都内の高校で結成し、2018年から本格的に活動をスタートさせたステレオガール。前作から2年が経ち、ついに完成したセカンドアルバム『Spirit & Opportunity』は、バンドが愛する90年代UKロックのエッセンスが随所に散りばめられつつも、以前にもましてキャッチーなメロディやギターのリフが光るだけでなく、よりスケール感のあるサウンドが響き渡っているのだ。そしてそこには、ひとりきりでもここから進んでいく、といった思いがにじむ反面、誰かに対する思いや優しさもかすかに表れている。それはなぜなのか。バンドのフロントマンである毛利安寿に話を聞くと、かつては悩みがちで、口下手かつシャイな彼女の中で起こった、ある心境の変化が影響しているようだった。人の心は日々移り変わるけれど、その時々の感情と向き合い、正直でいること。それこそが次への一歩となり、未来に繋がっていくのかもしれない。このアルバムには、どんな自分も肯定し、前を向く力、それが宿っている。
( これは『音楽と人』3月号に掲載された記事です)
新しいアルバム、カッコいいですね。スケール感があってスカッとした気分になりました。手ごたえはどうですか?
「いいものができたと思います。自信作ができたんじゃないですかね(笑)」
ちょっと照れています(笑)。まずは今作についての話をする前に、今に至るまでのことを聞きたいんですが。この2年の間にコロナで世の中はかなり変わりましたけど、その中でどんなことを感じましたか?
「コロナを機にみんなが普段は見せていなかった部分が、一気に表面に出てきてしまっているなと感じることが増えて。そのせいで自分と似ているなと思っていた人たちがそうじゃなかった、まったく別の考えを持っていたんだ、みたいなことを認識させられる瞬間が多くなったなと思いました」
これまでは気に留めていなかった、人との違いをはっきりと感じる瞬間が増えたというか。
「そうですね。例えば衛生に対する価値観もそうだと思うんです。手を洗ってマスクをしたり、お互いの距離を取るようになりましたけど、それを実際にどの程度やるかは人それぞれで感覚が違うなと思ったりして」
確かに。例えば外出した時に消毒液を持ち歩く人もいれば、お店だったり出先に置いてあるものを使って気をつけていれば大丈夫と考えている人もいるかもしれなくて。人によって考え方が違うからどちらかが正しいとも言い切れないですし。
「そうそう。もちろん前からそういうそれぞれの価値観や考え方の違いはいっぱいあったと思うんですけど、コロナによってあまり穏やかではない形でそれを確認することにはなってしまったなと思っているんですね。だからちょっと辛いし、ストレスではあるんですけど」
そういう違いを突き付けられた時に、人とはわかりあえないのかもしれないな、と寂しさや悲しさを感じたりはしませんでしたか。
「寂しさや悲しさっていうよりは、お互いの違いをもっと穏やかな雰囲気で話し合って尊重できたらいいのにな、と思ったんですね。でもコロナって人が生きるか死ぬか、みたいなところに繋がる問題だから、そう簡単に話し合って解決しようみたいにはいかないんだろうなとは思ってしまって」
命に関わる問題だからこそ、センシティヴになるしギスギスしてしまう。
「うん。それもあると思うんですけど、だからこそ人はみんな違うから自分は自分でしかないし、ひとりで歩いていくことには変わりはないんだなともあらためて思ったんですね。今作にはそういう感覚をポジティヴにありのまま出せている気がしているので、そこがいいところだなって思っています」
振り返ると前作にもひとりでいる自分であったり、現実を醒めた目で見つめる光景が描かれていて。今作にもそれと同じ感覚もそうですけど、ひとりで次に進んで行くんだ、みたいな気持ちがより強く出ている印象がありました。
「そうですね」
だからこそ、これまで以上に孤独を感じる瞬間も増えたのかなと思ったのですが。
「もちろん家にいることが多くなったので、物理的にひとりになることは増えたんですけど、とくに去年は人に会いたい、会って話したいとすごく思うようになりました。それまでの私は何事もひとりでうわーっと考え込んじゃうタイプだったので、例えばある日突然『バンド解散します!』みたいなことを言って周りを驚かせてしまうこともあったんですよ(笑)。誰にも相談せずに自分の中で結論が出た時にしか話さないことばかりだったので、〈どうしてそんなことを言うんだろう?〉と周りを困らせてしまうことが多かったなと思っていて。でも自分で答えを出す前にもっと人と話したり、みんなの状況をちゃんと見たうえで行動しなきゃって少しずつ思えるようになってきたんです」
そう思えるようになったのはどうしてだと思います?
「コロナになってから健康について考えるようになったからだと思います。個人的なことだと大学を卒業して生活が変わるタイミングでもあったので、自分でご飯を作るだとか風邪をひかないように体調管理をしたり、これまで以上にひとりで気をつけなきゃいけないことが増えて。そうやって自分自身と向き合う中で、つい悩んでしまったり暗い方向ばかりに考え込んでしまう自分のメンタルを健康な状態にしてみようと思ったんです」
つまり明るく健康的に過ごすためにも、内側に向かっていた意識を外に向けてみようと思えたというか。そうしたら、自然と人にも会いたくなったと。
「そうですね。だから私が作詞した〈I Don't(but someday)〉っていう曲も、健康的な世界への憧れみたいなものが出ているなと思います(笑)。けっこう爽やかというか風通しがいい雰囲気だし、植物の伸び伸びした感じが出ていて」
〈風のなかで/光を見つめてた/花のなかで〉とありますね。
「そう。風を感じたり太陽の光を浴びたいみたいな、そういう外に出たり人に会いたいっていう気持ちが出ているんですよね。それももちろんあるんですけど、逆に自分だけの空間や世界も大事にしないとメンタルにはよくないなとも思っていて」
わかります。私も、外に出て新しい刺激を受けたり、人に話すことで気持ちが楽になるみたいないいこともある反面、いろんなものに触れすぎて変に流されそうになったり、周囲と自分を比べて悩んでしまうことがあって。
「ありますよね。だから生活そのものだとか、自分自身の心の状態や問題と向き合ってひとつひとつに対して納得していないと人と比べて落ち込むみたいなことがひどくなってしまうんじゃないかと思って。〈I Don't(but someday)〉には、まず自分の中の問題に向き合ったうえでいらないものは捨てよう。そして健康になろうよみたいな気持ちも出ているなと思います」