あの男たちが帰ってきた。
曲の名前は「ホテルニュートリノ」。前回のドームツアーの間に発表した「未来はみないで」から、4年近くのインターバルが空いての新曲である。
2024年のTHE YELLOW MONKEYは、ここから始まる。
その音の響きに、心がざわつき、胸が高まった。秋のWOWOWのドラマ『東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた-』の主題歌としてOAされていた「ホテルニュートリノ」は、本当にロック・バンド然とした仕上がりだ。サウンドには彼らが長い年月とともに築いた強靭さが宿り、しかもそれを形作るのは裏のリズムのニュアンスをたっぷり含んだビート。スカを彷彿とさせる律動はTHE YELLOW MONKEYでは珍しく、そこに今までにない感覚がのぞく。また、粘っこく狂騒的な音色を発するシンセのサイケな匂いも、ありそうでなかった領域である。積み上げてきたあらゆるものを今の4人で表現しながら、そこに新生面が秘められている気配も香るのだ。先日ドラムのアニーが、今のバンドには新しいグルーヴがあると話したことが、フッと頭をよぎる。
そして、吉井和哉による歌詞。彼はこの曲について、「人間の身体は意識(魂)を宿しているホテルのようなものなのかなと思います。いわゆる高級ホテルから廃墟のようなものまで。そしてそれぞれのホテルを人生の旅が終わる頃にチェックアウトするのでしょう。」とコメントしている。言葉としてはやや抽象的な表現を交錯させながらも、〈ドミノは一瞬にして崩れてゆく/コツコツとただ 日々重ねても無残に〉とか〈人生の7割は予告編で/残りの命 数えた時に本編が始まる〉など、人生というものの難しさ、複雑さを感じさせるストーリーになっている。曲のタイトルも含めてテーマになっているのは人間についてのことだろう。イタリアの街トリノ、さらには「素粒子」を意味するニュートリノ、そのホテル……さまざまな意味を抱えながら、人間たちの生きる姿が重なって映し出されているかのような歌詞。多彩な色が入り乱れる不可思議な物体が映されたジャケット写真も、これらに関係しているのだろう。
そんな「ホテルニュートリノ」だが、ここに希望がないわけでは、決してない。終わり近くの〈いつかすべてが許されるなら/煌めく太陽の下 抱き合いたいな〉というフレーズのように、吉井はまるで祈るような、願うような切実さをまといながら、まっすぐ唄っている。そう、彼の歌声も戻ってきているのだ。この数年、喉の病気で療養中であったことを発表し、吉井はソロの場で思うような動きができなかった。今回のバンドの活動再開は、誰しも待ち望んでいた復帰となる。
元日からは曲のMVも公開されていて、トラックが横転するような荒涼とした大地の映像は、どこか映画『マッドマックス』シリーズさえ彷彿とさせる。そこにこのバンドらしいデカダンスやグラマラスな華麗さがひしめきながら、ダイナミックに表現されている。
ところで先述のアニーの話が出たのは、昨年12月28日、ファンクラブ会員向けに行われた生配信でのことである。この配信の内容は、基本的には4人のトーク。バンドにとって34回目の誕生日であるこの日、THE YELLOW MONKEYは恒例の日本武道館でのライヴを行うはずだった。それが吉井の声が万全な状態に戻らなかったために中止となり、かわりに武道館のアリーナを使ってメンバーが日の丸の下でトークをする企画に変更になったのである。
ここで司会を務めたのは還暦を迎えたヒーセ(ベース)で、日本酒入りの升での乾杯に始まり、4人は武道館でのライヴヒストリーを振り返った。エマ(ギター)は風邪をひいて声がガラガラで、そのしわがれ声に関連して吉井が前日に勝新太郎のベスト盤を聴いた話をしたり、またファンからの質問に応えるコーナーもあったりと、和気あいあいと、肩の力の抜けた話が続いた。さらに今年の3月に各地のZEPP全5ヵ所を廻るファンミーティングを開催すること、それも各日2回回しで、トーク中心ながらセッションもあることが発表された。
そして生配信の終盤には、キーボードの鶴谷崇も加えたアコースティック編成で2曲が演奏された。心配していた吉井の歌は十分に豊かな、いい響きで、思った以上の声量には安心感を覚えたほど。披露されたのは「Subjective Late Show」と「SLEEPLESS IMAGINATION」という初期の2曲だった(前者は彼らがリハーサルに入る際に手始めに演奏することが多いと言っていたナンバー)。タンバリンを叩く吉井と、それに寄り添うように演奏する彼らをモニター越しに見ていたら、つい胸の奥がギューッと締まるような感慨を覚えた。なにしろこのバンドに限らず、メンバー同士が元気に集まり、笑顔で演奏して音楽を続けられるのが当たり前のことではないと意識せざるをえなかったこの何年か。彼らの新たなる旅立ちを大きな拍手で迎えたいと思った。
4月27日、およそ3年ぶりとなる東京ドームでのステージに、4人は万全の状態で臨んでくれるはずだ。吉井にとっては一昨年の1月以来、2年3ヵ月ぶりに公の場でのライヴパフォーマンスとなる。
とにかく、この2024年。
THE YELLOW MONKEYが再び、帰ってくるのだ。
文=青木優
NEW DIGITAL SINGLE
「ホテルニュートリノ」
2024.01.01 RELEASE
THE YELLOW MONKEY SUPER BIG EGG 2024 “SHINE ON”
2024年4月27日(土) 東京ドーム
Open 16:00 / Start 18:30
チケット:
[SUPER指定席] 19,000円(税込)
[指定席] 11,000円(税込)
[バルコニー席] 13,000円(税込)
[注釈付き指定席] 10,000円(税込)
※6歳以上チケット必要(但し、6歳未満でも座席が必要な場合はチケット必要)
THE YELLOW MONKEY SUPER BELIEVER. Meeting 2024
2024年3月6日(水) 東京・Zepp Haneda
2024年3月10日(日) 名古屋・Zepp Nagoya
2024年3月15日(金) 大阪・Zepp Osaka Bayside
2024年3月19日(火) 札幌・Zepp Sapporo
2024年3月27日(水) 福岡・Zepp Fukuoka
※OFFICIAL FAN CLUB BELIEVER.会員限定
※各日2公演/詳細は特設サイトをご覧ください