『ACTOR’S THE BEST -Melodies of Screens-』は、芸能活動25周年を迎える彼女のキャリア――俳優でありアーティストである自身の足跡を集約したアルバムだ。映画やドラマなどで主演やヒロインを演じてきた作品の主題歌を自身の歌でリメイク、さらに「月のしずく」や福山雅治とのユニットKOH+「最愛」などの主題歌も収録した一枚となっている。この作品から見えてくるのは、パブリックイメージとは異なる怖がりで内向きな彼女が、いつの時代においても音楽にその内省を吐き出してきたことだ。さらに、そこに留まることを良しとせず、彼女は音楽の力を頼りに自身を解放し、自分以外の他者に目を向けたり、社会に貢献するための土台を作り上げてきた。そんな彼女と久しぶりに取材をすることになった今回、かつて本誌で「甘美な孤独 呟くが如く」という連載で心根を綴っていた頃の自分から振り返ってもらうことにした。
(これは『音楽と人』2024年1月号に掲載された記事です)
「大変ご無沙汰しております」
ご無沙汰しています。こうしてお会いするのはいつぶりなのか、わかり――。
「わからないです」
返しが早い(笑)。たぶん2014年ぐらいが最後なので、9年ぶりとかですね。
「お元気でした?」
なんとかやってます。久しぶりなので当時を振り返っていただきますが、毎月の連載は大変でしたか?
「大変な時もあったけど、楽しかったですね。書きたいことを好きに書かせていただいて。自分の心に溜まったことをいつも書けてたし、あそこで書いたことが歌詞に繋がったり、ツアーの構想にも繋がったりして。気持ちの中にあってもまとまっていないものをアウトプットして、そこにストックしておく感じだったので、あとから〈そういえば〉みたいに思い起こしたりして、それがいろんなアイディアに活かされていった気がします」
あの連載をやる以前、自分の思っていることを定期的に言葉に吐き出す行為は……。
「作詞しかなかったですね。もともと悶々と何かについて考えるのが好きなタイプなので」
考えることが好きな人はいても、〈悶々と考える〉のが好きな人はあんまりいないような気がします(笑)。
「そうですか? まぁでもあの頃と比べたら少しは大人になったので、考えることも多少はポジティヴにはなってきてるんじゃないですかね。誰に何を言わずとも、考える事柄とか考え方は前向きにはなれてると思います」
初めて柴咲さんを取材したのが15年前で。俳優の柴咲さんのイメージとは違う内省的な歌詞を書くことに興味を持ったのがきっかけだったんですけど、当時の自分が歌を唄ったり歌詞を書く理由って何だったと思います?
「そこは今も変わってないと思いますよ。周りの人たちが決めてくれたCDデビューという企画があって。でも自分には何の実績もなかったから、自分の感情とか意志とは関係ないところで企画だけ先行するのが嫌だったんです。だから『カップリングでいいから歌詞を書かせてくれ』って」
それが「no fear」という曲で。
「自分からアウトプットしたいものがないのに、歌を唄っても意味ないじゃん、みたいな反骨精神があって。それで歌詞を書かせてもらうことになったんだけど、その気持ちが今もずっと続いてる感じではありますね」
今の説明、15年前の取材とほぼ同じでした(笑)。
「ほんと?(笑)」
自分っていうものがないまま、物事を進められることも不安だし、怖いし、どうなるかわからないと言ってました。
「そうですか。たぶん、音楽は自分にとって変わらないものなんだと思います。とはいえご時世も変わったり、年齢を重ねてきたことで、音楽も自分のためというよりかは、自分の役回りとか使命感みたいなものを考えるようになったところもありますね」
今回の作品もそうですが、自分のことよりも自分以外の物事に目線が行くようになったと?
「今はそうですね」
どうしてそうなったんでしょうか。
「年齢を重ねてきたって言いましたけど、それ以外のところで言うと……自分が取り組む仕事って、自分以外の人たちの準備とか労力の上に成り立っていることが多くて。自分のために用意された空間があって、それがなければ私はカメラの前に立つことができない。で、そういう自分の周りにいる裏方というか裏側みたいなものを知りたくなって」
どうして?
「たぶんそっちのほうが好きなんですよ。コツコツとみんなでモノを作る過程が好きで。でも、たまたま10代の頃にスカウトされて、生業的な理由からこの仕事を始めて、モノを作る過程をすっ飛ばして用意された場所にストンって置かれる立場になると〈自分はすごいんだ〉って勘違いしてしまうこともあって。だから、その場所を作るまでの過程にいろんな人が集結して、クリエイティヴを積み重ねていく。その工程に興味があったんだと思う」
その興味のベクトルを自分に向けたものが、柴咲さんにとっては音楽であると。
「うん。内省的だし、自分で構築できるじゃないですか。例えばツアーをやるにしても、どういう舞台にしたいとか、そういうことを考えるのも楽しいし。お芝居は脚本がなかったり監督さんがいないと話にならないし、自分にできることは限られているけど、音楽はもうちょっと前段階から関わることができる。そこが大きいですね」
会社を自分で立ち上げたのも、同じような動機ですか?
「自分の人生に納得したいっていうのはあったのかな。周りの人にやってもらったり準備してもらってるだけじゃ、埋まらないものが自分の中にあって、どこかで一般社会の一員としての場所が欲しかったというか。あとは何でも体験してみたいっていう好奇心かもしれないですね」
でも、こう見えて柴咲さんは怖がりじゃないですか。
「出た、樋口節(笑)」
ははは。臆病だから歌詞に吐き出したり、音楽に救いを求める人でもあって。
「今は違うかもしれないよ? もう怖がりじゃないかもしれないし。もちろん根本の部分は変わらないけど、少しは成長したんじゃないですかね。あの、最近新しい猫を飼い始めたんです。で、その子が昔の私とすごい性格が似てて。普段はものすごいシャーシャー言うんですよ」
気性が激しいんですね。
「だけどグルグルグルグルグルって甘えるし。たぶんシャー!ってなるのは、それだけ自分でまずはやってみないと気が済まないからで」
あとは、怖がりだからシャー!って威嚇するのかもしれない。
「それこそ私が大河ドラマで主演をやった時の『やってみねばわからぬではないか』っていうセリフは、脚本家の森下さん(森下佳子)が当て書き的に書いてくれたんですけど、それってまさに〈怖がりだったとしてもやってみないとわからないじゃん!〉っていう自分のことでもあって」