【LIVE REPORT】
音楽と人LIVE 2023〈東京アコースティック百景 Vol.4〉
2023.04.05 at 渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
「音楽と人」主催、山崎まさよしがここまでレギュラー出演している弾き語りイベント〈東京アコースティック百景〉、その第4回に登場するのはBRAHMAN/OAU/the LOW-ATUSのTOSHI-LOWである。二人の馴れ初めに関しては本誌3月号の対談記事を参照にしてほしいところで、意外どころか、すっかり気心の通じ合っている二人は、まるで披露宴の新郎新婦のように手を取り合いステージに登場したのだった。
山崎「……なんで手ぇつなぐ?」
TOSHI-LOW「嬉しいじゃん。しっかし、よくこんなイベント出るね? 『音楽と人』ってエロ本でしょ?」
最初から炸裂するのはこんなトークだ。演奏が始まる気配はまるでなく、雑誌イジリに始まり、オーガスタイジリ、大先輩イジリが止まらないTOSHI-LOWに、山崎はずっと苦笑と爆笑を続けている。どんどん出てくるナイショ話。面白い、けど詳細は書けないものばかりだ。
「組み合わせってあるから。秦(基博)なら行くけど、俺のことは別に見たくない人も多い」「でもだんだん俺のキャラもわかってきたでしょ?」「だから、今日ここにいるのは勘のいいファン」とTOSHI-LOWが観客を立てていたのはあながち嘘でもなくて、冗談みたいなトークから繋がった一曲目のセッションはRCサクセションの「雨上がりの夜空に」だ! 名曲中の名曲にポカンとする客席に対して「こんなノリ悪ぃの? 嘘でしょ?」とTOSHI-LOWが強引に煽り、ようやく目が覚めた感じの手拍子が巻き起こる。ひどく乱暴に見えて、実は誰ひとりも取りこぼさないムードを作る手腕が見事。気づけばたった一曲で大団円となり、目の前には「TOSHI-LOWー!」「まさよしー!」と互いの名を叫ぶ二人の笑顔があった。
一度山崎がハケ、TOSHI-LOWのステージが始まる。被災地で弾き語りを始めるきっかけになったという「満月の夕」、今の世界情勢を反映したかのように響くRCサクセション「明日なき世界」など、時代をえぐる強烈な歌が多い。パンク出身の喉は原曲に負けじとパワフルだが、声帯そのものより、12年被災地と本気で向き合ってきた経験が身になっているのだろう。借りものの歌とは思えない。今ここにいる俺の、お前らの話だと訴えかけてくる力がある。知られざるパンクバンド、えびの「君がいれば」に自作の歌詞(メルトダウン、コロナ、ゼレンスキーまでが出てくる)を乗せるところも実に彼らしい。
ポリティカルな歌だけでは決してない。後半はゆらゆら帝国「空洞です」のカヴァーから自身のバンドであるBRAHMANの「Arrival Time」へ。メロディに滲む繊細さ、切なさや虚しさも含めた叙情性が強く胸を打つ。そう、この人はパワフルなパンクスであると同時に、行き場のないやるせなさをずっと抱えている歌手でもあるのだ。そのうえで、経験を重ねて豊かな包容力も手にした今。ラストはOAUの「帰り道」で優しく締めくくっていた。
続いては山崎まさよし。まず「老眼が進んでるんだよ」とボヤき、MCでも「今日は飼い犬の狂犬病の注射に行きまして……」とオチのない話が続く。TOSHI-LOWの押しの強さに比べると、人見知りで不器用なキャラをまったく隠さない様子である。ただ、そのぶん際立つのは、一気に世界観に引き込んでいく歌の強さ。深く内省する「十六夜」や「名前のない鳥」など、歌詞以上に歌声から伝わるものが多い。深い揺らぎと温もりを湛えたそれは、極端に言うなら〈mu〜〉や〈ha〜〉だけで十分「いいもの」として成立するのだ。さらには豊かな華を添えるハープやパンデイロの音色。なるほど、孤独は感じない。これが常に一人で勝負するシンガー・ソングライターの風格だ。
後半は意外な選曲だ。まずはTOSHI-LOWから無茶振りでリクエストされた爆風スランプ「大きな玉ねぎの下で」。ライヴで披露されるのはかなりレアなカヴァー曲で、切ないメロディと実在する地名のマッチングが絶品である。さらに「玉ねぎの次は……」と始まるのは「セロリ」。あの国民的大ヒット曲をこのduoで聴ける喜びといったら! 何度聴いても飽きない名曲に引っ張られ、客席からは多数の手が上がっていた。
それぞれのステージ終了後は最後のセッション……というか、これまた手を取り合って登場した二人のとめどないトークが続く。人気ドラマ『きのう何食べた?』の主題歌をTOSHI-LOWが唄っていることを知らなかった山崎が、またも無茶振りされた「帰り道」の弾き語りに挑戦するまではよかったが、対談のあと相当に呑んだ話から、「今度は二人で〈ズッキーニとキューカンバー〉って曲作ろう!」と盛り上がるあたりは完全に掲載不可能。会場の客だけが知るネタである。
もっとも、歌が始まればすべてはチャラになるのが酔いどれ歌うたいの魅力。最後は意気投合するきっかけとなったギタリスト、三宅伸治の「何にもなかった日」を披露する。〈いい事があるといいね〉というサビが、それを唄う充実しきった表情が、全員の心を優しくほどいていく。「もうさぁ、このイベント、毎回俺とまさやんでいいじゃん」と笑ったTOSHI-LOWの言葉は、その場のおべんちゃらではないのだろう。私も同意見に一票。一夜限りのレアな組み合わせで終わるには、この二人、水も肌も合いすぎている。
文=石井恵梨子
撮影=新保勇樹