ピリピリした感じっていうか、それが楽しさにつながっていく感覚。それはミッシェルでやってる時に一番多いから


ここ1、2年ですごく聴いたアルバムって、何かありました?
「あーんまり音楽聴かないし、1枚を深く聴くってことがないんですよねぇ。友達のバンドのアルバム出たら、それ聴いていいなぁって思うくらい。でも〈サンダーバード~〉とか〈マリア(と犬の夜)〉とかが出てきた時に、ちょっとジャズの巨匠を聴いてみようかと思ってですね。ドラマーの、バディ・リッチだったりマックス・ローチだったりを一応聴くんです……がぁ、〈ムリムリこんなの!〉って(笑)。もう参考にもならないし、ワザを盗むのも無理だし、ただただ驚愕して終わったっていう(笑)」
ははは。ちなみに、一番好きな、憧れるドラマーっているんですか?
「あー、あんまりいないんすよね。そんなに。憧れとか………。まぁ、聴いたら聴いたでカッコいいなぁって思うんだけど。あと、身近にドラムをやってる友達やら諸先輩方が多いので。SHEENちゃん(ザ・ニートビーツ)だったり達也さん(中村達也)だったり。そういう人の出たものを聴けば、カッコいいなーって思うんですけどね」
ふーん。そもそも、ドラムはなんで始めたんでしたっけ?
「ドラムはね、最初は……RC(サクセション)の武道館ライヴをテレビで観て、新井田耕造さんが〈スウィート・ソウル・ミュージック〉って曲から〈ダーリン・ミシン〉って曲に移行する時にドラム・ソロやってて。それがすっごいカッコよくて。ドラムやりたいなぁ、いいなぁって。それで始めたのかな」
今はクハラさんを見てドラムを始めてる人も多いでしょうね。
「うーん! エライことになってしまったと思いますよ。なんか、ツアーとか行って街歩いてて、そういう若い人……若いって俺もまだ若いつもりでいるんですけど(笑)、そういう人に会うとね。〈真面目にかいっ?〉て。困惑しますよね。参ったなぁーっていう」
いや、参んなくても(笑)。素直に嬉しいとかは?
「んー……恥ずかしいっすよ(照笑)」
ドラマーとしてどう見られると嬉しいっていうの、あります? たとえば真似したいと思われることが嬉しい人もいるし、上手いって言われるのが一番嬉しい人もいるだろうし、存在感を示したい人もいて。
「あー、上手いねって言われても嬉しくないですよね。嬉しくないっちゅうか、何とも思わない。実際上手くないし。でも、そうだなぁ……ミッシェルのタイコは俺しかいないなぁ、っていうふうに言われると嬉しいかも」
それは、その自負があるから。
「ありますよ。もちろん!」
音以外で、人間的な部分で、ミッシェルにおける自分の役割、どう見られてるかってことは考えます?
「役割までは考えたことないんですけど、一番俗っぽいかなって思いますよ(笑)。あ、ゾクっていうのは世俗のゾクで――」
や、わかってますよ(苦笑)。
「間違っても暴走族じゃないからね! でも一番俗っぽいのは自分だなーっちゅうのは思う。スタジオで、リハの合間とかに『誰々の新譜聴いた?』とか『あの映画観た?』とかさ、そういう話をするのは主に前の3人で、ワタシはどれにもついていけない(笑)。何それ?ぐらいの。そういう位置というか役割にいます(笑)。俺はなんか、つまらなーい、他愛もなーい話ばっかしてますけど」
いやいや。でも考えたらクハラさんは、ファンの声援にしても、唯一〈ちゃん付け〉で呼ばれてますからね。
「ぶはははは! まぁねぇ……まぁバンドで一番年下だし、一番ちっちゃいし」
背の問題?
「違うね(笑)。うーん、でもそっか、〈キュウちゃん〉かぁ……ははは。もう〈キュウちゃん〉って歳でもないけどねぇ」
まぁその〈ちゃん付け〉自体、ミッシェル・ガン・エレファントのパブリック・イメージみたいなものからは――。
「んははは! 俺、逸脱してますねぇ! もしかしてヤバい? でもねぇ、あんまりその、他のメンバーに迷惑かかるくらい逸脱したらマズいなぁとは思いつつ、無理してもコケますんでねぇ? なるべく自然に。……でもね、考えたらよく言われるかも。初めて会った人に『もっと怖い人かと思ってた』とか。『いやぁ俺はこんなもんすよ?』って答えますけど。バンド全体のイメージでいえば、そんなふうに思ってる人はけっこういらっしゃるみたいで」
でも、そういうズレというか人間的な違いはありつつ、4人でなきゃ生まれない音と空気はあるわけで。
「うん。もちろん!」
それは安心感みたいなものですかね、それとも緊張感に近い?
「安心感とは違う気がする。安心感じゃないなぁ。いつも、常にピリピリしてますからね。もちろんいい、ピーンとしてる感じの緊張なんですけど。まぁ〈……やるぜ!〉っちゅう感じの。やっぱ4人で演奏してると刺激があるからね」

刺激から衝動を掻き立てられるような。このアルバム作ってる時も、そういうことは感じました?
「もちろん。やっぱり凄いなぁって思いましたよ。ベーシックのOKテイクが出たあと、ギターとかダビングしてくんですけど、そういうの見てたら〈おお、さすがだねぇ。やるなぁ〉っていうのはありますよ、やっぱり。それが楽しさにつながってくんですよ。もちろんようこちゃんのレコーディングの時も〈やるなぁ〉とは思うんだけど。自分にないものが出てくるから。ただ、さっき言ったピリピリした感じっていうか、それが楽しさにつながっていく感覚。それはミッシェルでやってる時に一番多いから」
あぁ。そこで4人が結びついてると。
「……うん。でしょうね」
ま、今さらいちいち確認もしないか。
「ですよ! 4人で真面目に『俺たち刺激しあって4人でやってるよなぁ』とか(笑)、そんなこと言わないし。結果としてその答えっちゅうか、状態が出てるから」
ただ、そういうシンプルな作業をずーっと繰り返してきたのに、なぜか〈もう解散では?〉みたいな噂もあって。
「言われてましたねぇ~。なんでだろうって思いますよ。それが一番ドラマチックだったのかなぁ? やっぱ、間が空いたからね。幕張が終わって、次動くまでに時間があって、その間にチバがROSSO始めたりしたから。それはね、そういうドラマチックな思いを駆け立てたい人にとっては絶好のネタだったんじゃないですかね」
ま、新作聴けば危機も何も、全然違うってわかりますからね。
「うん。でもわかんないけどね。俺だけそう言ってるかもしれない(笑)。他のメンバー今ごろ『いや実はね、思ってましたよ。クハラがダメでね』とか言ってたりして(笑)。もう俺、発売された『音人』見てビックリですよ!? 俺って裸の何様よ?」
うはははは!
「ま、たぶん大丈夫なんですよ(笑)。でもまぁ、いつ解散してもおかしくないバンドだとは思いますけどね」
それは今も思うんですか?
「うん。いや、別に悲観的になってるわけじゃなくて。なんでも永遠なんてありっこないんだし。いろんなバンドが解散するの見たりしてるし。ウチらだっていつかそうなるかもしんないなーとは思うし。だから、いつ終わってもおかしくない。それはデビュー当時から思ってましたからね。めちゃめちゃ危機に瀕するなんてことはないんだけど」
確かに、永遠に続くバンドはないし、意味もなくチンタラ続くバンドよりは全然素敵だと思います。
「そうそう。さっき言ったような、ピーンと張り詰める瞬間がなくなったり、何をやっても全然刺激がないなーって思うようになったら、それは続けててもねぇ? そーんなたいそうなもんじゃないでしょ。ただのロック・バンドですからね、我々は」
その〈ただの〉とか〈たかが〉って感覚、クハラさんはすごく持ってますよね。卑下ではないけど、無理に気負わない。
「うん……なんか、あんま、ロックンロールはこうである、みたいな、確固たる哲学を持った人間ではないので。だから何とも思わないですよね」
哲学的、思想的にいえば〈ミッシェルのロックンロールで何を伝えたいのですか?〉なんて大袈裟な質問もできるんですけど、それに対する答えを持ってます?
「あーー、んーと…………………ま、ミッシェルが奏でる、音楽を、伝えたいっていう。すんごい上っ張りの話なんだけど(笑)。真ん中の、核とか内側の話になるとよくわかんないね。ほんと、帆を張って、風が吹くほうにぶぅ~んと行ってるだけからね」
ははは。じゃあ今、ミッシェルはどこに向かってるんでしょうね。
「んー、わかんない。とりあえずツアーは決まってるから、40ちょい。そこに向かって走るっていうくらい」
楽しみですねー。
「ま、ガンガンやってってナンボですからね。ガンガンやって汗かいて、走るのが一番落ち着きますね。何もしてないとダメ。ほんと、何もない時は〈こんなんでいいのかな、俺〉とか考えちゃうんで。ガーッとやってる時はなんも考えてないんで。やっぱり、それが性に合ってるんでしょう」
文=石井恵梨子
撮影=岡田貴之
7th ALBUM(LP)
『SABRINA HEAVEN』
2025.10.01 RELEASE

・LP2枚組 180g重量盤
UMJK-9154/5 ¥6,050
https://tmge.lnk.to/sabrina_heaven_lp
【DISC 1[SIDE A]】
01.ブラック・ラブ・ホール
02.太陽をつかんでしまった
【DISC 1[SIDE B]】
01. ヴェルヴェット
02. メタリック
03. ブラッディー・パンキー・ビキニ
【DISC 2[SIDE A]】
01. マリアと犬の夜
02. ジプシー・サンディー
03. マリオン
【DISC 2[SIDE B]】
01. サンダーバード・ヒルズ
02. NIGHT IS OVER (instrumental)

・リマスター及びハイレゾ配信
https://tmge.lnk.to/sabrina_heaven_remastered
01. ブラック・ラブ・ホール
02. 太陽をつかんでしまった
03. ヴェルヴェット
04. メタリック
05. ブラッディー・パンキー・ビキニ
06. マリアと犬の夜
07. ジプシー・サンディー
08. マリオン
09. サンダーバード・ヒルズ
10. NIGHT IS OVER (instrumental)
