『音楽と人』の編集部員がリレー形式で、自由に発信していくコーナー。エッセイ、コラム、オモシロ企画など、編集部スタッフが日々感じたもの、見たものなどを、それぞれの視点でお届けしていきます。今回は、the peggiesをデビュー当時からインタビューしてきた編集者が、取材や原稿に対する思いを綴ります。
去る7月8日、the peggiesが9月末をもって無期限の活動休止を発表した。休止前にベスト盤のリリースと東名阪のツアーを開催するとのことで、いつだってそうだけどバンドの活動休止の知らせを受け取るのは残念だしとても寂しい。でもいろいろ考えた末にバンドが出した結論だろうから受け入れるし、3人のこれからに思いを馳せたいと思う。メジャーデビューから5年、コロナ禍もあってすべてが思い通りに活動できたわけではないだろうけど、取材で会うたび北澤ゆうほ(ヴォーカル&ギター)はミュージシャンとしても人間としても成長していて、バンドも着実にステップアップする姿を目の当たりにしてきた。それでも何か見えない壁みたいなものにぶつかって、バンドはいったんピリオドを打つことになったのだろう。その決断に至るまでどれだけの時間や会話がなされたのかは知る由もない。ただ、最後のツアーは悔いが残らないようやりきってほしいし、それを見届けることを楽しみにしたいと思う。
実は数ヵ月前、とある仕事で北澤ゆうほのご家族の方と関わる機会があった。もちろん彼女のプライベートなので詳細は避けるけど、バンドのこととか彼女自身の将来のことにも触れるような話をご家族の方とさせていただいたのだった。それはまるで家庭訪問をしに行った学校の先生みたいな気分で、彼女が書く歌がいつも独りぼっちになりそうで絶対ならないのは、こういう家族がいるからなんだな、と妙に納得した。より彼女が書く歌に対する理解が深まるとともに、そこに注がれた慈愛のようなものを感じ取ることができるようになったことが嬉しかった。
そうやって本当にごく稀にだけど、この仕事を長くやっていると、アーティストのプライベートに足を踏み入れてしまう機会がある。しまう、と書いたのはやっぱりそこは本来なら立ち入るべきではないと思っているから。でもそこから知れることや感じることはたくさんあって、〈あぁ、こういうお父さんに育てられたからああいう歌を唄うんだ〉とか〈この家庭環境のおかげでバンドが長く続いてるんだ〉とか、とにかく今までボンヤリしていたそれぞれの音楽やバンドの核心が露わになる。音楽自体の感じ方も変わるし、ライヴの見方も変わってくる。それこそエンターテインメントというヴェールに包まれていたものが取り払われ、音楽の作り手のドキュメントとしてこちらにその実態が迫ってくるのだ。
でも、そんな体験をするたびに、本来なら知らなくていいことだよな、とも思ったりする。作り手はもともとエンターテインメントとして届けようとしているんだから、そのヴェールの向こう側なんて知るべきではない、と。それでも〈向こう側に何かある〉ことが作品から感じられることで、エンターテインメントから得られる感動が倍加するのも事実。より深く共感し、自分の生き方とか人生に大きな影響を受けたりもする。故に普段、エンターテインメントとドキュメントの狭間をバランスよく行き来するような、そんな取材や原稿を心がけている。どちらかに留まっていては、その作品の本質的な魅力を伝えることができないと思うからだ。
秋に発行予定の単行本の制作に今まさに取り掛かろうとしているのだが、それはアーティストのご家族の協力がなければ成立しない一冊で、おそらく制作の過程で家族との関わりやプライベートな人間関係に積極的に深く踏み込んでいくことになることが予想される。今まで以上にそのアーティストのことを深く理解することになるから、それは今から楽しみだしそれを一冊の本にすることでいろんな人とシェアしたいと思っている。けど、踏み込んだ以上、そこには大きな責任と覚悟が伴うし、正直、どこまでやれるのか?とビビってる自分もいる。エンターテインメントとドキュメントの境界線を見失わず、最後まで取材をやり遂げることができるのか、不安で仕方がないのだ。
それでもそのアーティストが残した作品の素晴らしさや偉大さ、愛の深さといったものを伝えるためには腹を括るしかないし、誠実な気持ちでヴェールの向こう側に踏み込んでいきたい。そういう決意をここに記して、今からその取材に出かけてきます。
文=樋口靖幸