ガレージロックやインディーロックをルーツとする、No Buses。今夏のフジロックに出演を果たし話題を集めたことも記憶に新しいが、このたび完成したサードアルバム『Sweet Home』は、バンドの進化ならぬ深化を感じさせる一枚となっている。3本のギターが織りなす音色は重厚感にあふれ、それを軸としたバンドのアンサンブルはより強靭となっていることに加えて、ラッパーのBIMとのコラボや、日本語詞が取り入れられるといった新たな挑戦も刻まれているのだ。そんな彼ららしさと新しさが共存する本作について、バンドのフロントマンである近藤大彗に聞いた。今作の完成に至るまでの間、彼はあることに向き合い、気付きを得たという。トライ&エラーを重ねた先に、浮かびあがるもの。それを受け止めることができた今、彼らは新たな可能性を求めて未来へ進み続けるに違いない。
新しいアルバム、いいですね。重厚感のあるギターの音色を軸に、より深いバンドサウンドが響いていて。と同時に、今までにない挑戦も盛り込まれているなと。
「ありがとうございます」
今回はどういう作品にしようと考えていましたか。
「まずこれまでを振り返ると、1枚目はガレージロックやインディーロックが好きな自分たちが、その時にやれることを詰め込んだ作品だと思っていて。2枚目は表現のレンジを広げるために、いろいろと挑戦をしてみたんですけど。そのうえでこの3枚目は、自分たちがこれまで生み出してきたものやルーツに立ち返りつつ、前作で広げたレンジをより拡張する。そういった感覚で新たなこともしたいと思っていました。やっぱり自分たちは、さっきも言ったようにガレージロックやインディーロックが好きでこのバンドを始めたところがあって。そういうルーツ的な部分も含めて、自分たちのいいところが昔よりもわかってきたんですね。だからそれを今作ではより生かして、表現の幅を広げたかったんです」
〈No Busesとはこういうバンドだ〉みたいな像がより見えるようにもなったからこそ、そう思うようにもなったんですかね。
「あ、そうですね。僕は今、バンドとは別にソロ活動もしているんですけど。それを始めて2年経ったのもあって、この5人が集まると僕ひとりで作ったものにはない色味が出てくる。そういうソロとバンドの違いが明瞭になったというか。だから、このバンドだけの色味を大事にしたいと思ったし、今作に出したいと思ってました」
No Busesにしか出せない色味というか個性って、どういうものでしょうか。
「そうですね……どこか怪しげでもあるけど、同時に爽やかというか人懐こさもあるような雰囲気。このバンドでやってる音楽にはそういうものがにじんでると思います。だから、今作のタイトルも『Sweet Home』にしたんです。これは『スウィートホーム』、『Home Sweet Home』っていうホラーゲームから影響を受けて考えたものなんですけど。この2つのタイトルの単語そのものからは、温かい感じとか落ち着く場所っていうイメージが湧くと思うんです。だけど、実際のゲームの雰囲気は怪しくて怖いわけで。そのギャップが、自分たちのやってる音楽にも合うと思ったんですよね」
そういう人懐こさと怪しい雰囲気が共存するのって面白いと思うんです。近藤くんは、怪しくて怖いものにも惹かれたりしますか?
「はい。ちょっとグロテスクなイラストとか、怖い話も普通に好きですし(笑)。あとは、音楽だと昔はデスコアとかメタルコアにハマっていた時期もあって」
意外です(笑)。
「そもそも最初に聴いたバンドがワンオクだったので、彼らが影響を受けた音楽を探っているうちにそういうジャンルにたどり着いて。そのあとにガレージロックとかインディーロックも好きになったんです」
ヘヴィな音楽に触れたあとに聴いて、違和感はなかったですか。
「それはないかな。すごく好きになりました。ガレージロックって、なんか一瞬で終わってしまうような雰囲気があるんですよ。1曲に懸ける熱量みたいなものがすごいというか。実際、ガレージロックをやってるバンドって1、2枚アルバムを出して解散したり、そこまで有名にもならずに終わってしまったバンドも多い気がするんです。だから、そういう人たちが残した曲ってどんなに明るいメロディが鳴っていたとしても、その時のバンドはギリギリの状態だったかもしれなくて。そういうことを想像しながら聴くとグッとくるものがあるし、儚い。そこに魅了されたのかなって今思いました」
明るいけど儚げっていうのは、まさにNo Busesの楽曲にも通じると思うんです。今作にもそういった人懐こさと物憂げな印象を抱くメロディが、両方鳴っていると思うので。
「ああ、そうですよね。僕の場合、どんなに明るい表現にしたくても、暗い部分がどうしても出てきてしまうんです。自分で作った曲をあとで聴き返すと〈なんか暗いな〉って思うことが多いですし(笑)。でもそれは僕の個性だし、良いところなんじゃないかなって思ってますね」
昔は自分の音楽に対してそんなふうに思えていましたか?
「いや、正直に言うと、とくに1枚目のアルバムに関しては作り終えてからずっと好きじゃなくて(笑)。なんか良くないな、と思ってしまったんですよね。当時は4人編成だったんですけど、メンバーの音だけで完結させることにこだわってたんですよ。今振り返るとそこにこだわる必要はないし、もっとできることがあるのにって思います。でも当時はそうしなきゃと思い込んでいたというか。その頃はバンドを始めて間もなかったので手探りだったし、それ以外にやりたいアイディアもなかった。だから、しょうがないとは思うんですけどね。でもこの間、1枚目を久々に聴き直したら、けっこう良いなと思えたんです。その時にしかできないことをやっているし、こういうものを作ったから次は何をしよう、どういうバンドになっていこうか。そうやって考えたり変化していけるんだなって。だから生み出してきたものに対して、やっとフラットな気持ちで向き合えたんです。それを経て、今があるんだと前向きに思えたというか」
そうやって向き合えるようになったのはどうしてだと思います?
「ソロも含めてたくさん曲を作り続けて、それを聴き直す。そういう試行錯誤を繰り返す回数が増えたからかな。その過程でだんだん〈ここが自分たちの良さかな〉って思える部分とか、次にやってみたいアイディアも具体的に見えてくるようになってきたんですね。だから、最初の頃に作った作品を聴いても、そこにしかない良さを見つけられるようになったのかなって。そういう見方もできるようになってきたから、今作では自分たちの良さを踏まえてそれを生かしつつ、新しい挑戦もできたのかもしれないです」
新しい挑戦と言えば、今作ではラッパーのBIMさんとコラボしていて。「Daydream Believer feat. BIM」はどういう経緯でできたんですか。
「BIMくんとは3年ぐらい前から親交があって、ずっと一緒に曲を作りたいと思っていたんですね。で、BIMくんが今年出した『Because He's Kind』っていうアルバムを聴いた時に、今の自分たちの音の雰囲気ともすごくフィットする気がして。それで今回フィーチャリングをお願いしました。BIMくんと電話で歌詞のフレーズのアイディアを投げ合いつつ、ラップの部分は考えてもらって。僕が唄うところや楽器のアレンジは、バンドで作っていきました」
こういった日本語のラップを取り入れることに抵抗はなかったですか。
「それはないですね。僕、もともと日本語詞も入れていいと思っていたので。ただ、これまでは英語のほうがメロディにハマることが多かったんですよ。だから英語詞にしていたんですけど。今回は〈ここだったら日本語がうまくハマるな〉と思えるメロディがあったので、BIMくんとの曲だけじゃなく〈Freezin〉でも日本語で唄っている部分があります。英語詞に固執していたわけではないし、とにかくその曲に合えばといいと考えてますね」
自分たちの表現に向き合って、その良さを理解している今だからこそ、こうすればバンドがもっと良くなったり面白くなる。そういう視点が前よりも出てきたんでしょうし、だからこそ今回のようなチャレンジも純粋に追求できるんでしょうね。
「そうかもしれないです。前作の制作から、1枚目の時みたいな〈こうしなきゃ〉っていう縛りからは解放されて。それも経ているので、今作ではより自由にやりたいことをやれたなと。このバンドのらしさをディープに落とし込みつつ、ちゃんと前に進めた一枚になったとあらためて思っています」
そういった確かな手ごたえがあると思いますが、次の新しい目標はありますか。
「来年か再来年には新しいアルバムを発表したいと思っていて。今回こういう作品ができたので、次もいいものが作れるんじゃないかと思うんですよ。単純に曲作りが好きですし、今からどういうものになるか自分でも楽しみです」
文=青木里紗
写真= Rio Watanabe
NEW ALBUM『Sweet Home』
2022.09.14 RELEASE
01 In Peace
02 Sunbeetle
03 Rubbish:)
04 Stopstopstop
05 Biomega2
06 Daydream Believer feat. BIM
07 Freezin
08 Home
09 I’m With You