【LIVE REPORT】
9mm Parabellum Bullet presents『19th Anniversary Tour』~カオスの百年vol.17~
2023.09.19 at 日本武道館
最初から飛ばすこと飛ばすこと。一発目は懐かしのプレデビュー作から「The World」、続いて最新アルバムより「All We Need Is Summer Day」。2007年の曲と2022年の曲に温度差がないことに驚くが、世界の終わりを見つめる前者よりも、抑えきれない真夏の衝動を唄う後者のほうが若いかもしれない。
全曲にある若さ、青さ、そして情熱の炎はおしなべてドラマティック。生き急ぐ焦燥のスピードと、巻き込まれずにはいられない嵐の旋律があり、それに酔いしれることなくサクッと終わる、いかにもパンク好きらしい簡潔な幕引きがある。つまり、ドカーンとドラマ勃発、めくるめくハイライト、すぐに次、という感じなのだ。最初のツカミというならわかるが、それが5曲、10曲と続くとだんだん笑えてくる。12曲目、物悲しいギターがポロポロと弾かれ、ようやくバラードかと思った刹那、滝(善充/ギター)が狂ったような高速リフを刻みだし、かみじょう(ちひろ/ドラム)は完全にトチ狂ったツーバスをぶっ放す。わはは。今までで一番速え! この最速ナンバー「The Silence」までを第一部として、ドラムソロに突入するまで約一時間。本当に一気呵成であった。
「アニバーサリー・ツアーの中で一番大きな会場だけど、一番9mmが近いと感じるライヴにしたい」
以前の取材で、当日のステージでも、菅原卓郎(ヴォーカル&ギター)はそう語っていた。花道でも作って客席に接近するか、あるいはヴィジョンを用意してアップの表情を届けるのか。いろいろと想像していたが、答えは「ライヴハウスの勢いでそのままドン」なのだった。事前のリクエストをもとに選ばれた楽曲たち。広い空間にたっぷり響くバラードは最後まで出てこない。しみじみ余韻に浸る曲間もほぼナシである。ここ日本武道館なんですけど、と言ったところで「あ、それも大バコってことで」みたいな笑顔が返ってくるのではないか。
勢いでやるだけじゃもったいないと多くの人が言う。それはそうだろう。しかし前述したとおり9mmの楽曲には過剰なまでのドラマがある。奈落の底に落ち、業火に焼かれ、命からがら生き抜くようなストーリー展開。メロディは昭和歌謡だから、いちいち大袈裟だしクサイと言えばその通りだ。だからこそこのスピードがよく似合う。こってりした物語を、うじうじ、ねちねちと見せられるのは勘弁である。そのような自分たちの魅せ方を、4人はもう熟知している。ハラハラさせる曲に見えて、演奏は終始安定しているのだ。
そしてまた、9mm楽曲のハラハラドキドキに一度巻き込まれてしまえば、他のバンドはだいたい物足りないものとなる。ロック好きとかギターの音が好きとか、そういう物差しではなく、9mmの世界が好きな人だけが吸い寄せられる。だいたい「バンド名が9mmで、今年が結成19周年で、なんと9年ぶりの武道館!」と言われても、この9月19日はごく普通の火曜日である。ド平日の夜にこれだけの好事家が集まってくるのだから、これは継続するバンドの理想の形ではないかと思う。卓郎が笑顔で語る。「9mmを見つけてくれて、ありがとう」「またいつか、武道館でやるから」。
ドラムソロ後の二部も流れは同じ。サポートギターが入れ替わっただけで、ライヴハウスの勢いのまま、代表曲や懐かしい曲が次々と飛び出していく。中でも注目は歌謡曲風の新曲、リクエスト一位だった結成初期の曲「Finder」、さらには今年唯一のシングル「Brand New Day」だろう。〈Gimme a brand new day いつか すべてがきらめく日を〉。この歌詞は、ライヴ中に感じる完璧な瞬間のことを指しているそうだが、武道館でこれを唄う卓郎はまさに理想の中にいたのではないか。曲が終わった瞬間、両手で強くガッツポーズ、マイクも通さず大声で叫んだ「最高!」の一言。そこには、これまでの紆余曲折、なかなかキツかった過去を完全に振り切った輝きがあった。すこぶるポジティヴな包容力を持って、9mmは気持ちのいいピークを迎えている。19周年。今が一番余裕あり、だ。
文=石井恵梨子
写真=河島遼太郎(●、TOP)、西槇太一(▲)、SHIN-1(■)
NEW SINGLE「Brand New Day」
2023.08.09 RELEASE
01 Brand New Day
02 Live Track From “19th Anniversary Tour” 23.4.9 At F.A.D YOKOHAMA
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9mm Parabellum Bullet オフィシャルサイト