『GIFT ROCKS』は、結成15周年を迎えるa flood of circleに、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)、Rei、SIX LOUNGE、THE BACK HORN、山中さわお(the pillows)という面々が、それぞれの思うフラッドらしさ、をテーマに曲を書き下ろしてもらったアルバムだ。さらにフラッドがその5組の曲をカヴァーするという、お返し、も収録された非常に面白く、手の込んだ企画盤だが、それが気づかせてくれたことが何だったのか、佐々木亮介に聞いた。
『GIFT ROCKS』という企画はどこから思いついたんですか?
「去年、『2020』といういいアルバムができたけど、次はもうバンドの金字塔と言い切れる、それくらいすごいアルバムを作る、と決めて、もうレコーディングは始めてるんですよ。でもその前に、結成15周年というタイミングなので、普段とは違うアプローチでやりたいと思ったんです。そのアイディアをいろいろ出す中で、俺たちをよく知る人に、『フラッドらしい曲を書いてください』ってお願いするのは面白いんじゃないか、そしてそれによって、自分たちのことがあらためてわかるんじゃないか、と思って」
その結果はどうでしたか?
「予想外(笑)。フラッドってこう思われてるんだろうな、という自分の想像とは、まったく違ってた。テンポ速くて、ガンガン行くロックンロールな曲が揃うかなと思ってたけど、そういうのがほとんどなかった。強いて言えば田淵さんの〈まだ世界は君のもの〉がそうだけど、あれは〈世界は君のもの〉(2008 年リリースのフラッドの楽曲)の続編的な位置づけがあるから、あえてテンポを合わせてるところがあるので。他はどれも比較的遅めだし、歌詞も含めて、〈あ、俺らそう見えてたのか〉って気づいた」
外から見たフラッドのよさが、自分とは違ってたというか。
「うん。それは発見だった。次のアルバムはすげえの作ってやるぞってタイミングで、これまでガンガン曲書いてメンバーに渡して、バンドでやる意識を強く持って、みんなのケツ叩いてる姿勢でいたんですけど、後半はもうちょっと、ひとつひとつの曲に俺自身が悩んで、深く考えたことを曲にしていこうって、そういうモードになってたから。そういう時に、フラッドってこう見えてるんだって、新鮮な気持ちになれたのはすごくよかった」
では1曲ずつ紐解いていきます。田淵智也による「まだ世界は君のもの」は、先ほど話に出たように、フラッドの過去曲の続編という位置づけになってます。
「愛が詰まってますね。田淵さんは年齢も近いし、15年ずっとつるんでるんで、そういう人から見たらこうなんだな、って。でも田淵さん、昔から〈世界は君のもの〉がすごくいいって言ってくれてたし、デビューアルバムに入ってる〈春の嵐〉を聴いて、こういう曲がフラッドの柱になるって、あの頃から言ってくれてたんですよ。当時はまったく理解できなかったですけど(笑)」
ははははは。〈どうした? ほら俺は待ってる 君のちょっと先でさ〉というフレーズは、明らかにメッセージですよね。
「田淵さんからのメッセージであると同時に、こう思っとけよって俺に言ってるみたいに感じますね。お前が唄ったらきっと響くと思うよ、って。だからこれを唄える自分でいなきゃなって。そう解釈しました」
13年前、「世界は君のもの」で〈あとはそれを歌うだけで世界は君のもの/好きな場所に飛んでゆけるぜ〉って唄ってましたけど、今もその気持ちは変わらないですか?
「うん。だから、15年やって成長したなっていうより、変わってないなお前って言われてる感じがする(笑)。ていうか田淵さんは、話してる限りだと、佐々木は変わってないことをわかってるよな?って言ってるんです。そこがいいところだよ、って。でも自分的には、いっぱい変わっちゃった気がしてたところで」
そうでしょうね。
「それでいいんだよって。恥ずかしさもダサさも込みでお前じゃん、って言ってくれてる感じがして(笑)。あと、そうあってほしいと思う気持ちも含まれてるんじゃないかな。〈世界は君のもの〉って、ある意味、青臭い理想を言い切れる自分になろうと思って書いたと思うんですよ。でもまだそう思えてないし、もしかしたら、フラッドってこんな感じでしょって無意識のうちにやってたんじゃねえかって」
だからもっと佐々木自身を書けよ、って言ってるんじゃない?
「今それを意識して歌詞書いてますね。バンド組んで、最初は俺が俺がでやってたんだけど、それが崩壊していって(笑)。メンバーも抜けて、誰もいなくなるじゃんかと思って、その究極で放ったのが〈花〉だったんですけど、そこからソロを経験して、メンフィスやシカゴの仲間や、三船くん(三船雅也/ROTH BART BARON)やさわおさんとも一緒にやって、俺が俺じゃないところでチャレンジして、自分の可能性を探してたんですよね。そこで探したものが自信になって、確かな手応えを生んだから、今は、俺が俺がでいなきゃいけないって思い始めてますね。俺をもっと書かなきゃって。田淵さんはとくにそれに気づかせてくれました」
そしてRei。これももっとブルースマナーに即した曲がくるかと思ってたので、意外でした。
「彼女だけ唯一、事前にインタビューされたんです(笑)。話聞いてから曲書きたいって。15周年だってことにいい意味で慎重になってくれてるのかなと思いました。フラッドに寄せるつもりって言ってたのに、音源聴いたらめちゃくちゃRei節(笑)。でもこの曲、ファースト・アルバムの〈ラバーソウル〉って曲に似てるんですよ。〈あれ? 俺ら、昔こういうタイプの曲書いたな〉って思い出しましたね。10年以上前の俺らなんて知らないはずなのに、なんでこんな曲を書いたんだ?ってくらい似てて(笑)」
それに気づかされたんだ。
「コード進行や雰囲気が、ジミヘンの〈Crosstown Traffic〉なんですよ。Reiは打ち込みで作ってるから、ビートがそういう感じになると今っぽく聴こえるんだけど、ギターのテンションはめちゃくちゃ〈Crosstown Traffic〉なんです。〈ラバーソウル〉はまさにそれをイメージして作ったから。彼女もブルースを心からリスペクトしてるけど、当然本物にはなれない。だから悩みながら表現してる部分があって。自分たちなりの答えを探す、その苦悩は似てると思うんです。そういうところをキャッチしてくれたんじゃないかな」
ああ、なるほど。
「田淵さんとは違う形で、フラッドのそういうところがいいんじゃん、って言われてるような気がしました。ガムシャラにやってたし、不器用だから、まんま〈Crosstown Traffic〉だけど、それも込みでいいんじゃない?って(笑)」
インタビューされた効果は感じられましたか。
「歌詞に出てましたね。5曲の中で唯一、佐々木亮介の目線だけじゃなく、メンバー全員のことをイメージして書いてくれてる。俺らも15周年って言ったって、テツも姐さんも15年じゃないという、変な歴史のバンドだから(笑)。でも、その変な歴史を肯定することが大事だと思ってるし、ReiとSIX LOUNGEはそれを勇気づけてくれましたね。だってカッコいいじゃないですか、って普通に言ってくれてる感じ。俺らが弱点だと思いがちなポイントも、それでいいんだって思わせてくれるというか」