トラディショナルなギターリフ始まりに、にぎにぎしい大合唱。今の境地を〈人生の大サビ〉に譬え、なるべく豪快に、一ミリの悔いも残すことなく、最高の花火を打ち上げる! まさに結成40周年の始まりに相応しいロックンロール・ナンバーである。怒髪天の最新曲「ザ・リローデッド」。配信だけでなく、隠れた名曲「ハナオコシ」の再録ヴァージョン、さらには知られざるメンバーの自伝も付随したパッケージCDが登場するなど、なかなか大切な節目の一作となりそうだ。もはや青くもない57歳。残された時間を思い、やれること、やれないことを改めて振り分けつつ、自らを奮い立たせるために唄うだけ。取材は友達の訃報が届いたばかりの時期だったが、兄ィの言葉が今はどれだけ心強いか。みんな、自分のやれることをやっていくだけ。そうだろ?
(これは『音楽と人』2024年2月号に掲載された記事です)
2024年、怒髪天40周年の一発目シングルです。
「そう。ここからの40周年もそうだし、あとは60歳に向けて。〈さぁこっからやるぞ!〉って、自分たちの指針になる、テーマ曲になるものを作りたいと思って、いろいろ話した結果ね。配信だけど、昔で言うところのシングルカット」
いくつもある候補の中から選んだ曲ですか?
「いや、これはもうこの曲だけ。このために作った。先に歌詞が欲しいって友康(上原⼦友康/ギター)が言ってたから、何パターンか書いて送って。その中からこれが選ばれて」
バンド内、そして友康さんの中でも、先にテーマとなる言葉が欲しかったってことですよね。
「そう。もちろん〈さぁやるぞ!〉ってことではあるんだけど、年相応というか。あんまり青臭くないものを作りたくて。だけど元気が出るもの、自分たちを鼓舞するものがいいだろうと。過去にもそういうテーマとなる曲はあって、その流れを汲んでるけど、そのうえで今の俺たちを一曲にしたかった」
年相応の元気。難しくはありますよね。書く作業は楽しいものなのか、なかなか苦しいものだったのか。
「んー、俺、わりとざっくり書いたやつをギリギリまで修正したいタイプなの。もう推敲に推敲を重ねるタイプなんだけど」
ロックミュージシャンって、結局ファースト・インプレッションが一番だと言う人が多い気がしますが。
「俺はめちゃくちゃ練るよ。一時期はローマ字で書き起こして、最初の言葉と最後の言葉、母音と子音が被ってないか、すっごい神経質にチェックしてた。ただ、そのあとスガ シカオと呑んだら、あいつ全然直さないんだって。『直すともったいないじゃん、その時の気持ちが』なんて言ってて」
へぇ。イメージと違う。真逆なんですね。
「良し悪しだよね。あんまり練りすぎても確かによくないってこと、ここ10年くらいで気づいてはいて。最初ざっくり書いた歌詞に、友康は完全にメロを当てちゃうし、そこから練っていくと、やればやるほど収まりがよくなりすぎる。なんで作ったかって、自分の気持ちをぶつけることが一番の優先事項だったはずで。でも推敲していくと、曲としての芸術点は上がるけど、気持ちの純度は下がっていく。だから今回はそれを極力やらずに作った。なるべく直さない形、ファースト・インプレッションで出していって。だからこそ多少の青さも残ったのかな。あんまり老成してない、スコーンと抜けた感じがほしかった」
そこで出てきたのが〈人生の大サビに乗って/決戦の地へ!〉という言葉。これはどんなイメージから生まれたんですか。
「自分の人生がひとつの曲だとして。まぁイントロから始まり、歌が入ってきて。今ここから60歳になるっていうのは、曲で言ったら、Bメロもサビも一回は終わってる段階。やっぱり最後の大合唱、大サビにいよいよ来るかなって感じだよね」
あ、合唱なんですね。増子さんらしいです。独唱じゃなくてみんなで唄いたい?
「そうだね、大サビだから。今までのもの全部背負って、今まで出会ってきた人も全部入って、ものすごい合唱で俺を押していくという(笑)。この曲で書いてるように、どんな終わりだろうと、まだ俺の人生ケリはついてねぇ。そこだけが一縷の望みというか、やっていく理由だよね。とにかく最後まで見る、最後のページまで自分の手でめくるっていう」
それが〈決戦の地〉という言葉になるんですか。
「そう。死んだら負けって言うけど、どっちにしろ死んじゃうんだから、そこに勝ち負けなんかないよね。結局、そこにたどり着くまで、なんだよ。ゴールインした時が最終決着なんじゃなくて、実は過程のほうが大事。それは俺だけじゃなくて、我々世代みんながそう。あと何回勝負できるのかわからないけど、いよいよ大勝負、最後の勝負に差し掛かっていく時期。そこに向かうためにもう一回ふんどしを締め直すというか」
それはバンドに限った話ではなく?
「バンドだけの話じゃない。バンドやってるのもそれぞれ個人だし、観に来てる人たちにも、それぞれに決戦の地があるわけで。そこに向かう背中というかね。ただ……こうやってどんどん歳食っていけば、いろんなことがわかると思ってたんだ。でも今、いよいよわかんなくなってきた」
ん? たとえばどんなことですか?
「いや、どんなにいい人生でも、どんだけお金持ってても持ってなくても、大事なものがあってもなくても、なーんにも持っていけねぇんだなって思う。何も持っていけないのに、ふと思うよね。〈俺なんでこんなソフビ持ってるんだ?〉とか」
ふふふ、ソフビ(笑)。
「あとは人との繋がりもそう。どれだけ大事にしても、これだって何ひとつ持っていけない。最後に俺は何が欲しいのかなんて、昔よりも今のほうが全然わからなくなってる」
より具体的になってくると、「カッコよく笑って死ねたらいい」なんて言えなくなるわけですよね。
「そうだね。今わかってる理想って、健康でバンド続けてられるっていうことくらい。それが一番なんだ。それ以外……うーん、何も特にないもんなぁ」