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GEZANの新作『I KNOW HOW KNOW』が描き出すもの、そして日本武道館ライヴに挑む理由

text by 石井恵梨子
2026年2月18日


GEZAN。謎の赤き部族、暴動を煽るアジテイター、無邪気なパンクス、あるいは国家権力者を罵倒したことにより大炎上を起こした話題の人……などなど、個々によって見方は大きく違うだろう。作品ごとにガラリと音像を変え、活動はマネジメントもないDIY。なんの後ろ盾もないまま風に吹かれているオルタナティヴ・バンドであることは間違いなく、その音や行動原理にはつねに中指を立てる気配が漂っていた。ただ、予想もしていなかった3月14日の日本武道館公演を目前に登場するアルバム『I KNOW HOW NOW』はこれまでのイメージを大きく覆す衝撃作。耳に痛い爆音や攻撃性はゼロ。優しく柔らかく、キラキラ輝く希望のメロディが並ぶ、初めてワントーンで統一された歌のアルバムなのである。フルボッコに叩かれてなお、〈やり返すな〉と言える心に宿っていたものは何だったか。冬にしてはずいぶんと温かい日に、マヒトゥ・ザ・ピーポーとじっくり語り合った。この社会を生きることについて。

(これは音楽と人2026年3月号に掲載された記事です)



お会いするのはブラフマンの〈尽未来祭 2025〉以来です。


「あぁ、そっか。〈尽未来祭〉かぁー」


当時はちょっと渦中すぎて言葉がなかったけど……盛大に燃えましたね。


「はははっ。渦中というか、あそこらへんでグラデーションが変わった感じ。その前からうっすらあったんだけど、〈尽未来祭〉過ぎたあたりから一気に。だからライヴの感想とかもまったく追えなくなっていった」


お疲れさまでした、って言っていいのかわかんないけど。あそこまで燃えるとどういう気持ちになるものですか?


「ひとつは時代の中でうねっているもの、今の時代がどういうものかが鏡面みたいに見える感じ。波紋みたいなものを俯瞰してる感覚があって。同時にでも、飛んでくる言葉が日常の景色を埋め尽くしてもくるから……それ相応の効果というか、脅威ももちろん感じました」


それが11月後半から12月にかけての話。あの時点で、アルバムの構想や曲作りはどれくらい進んでました?


「11月後半だったら、ほぼ録ってて、でもまだ追加で録ったりヴォーカル録ったりする作業がまだまだあった」


起きたことが毎回ドキュメントになるのはGEZANのつねだけど、今回のアルバム、あの炎上を経てこうなったのかと思えるところも多々あって。これは偶然ですか。


「偶然です。まず炎上に関しては自分では狙っても何でもなかったことで」


……それは当然そうだね(笑)。


「でも、今石井さんが言ったようにドキュメントが追いかけてきてちゃんと音になる。風が右から吹いたら左に流れるみたいなことは、いつも自分たちのスタイルが反映される。純粋に流されようっていう気持ちもあるし。自分の頭だけで決めると半分くらい間違えるんで。だから片足は自分の軸足だけど、もう片足は時代とか風って呼ばれるものに預けて、いつも不安定でいるようにしてる。両足で立つ、地に足ついてるとか、すごくポジティヴな言葉として使われるけど、ちょっと危険なことでもあると思っていて。自分はつねに片足で、風が吹けば当然なびくし、ケンケンで綱渡りしてるような感覚」


現実の過酷さに対しては真正面から怒りを放つ。そういう強烈なアプローチが過去3作は続いていました。でも今回はとにかく音が優しい。叫びではない歌で統一されていて。


「レヴェルミュージックとかアジテーションって、自分の心が潰れちゃったら、内側から全然立ち上がらなくなる」


あなたが今言うと説得力ありますね(笑)。


「無理やり体温を加熱させて、ソリッドな言葉を出すこともできると思うけど。それは自分も翻弄される中で変化していった部分なんだと思いますね。今の自分の呼吸とか、自分が36・5度なのか37度なのか、みたいな現在地。そこから始めようって気持ちが今回は意図的に、コンセプトとしてありました」


本名の真人に近いのかな。ステージで獣のようにアジテートするマヒトゥ・ザ・ピーポーから始まってない。


「そうですよね、言われてみると。ただ、自分が自分って呼んでる部分と〈こんなの私じゃない〉みたいな部分って誰にでも必ずあって。ダブルスタンダードって言葉も飛び交ってるけど、スタンダードの中にもグラデーションはありますよね。ひとつのアーティスト・イメージで、GEZANはこういうバンドなんだ、みたいにキャラクター設定してやってると、そこから削ぎ落ちていくものがたくさんあって。そこを大事にしたかったところはある。加熱していく手前というか」


はい。


「それはここ数年自分が暮らしてる中で思ってたこと。今回の炎上は別にしてもね。そんなことしてる暇もないくらい世界中で戦争が起こってて。もう日本も戦前みたいな状態で」


嫌だね。きな臭いです。


「政治的なこと抜きにしても、みんな日々戦ってると思う。煽られて、戦いとしか言いようがない過激さの中に放り込まれてる。で、優しいって言葉がこのアルバムに合ってるか自分ではわからないんだけど、今一番聴きたい音楽だったからそうなった。これが一番正直な気持ちですね」


思い返すと、最初に自分に刺さってきた歌って何でした?


「なんだろう……でも唄ってもいいんだなって気持ちに最初になった記憶で言えば、羅針盤。山本精一さんの羅針盤は〈唄っていいんだ〉って気持ちになったな。それは〈唄え!〉とか〈唄うべき〉ではなくて、〈唄ってもいい〉っていう感じだった。静観して、こっちに選択肢があるんだっていう態度でいてくれる音楽。それが人を自由にすることもある。それは今回のアルバムに通じていて」


あぁ、わかります。


「強いステートメントで〈こうしなきゃいけない!〉っていう前に、呼吸を取り戻して、自分自身の体温を確かめて、なんか希望を探してみたり自由を満喫したくなる。そのことで一人称がちゃんとその人自身に還ってくるというか。それが、自分が今まで使ってきた言葉で言えばレヴェルミュージックのひとつの意味だと思った。自分の中に追加された新しい意味」


もしかするとマヒトさんは、ぎゃあぎゃあ騒ぎたくてバンドを始めたわけではなかった?


「や、ぎゃあぎゃあ騒ぎたくてヴォーカルになったんですけど(笑)。でもそれはその時の選択だし、当時は叫ばないとやってられない、自分でいられないってことだったと思う。その叫びの種類が変化していってるだけで、今もそれは同じ。騒ぎたいって意味ではほんとに一緒です」


同じ気持ちが、時代の風を受けているうち、今回の〈愛〉や〈祝福〉っていう言葉になっていった。


「うん。ほんと、もうディストピアって言葉すらハマらないような世界の中で、ただ虚無感をスケッチして〈これが俺たちの共有できる感覚だよね〉っていうこと、今のタイミングで唄う気にまったくなれなかった。祝福すること、あとはここに今いること、生きてること。それって戦争とは真逆の状態ですよね。それらがすべて奪われていくことが戦争状態だから。そのことを肯定して、輪郭を自分たちで捕まえたかった。それが一番素直なリアクションなのかな」


逆の考え方もできますよね。みんながいがみ合ってる時代、愛なんて一番リアリティがないじゃないか、と。


「うんうん。みんなお花畑と揶揄の意味で使いますよね。でもお花畑のことミュージシャンが唄えなくなったらマズくないすか?」


確かに。


「だって、叶ってもない夢みたいなことを歌詞にして、〈さよなら すべての戦争〉とか〈夜明けが来た〉とか、来てもないのに唄えるって相当無責任な言葉たちなわけで。言い方を変えると、そういう存在がお花畑のことや自由の気配を唄えなくなったら、もっと現実的に責任ある人たちだけでこの世界ができあがってるんだとしたら、世界は既存のルールで行き詰まっていくしかない。こうやって自由が手渡されてるアーティストは、その自由をポジティヴなものに使わないといけない役割なんじゃないかって、ここ最近すごく思ってることですね」


まさに。ごもっともだと思います。あとは、メンバー全員が一曲目から声を重ねて、それぞれ〈違う方向に行く〉って唄っていることも今回のアルバムの特徴なのかな。


「うん。それは武道館前にこのアルバムを作ったこともどっかしら関係してて。武道館に向けて47都道府県ツアーなんて始めたら、朝起きてから寝るまでずっと一緒の状態が続くわけで。去年はその時間がすごく長かったから、日常の景色としてそれぞれの色が入ってくる。やっぱり悩んでることも考えてることもみんなちょっと違くて。これだけやっててもひとつになれない部分に救われることもたくさんあったので」

シェルターの中だけで生きていくことに限界を感じてる。だから入り口に鍵を閉めない。誰でも入ってこれる態度だけは持っておきたくて

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