2023年4月17日、新宿・歌舞伎町に新たなライヴハウスZepp Shinjukuがオープンする。そのこけら落とし公演となる〈Zepp Shinjuku(TOKYO)OPENING SPECIAL 4DAYS!〉の初日を務めるのがSUPER BEAVERで、もはや説明不要かと思うが、新宿・歌舞伎町はフロントマンの渋谷龍太が生まれ育った街でもある。そんな記念すべきライヴにあわせて、ここでは新宿・歌舞伎町で撮影を行ったシングル「名前を呼ぶよ」リリース時の記事を掲載。ちなみに「名前を呼ぶよ」は昨年公開された映画『東京リベンジャーズ』の主題歌で、その続編となる映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 –運命-』でも彼らの新曲「グラデーション」(4月19日リリース)が主題歌に起用されている。
(これは『音楽と人』2021年8月号に掲載された記事です)
SUPER BEAVERのニューシングル「名前を呼ぶよ」は、映画『東京リベンジャーズ』の主題歌で、そのタイトルどおり〈名前〉がテーマの曲だ。人と出会い、名前を呼び合うことで互いの存在を確かに感じられる。そんな人と人との繋がりが、タフなバンドサウンドに乗せて唄われている。少し前までは当たり前だった、ライヴハウスのフロアからバンド名やメンバーの名前を呼ぶ光景。この曲を聴いた時、そんな高揚した瞬間がフラッシュバックすると同時に、自分の名前を呼んでくれる大切な人の存在が頭に浮かんだ。だからこそ今回、渋谷龍太(ヴォーカル)と話したいことがあった。彼に名前をつけて、一番初めに呼んだ両親について。真正面から人と向き合い、仲間を大事にする渋谷。そんな力強いフロントマンの根っこにあるものを、この記事から感じてもらえるはずだ。ちなみに撮影は彼の地元でもある新宿の街ナカにて行った。
実家にはよく帰りますか?
「しょっちゅう帰ってます。ネット通販でいろいろ買うんですけど、今ひとり暮らししてる家に宅配ボックスがなくて。受け取れない時は全部実家に届くようにしてるんですよ。なんで、何か買うタイミングで必ず実家に戻って、茶飲んで、母ちゃんと喋ったり、晩飯一緒に食べたり」
仲いいですね。
「仲よしだと思いますよ。地元の友達も今でもけっこう会うんで、新宿はしょっちゅう行ってますね」
今回、カップリングの「東京流星群」を聴いて、新宿で撮りたいなと思ったんですよ。
「あ、うれしい。これは柳沢(亮太/ギター)が新宿をイメージして書いてくれてるんですよね」
2013年の曲の再録ですけど、あらためて、地元を〈僕の宝だ〉って言い切れるのがすてきだなと思って。私、最近になるまで自分の故郷がいい場所だ、なんて思えなかったので。
「いや、僕も当時はわりと地元にコンプレックスがあって。それこそ僕らは全員東京生まれだから、その偏見で見られることが多かったんですよね。『苦労したことないでしょ』『実家が近いとすぐ助けてもらえていいよね』とか。そういうことを言われることがすごく多くて。それが嫌で23歳の時にひとり暮らししたりして。そんなこと関係ないだろって、胸張って自分の故郷や派生を言えるようになったのは、ここ数年な気がする」
そうだったんですね。
「根本的に何が大事かって胸張って言うには、当時はまだ若かったんですよね。嘘を唄ってたわけじゃないけど、自分に言い聞かせる感じというか。でもあの頃はそれが必要で。今は堂々と地元が好きだって思えるし、唄えるようになったから、当時とは全然違うと思います」
昔の音源と今回の音源を聴き比べてみたんですけど、演奏も歌も説得力も、今回のほうが圧倒的に力強くて。当時がイマイチということではなく、より実感がこもってるなと。
「そうですね。8年前はお金もないからレコーディングにかけられる時間も少なくて、一発録りなんですね。だから勢いや熱量みたいなものはすごくあって。そこから何回もライヴでやって、クリックを聴きながらでも4人のグルーヴをちゃんと出せるようになった。しっかりとした土台の上で自分たちの音楽を構築できるようになってきたんですよ。前のがノーカットで撮ったドキュメント映像だとすると、今回は、何を伝えたいか、どういうふうに届けたいかっていうのをしっかり見極めて構築した映画みたいなものに近いと思っていて」
たしかにリアリティは、めちゃくちゃあります。
「カメラを回し続けて垂れ流しで自分たちの姿を映し出すのもリアリティあると思うんですけど、ここを切り取って組み合わせたほうがより伝わるんじゃないかって。そうやってキッチリ計算した中でもリアリティを出せるようになったっていうのは、経験がなせることなのかなと思っています。初期衝動だ、一発録りだ、感情論だ、ということよりも、それを凌駕するものを今後作れる気がするんですよね」
ちゃんと経てきた時間があるからこそですね。そして表題曲の「名前を呼ぶよ」は、映画『東京リベンジャーズ』の主題歌で。この曲を最初に聴いた時はどういう印象でした?
「いい曲だなと思ったんですけど、名前っていうテーマに対していろいろ考えることがあって。昔から、名前って記号的だなと思ってたんですよね。バンド名もそうなんですけど、音楽をやろうって渋谷と柳沢と上杉(上杉研太/ベース)と藤原(藤原”33才“広明/ドラム)が集まって、それぞれ個人の名前がすでにあるのに、〈俺たちどういうふうに名乗ろうか〉って話し合って、〈こういうふうに呼んでくれ〉って外に向かって言う。それいる?って思ったんですよね」
名前を名乗る意味ってなんだと?
「はい。個人の名前もそうで。僕は〈渋谷龍太〉ですけど、もし田中っていう家で生まれてきたら、なんの違和感もなく〈田中龍太〉って名乗ってるんですよね。どんな人生をたどってようが、田中ですって言ったら田中だし、渋谷ですって言ったら渋谷で。それってすごく不思議じゃないですか。他にも、今僕が座ってるものはイスだけど、海を渡ったらチェアって呼ばれる。何かを隔てただけで、呼び名が変わったりもする。結局〈名前〉ってなんなの?っていう違和感がずっとあったし、自分を表現するうえで、まず名前を名乗るってすごく記号的だなと思ってて。本質的なものは、その人の中身だったり機能だったりするのに」
表層的なものだけに感じてしまうというか。
「でも最近、その答えが徐々に見えてきていたんですよ。例えば、初めて会った時に『竹内さん、よろしくお願いします』って言った時と、何回も取材してもらってきた今言う『竹内さん』って、同じ名前だけど、絶対違うものなんですよね。他の人がどう呼ぼうが、海外の人が違う呼び方をしようが、俺にしか呼べない名前になってる。最初はただの記号だったかもしれないけど、お互いが構築してきた歴史や時間を積み重ねた時に、自分だけの呼び方で呼ぶようになるっていうのは、すごくすてきだなって。なんとなくそう思えるようになってたところで、このテーマが柳沢からおりてきたんですよ。名前ってSUPER BEAVERで取り上げたことがないテーマだったけど、すごくいい曲だし、今ならこの歌詞を唄えるなと思って」
この曲は名前を呼び合うことで、相手と自分の存在を確かめ合うことが唄われてますもんね。渋谷さん個人が考えていたことと、曲のテーマがまさに一致したと。
「学生時代には名前ってすごく無意味なものだなって思ってたけど、20代に入って、人といろんな歴史を積み重ねていく中で、名前ってすてきだなっていう考えにシフトしていって。そうやってなんとなく考えていたことが、この曲でガコってハマった感覚は正直ありましたね」
10代と20代で名前の捉え方が変わるのはわかる気がします。私は10代の頃、自分の名前があまり好きじゃなかったんですけど、大人になってから自分の名前にどんどん愛着を持てるようになってきて。
「たぶん自分の好きな人がたくさん呼んでくれるから、必然的にそうなっていくんですよね。そもそも両親がつけてくれた名前で、そこには信じられないぐらいの愛情が込められていて。うちは幸いにも両親がまだ健在で、この歳になるまで俺の名前を呼び続けてくれて、友達や仲間、メンバーも名前を呼んでくれる。こういうご時世なので今はあんまりできないけど、フロアからステージに向かって俺の名前を呼んでくれたりもする。これはマジで愛おしくなりますよ。自分だけじゃ実感できないけど、好きな人が呼んでくれてるから、俺も好きだなって。その感覚は年々強くなってますね」
ちなみに名前の由来をご両親に聞いたことあります?
「うちは父ちゃんが『昇龍』っていう名前の中華料理屋をやってて。で、父ちゃんは〈昇〉って名前なんです。店は45年ぐらいやってるのかな。僕はその店から一文字もらっているんですね。もともとは〈渋谷龍〉っていう名前になる予定で」
へえ、そうだったんですね。
「でも母ちゃんが『ヤクザもんみたいだから〈太〉をつけたほうがいい』って、〈龍太〉にしてくれて(笑)。父ちゃんが大事にしてるものからもらった一文字を、母ちゃんが愛情で包んでくれた。そういう経緯も知ってるんで、すごく愛着あります」