【LIVE REPORT】
〈BUCK-TICK TOUR 2023 異空-IZORA- FINALO〉
2023.09.17 at 群馬音楽センター
35thアニバーサリーイヤーの締めくくり。高崎の群馬音楽センターはキャパ2000人のレトロなホールで、ステージはわりと狭く、音響設備も最良とは言い難い。BUCK-TICKとしても久しぶりに使う会場なのだとか。
12000人を収容する横浜アリーナで、最新式LEDスクリーンを駆使していた一年前を思い出す。記念すべきデビュー35周年の幕開け。打ち上げる花火の規模で言えば、それはもう圧倒的に派手で物々しいステージだった。受け取るものの重さもまた然り。あれから一年、ずっと何かを引きずっていた気がする。
具体的に言うなら疫病と戦争だ。健康や平和、子供たちの笑顔など、これまで疑わずに続いてきたものが急速に脅かされる時代になった。前作『ABRACADABRA』の対面コンサートは行われず、その後のツアーもメンバーの怪我やコロナ感染により否応なく飛んでいく。いっそのんびり休むという選択もアリかもしれないが、残された時間を思うメンバーは誰も首を縦に振らなかっただろう。待ったなしで迫ってくるのだ。次々と仕込まれるアニバーサリー企画、当初は2枚組になるはずだったニューアルバム、すでに予定の組まれたツアースケジュール……。
『異空 -IZORA-』の冒頭から聴こえる〈逃げられない もう何処へも〉の言葉は、35周年を迎える直前の、櫻井敦司の本音ではなかったかと思う。祝ってもらえるのは大変ありがたい。だが当時は声出しもNGだ。浮かれて神輿に乗る気にはまったくなれない自分たち。あのステージで披露された「相変わらずのアレ〜」の演出は一生忘れられないホラー映画のようなインパクトを残したし、唯一の新曲はウクライナの現実を見つめた「さよならシェルター」だった。おめでたい祝祭のムードは、どこにもなかった。
戦争の歌は新作でさらに増えた。「Campanella 花束を君に」や「太陽とイカロス」。さらには逃げ場なき憂鬱が「ワルキューレの騎行」や「ヒズミ」となり、具体的なキャラクターに進化していく。4月から7月まで続いた〈TOUR 2023 異空-IZORA-〉で見たものは、本気で物語に入り込む櫻井の凄まじい表現力だった。ままならない現実、切迫してきたバンドの今を、歌の舞台に落とし込む。徹底的に演じることでエンターテインメントに変えてみせる。その根幹には、常に〈逃げられない もう何処へも〉の切迫感があったと思っている。
その最終幕。同時に35thアニバーサリーの終焉。ふたつの終わりが重なるコンサートは多少趣が違っていた。選曲はツアーの流れを汲んではいるが、今までなかった「ICONOCLASM」や「人魚 -mermaid-」が入ることで、より振り切った勢い、またはお祭り的な楽しさが加味される。さらに印象的だったのは「太陽とイカロス」とテーマを同じにする「Jonathan Jet-Coaster」が外れていたこと。つまりは、戦争と向き合う空気が少しだけ緩和されていた。
嫌なことは忘れろと言うわけじゃないし、いつだってオールライトと笑うバンドではない。ただ、切迫したリアルをいくつもの曲に刻み、日々真剣に表現していく中で、現実とは別の区切りが見えてくるのが舞台なのだろう。アニバーサリー・イヤーが終わってもバンドは続く。ならば5人で、ここから先に何を始めるのか。高崎芸術劇場とも高崎アリーナとも違う、こぢんまりした群馬音楽センターは、限りなくバンドの原点に近い舞台である。
ここに初めてBUCK-TICKが立ったのは1988年の〈SEVENTH HEAVEN〉ツアーであり、翌年に今井が不祥事を起こしたのち、謹慎後の復活を遂げたのも同じステージだった。1993年までのアルバムツアーは、この場所での2デイズ公演が常にファイナルとして用意されていたから、大事な思い出が詰まった区切りの場所であることは間違いない。余談だが、アンコールで登場した今井は、客席からステージも含めて360度のアングルにスマホを向けていた。その映像になんとか入り込もうとダッシュするユータも微笑ましい。5人は、演奏にも表情にもMCにも、少しの余裕と安堵を滲ませていた。
そのアンコール。櫻井演じるトランスジェンダー女性ヒズミちゃんが自己紹介を始める。「お父さん、お母さん、愛してる、さようなら……」の言葉から「ヒズミ」の沼にズブズブ沈んでいくさまは、〈TOUR 2023 異空-IZORA-〉が生んだ最大の見せ場、悪夢的ハイライトだ。〈信号 赤に変わる〉〈こんなはずじゃ〉と彼女が見つめるものは、何もかもが手遅れになっていく現実。作者櫻井の筆は容赦がなく、〈次の電車が来る〉と唄うところに〈狂う〉の字を当てている。予定通り続くはずだった未来が、ぐらりと歪み、平衡が失われていくという暗示。ここまで書くのは不穏すぎるし残酷すぎないか、とすら思う。
しかし、ツアーの中で成長していくヒズミちゃんはその歌唱を拒否した。〈次の電車が…〉のあとは無音、最後のコーラス〈Ah〜〉は唄うのだから、意図的なスルーである。そのまま「名も無きわたし」で幕を閉じてSE「QUANTUM II」で終わるのがこれまでの常だったが、この日、メンバーはいったん楽屋にハケる。そして二度目のアンコールがまた始まるのだ。
嬉しそうに響き渡った櫻井のMC「Thank You!」と、キラキラした音の粒子が見えるような「New World」のメロディ。この眩しさは本当に救いだった。横浜アリーナ公演からずっと続いていた何か。すっきりしない雨模様のムード。もちろんコロナも戦争もまだ終わらない。それでもBUCK-TICKは新世界に行く。忘れられないホラーのようだった一年前の記憶が、白い光の中に溶けていくのを実感した。〈無限の闇 切り裂いてゆけ〉。長い時間をかけて、ようやく、未来へと誘うBUCK-TICKの姿が見えた瞬間だった。
文=石井恵梨子
撮影=山内洋枝、青木早霞
【SETLIST】
SE QUANTUM I
01 SCARECROW
02 ワルキューレの騎行
03 ICONOCLASM
04 残骸
05 愛のハレム
06 さよならシェルター destroy and regenerate-Mix
07 Campanella 花束を君に
08 THE SEASIDE STORY
09 人魚 -mermaid-
10 無限 LOOP -LEAP-
11 Boogie Woogie
12 野良猫ブルー
13 THE FALLING DOWN
14 天使は誰だ
15 太陽とイカロス
16 die
ENCORE 01
01 CLIMAX TOGETHER
02 Cuba Libre
03 Coyote
04 ヒズミ
05 名も無きわたし
ENCORE 02
01 New World
SE QUANTUM II
【ライヴアーカイヴ配信】
BUCK-TICK TOUR 2023 異空-IZORA- FINALO
2023年9月18日(月・祝)群馬音楽センター
公演・アーカイヴ配信の詳しい情報
https://buck-tick.com/feature/specialsite_2023tour_finalo
LIVE Blu-ray & DVD
『TOUR THE BEST 35th anniv. FINALO in Budokan』
2023.12.13 RELEASE
■Blu-ray完全生産限定盤(Blu-ray+2SHM-CD+PHOTOBOOK)
■DVD完全生産限定盤(DVD+2SHM-CD+PHOTOBOOK)
■Blu-ray通常盤(Blu-ray)
■DVD通常盤(DVD)
〈収録曲〉
SE THEME OF B-T
01 Go-Go B-T TRAIN
02 Alice in Wonder Underground
03 GUSTAVE
04 FUTURE SONG -未来が通る-
05 Moon さよならを教えて
06 メランコリア -ELECTRIA–
07 Villain
08 舞夢マイム
09 MOONLIGHT ESCAPE
10 ダンス天国
11 ユリイカ
12 さよならシェルター
13 RAIN
14 ROMANCE
15 夢魔 -The Nightmare
16 JUST ONE MORE KISS Ver.2021
17 JUPITER
18 Memento mori
19 独壇場Beauty -R.I.P.-
20 LOVE PARADE
21 夢見る宇宙
22 鼓動 (2022MIX)
〈完全生産限定盤特典(Blu-ray/DVD共通)〉
・LIVE CD[2枚組]付属 ※すべてのCDプレーヤーで再生できる高品質CD「SHM-CD」を採用
・全64Pフォトブック付属
・スペシャルパッケージ仕様
〈THE DAY IN QUESTION 2023〉
2023.12.29(金)東京:日本武道館
OPEN17:30 START18:30
全席指定 ¥11,000(税込)
特設サイト