当は誰からも嫌われたくないので。でも自分たちはこういうふうにやっていくよって意思表示するほうが今は大事だった。だから今回はけっこう強気に出たと思います、僕にしては」
その思いが強く出てるのが「黎明」という曲ですね。
「そうですね。〈過去に手を振ろう〉って唄ってますけど、自分たちがバンドやってるうえで、変わり続けるために切り捨てないといけない過去もあって。そういうのを歌にしました」
その過去ってどんなものですか?
「さっき言ったようなライヴに来なくなっちゃったファンもそうだし、あとは唄わなくなった曲もあるんですよ。これからやっていきたい俺らのライヴ像には合わない曲というか。全部を持ったままその先に行けたらいいけど、バンドがシフトチェンジしていく中で、楽曲もそうだし、お客さんや友達、関わってくれるスタッフの人とか、全員とは一緒に歩けないじゃないですか。各々の進みたい道があって、必ずしもそれがぴったり同じ方向ってことはないだろうから。それに対して葛藤や寂しさもあるけど、今は目を背けて、とにかく前に進もうって」
これまでインタビューしてきて、矢口くんはいろんな物事をスパッと割り切れない人だと思っていたので、「黎明」で唄ってることはすごく意外でした。
「新鮮かもしれないですね。でも今はそれぐらいやんなきゃいけないと思っている。〈振り向いても/戻れない過去しかないだろ〉って言ってるように、振り返ってる暇はないんですよ。今までは確かに振り返ってウジウジしてた。酔った勢いで大口叩いたり、他力本願になって誰かが手を差し伸べてくれるのを待ったりしてた時もありましたよ。そういうことに意味はないって薄々感じつつ、もしかしたら意味があるかもしれないと信じて繰り返してきた結果、やっぱり意味がなかった(笑)。それに気づいたんですよね」
いつまでもウジウジしててもしょうがないと。どうしてそこまで思えるようになったんですか?
「ライヴを繰り返してるうちに、大事なものが増えていったんですね。去年から今年にかけて、ツアーがあったりイベントに呼んでもらえたり、遠征する機会も多くて。大事な人、大事なハコ、大事な地域、そこに住んでいるお客さん、もちろんメンバーやスタッフもそうだけど、そういう大事なものが増えていくたびに、この大事なものにまた会うためには進み続けないといけないし、もっとカッコよくならないといけないっていうのを、ツアー中にふと思って」
振り返ってるばかりじゃ再会できないかもしれないと。
「はい。もちろん今でもウジウジする時はありますよ。本当にいろんなことが嫌になって、自分を壊したくなる時もあるけど、〈黎明〉で唄ってるような思考も、昔に比べたら根づいたというか。とにかく進み続けるしかないっていうのは、今の僕の価値観のひとつになってるかもしれないです」
それだけ大切な場所、大切な人に出会ってきたし、そういう人たちと何度でも再会したい、一緒にいたいから矢口くんは今変わろうとしてるんですね。
「そうですね。『お前はお前でいろよ』とか、『君はそのままでいいよ』って、ウジウジした自分を肯定してくれる人もいるけど、それって優しさのようで期待されてないのかなって気持ちになることもあって。成長しなくていいよ、みたいな。その人は優しさで言ってくれてるんだろうけど、そういう人すら、次に会った時にビックリさせられるような自分でいたい。だから、まだまだ全然ウジウジしてるんですけど、ちょっとはポジティヴになったのかなっていう。それが音楽に出てきていると思います」
あんなに自分のダメな部分を認めてほしいと唄っていたのに、今は正反対ですね。
「やっぱりライヴやってなかったら会えなかった人とか行けなかった地域とかがあるんですよ。で、ライヴハウスの店長さんとかが『また来てください、またよろしくお願いします』って言ってくれる。こんな自分の帰りを待ってくれてる人がいる。そんなうれしいことはないし、俺もまた会いたいって思うし」
まだまだ寂しさやウジウジした自分もいるけど、そういう誰かの思いを受け取ったうえでの覚悟や決意が滲んでるから、このアルバムはいいんでしょうね。
「だから最近は考えて考えて、何が大事か、何がいらないか、それを見極めているんですよ。でもそのぶん、視野が狭くなってるのかなとも思ってて」
そう思うんですか?
「はい。優柔不断でウジウジ悩むこともあるけど、こうだ!って言い切っちゃうことも多くなったから。だから最近……誰にでも当てはまる歌詞を書けてないなって」
そんな歌詞は世の中にないです(笑)。
「ははは! まあ、そうですね。たしかに」
それに視野が狭くなったとは思わないですよ。このアルバムって、僕の曲ばかりじゃなくて、僕と君の曲が多いじゃないですか。どの曲も誰かの存在を感じられる。それだけ、矢口くんの視野は外に開けてきているんじゃないかと。
「ああ、それはうれしいです。誰かが見えてくるっていうの、意図してそうしたわけじゃなくて、自分の気持ちを書いてたら、たまたまそこに人がいただけなので。たしかにこれまでは自己完結的な曲が多かったけど、登場人物がもう1人増えてますね。それは気づかなかったです」
「いつからか」で〈知らない何かに挑むことも/1人じゃないって思えたのも/君と過ごした日々のおかげなんだ〉って唄ってるじゃないですか。
「本当だ、1人じゃなくなってる!(笑)」
(笑)大切な出会いがたくさんあって、そういうもののためにカッコいい自分に変わりたいって思えるのは、すてきなことだと思います。その中で矢口くんが感じていることを素直に音楽にしていけば、100人中100人に伝わらなくても、たった1人にものすごく深く突き刺さるようなことがあるはずだから。
「ありがとうございます。刺さってくれたらいいな」
だから打ち上げでも、先輩たちにもっと素直に甘えてもいいんじゃないですか?
「いや、それはまだ難しいです!」
文=竹内陽香
NEW ALBUM
『神様は僕達と指切りなんてしないぜ』
2024.09.25 RELEASE
- 風道
- 優しい人(Album ver.)
- 黎明
- ハウオールドアーユー
- 情けない
- HOME(Album ver.)
- えそらねがいごと
- いつからか
- バンドをしている(CD限定ボーナストラック)
〈From Majix tour 2024〉
10月19日(土)神戸 太陽と虎
w/ bokula.
SOLD OUT!
10月20日(日)名古屋 CLUB ROCK’N'ROLL
w/ Brown Basket
SOLD OUT!
11月30日(土)大阪LIVEHOUSE BRONZE ※追加公演
w/ Arakezuri
12月01日(日)名古屋RAD SEVEN ※追加公演
w/ 東京、君がいない街、kurage
12月14日(土)渋谷Spotify O-Crest ※追加公演
w/ アルステイク