ふたりでじっくり話をしたのは、2020年10月リリースのフルアルバム『ねえみんな大好きだよ』の取材以来、なんと5年ぶりである。その間、シングル「少年少女」のリリースはあれど、それ以外の新曲はまったく音沙汰なし。またコロナ禍で全国ツアー〈2020年銀杏BOYZの旅〉が中止となって以降、弾き語りやアコースティック編成によるツアーは行われたものの、彼らのライヴをバンドセットで観ることはめっきり減った。しかし今年に入り、アメリカ西海岸6ヵ所を廻るツアーを敢行。そして7年ぶりとなるワンマンツアー〈昭和100年宇宙の旅〉を全国4ヵ所で開催した。ライヴでは新曲も披露され、これからに期待が膨らむ、というかもう、バンドが完全覚醒していた。あの頃と同じではないが、自身を突き動かす何かを取り戻した、そんな印象だ。47歳でいまだ尽きぬ衝動。どこかに忘れているだけで、君にも、僕にも、彼にも燻っているその正体は何なのか。峯田和伸に聞いた。
(これは音楽と人2025年9月号に掲載した記事です)
久々のインタビューになります。
「5年ぶりぐらい?」
そうですね。つまり5年ぐらい何もリリースしてないってことです。
「あたた……余計なお世話だよ、人がいつ何を作ろうとさ(笑)」
(笑)。久々のバンドセットでのツアー〈昭和100年宇宙の旅〉が終わり――。
「そう、こないだ終わりました」
その前にUSツアーもあったじゃないですか(〈銀杏BOYZ アメリカ西海岸ツアー ~YOU & I VS.THE WORLD 2025~〉)。その話からですね。
「アメリカ行けたのは大きかったな。昔のゴイステ(GOING STEADY)の頃のツアーみたいにさ、ライヴやって、その日はその街に泊まって、午前中に起きて、メンバーと機材に囲まれた車で8時間移動。次の街に着いてライヴ。そういう毎日の繰り返し。でもやってよかった。鍛えられたし、行きたいところにも行けたしね」
行きたいところはどこだったんですか?
「いろいろあるけど、カート・コバーンが住んでた家と、聖地になってる公園かな」
ヴィレッタ・パークだ。
「そう。最初に着いたのがシアトルで、その日はオフだったから、そこに行って。公園のすぐ隣に彼が住んでた家があって、もう今は廃屋なんだけど、まだ残ってるのね。歩いて10分ぐらい行けば高級住宅街があって、そこに住めるくらい稼いでたはずなのにさ。カートの家はそこじゃなくて、湖のそばの、ほんとに真っ暗な森の中にポツンとあった。大きめの木造の家」
売れてからもずっとそこに住んでたんだよね。
「なんかカートらしいよね。そこさ、夜、真っ暗なんだよ。何もなくて目の前が湖。こんなところにコートニー(・ラヴ)と一緒に住んでたんだな、って。しかもそこ、今、柵とかキープアウト(立入禁止)とか何もないから中に入ろうと思えば入れるの。不法侵入だけど。で、いろんな人が来てるわけだけど、よくあるスプレーとかのイタズラ書きが、ひとつもなくて」
へぇ~。
「誰も汚してない。ここは汚しちゃいけないって思うんだろうね。で、公園には、カートがよく座ってたベンチがあるんだけど、そこはメッセージだらけだった。世界中からいろんな人が来てメッセージを書いていったり、石ころに絵具か何かで〈アイ・ラヴ・カート〉って描いて置いてあったり。あそこに行けたのはなんかよかったな……」

ニルヴァーナ、好きだもんね。
「遡るともう32年前だけど、俺は小学校に行ってた頃から音楽好きで。うちの実家の電器屋がCDとビデオのレンタルをやってて、俺、それ手伝ってて。CDコーナーの担当だったの。だから棚にCDが入ってるじゃん? 面出しをどれにするか全部俺が決めてた(笑)。当時は中学生だったけど、高校生のバイトの子にミックステープ作ってもらったりして、周りの同世代に比べたらそれなりに詳しくなったんだよね」
うん。
「そういう音楽に囲まれた10代を送ってたんだけど、高校に入学して最初にできた友達、吉田ツトムくんっていうんだけど、吉田くんはすごい洋楽好きでね。しかもロックとかパンクに特化してた。俺はもっとポップス寄りで、マイケル・ジャクソンが〈ブラック・オア・ホワイト〉出したとか、そういう情報には詳しかったけど、吉田くんはロック原理主義の人で、いろんなCDを貸してくれたの。その中の1枚がニルヴァーナの『ネヴァーマインド』だったんだよね」
ニルヴァーナのセカンドアルバムであり代表作ね。
「『ネヴァーマインド』は、ジャケットは見てたけど、まだ聴いたことなくて。その頃、俺はCDウォークマンを教室に持ちこんで、先生にバレないように聴いてたのね。で、『ネヴァーマインド』のCDセットして、1曲目〈スメルズ・ライク・ティーン・スピリット〉が流れた瞬間――俺、あれから変わったの」
よく話してるよね。
「あれから全部が変わっちゃった。国語の授業中なのに〈うわ~俺、もう元の世界に戻れないかも……〉みたいになって(笑)。それまで聴いてたJ-POPのCD、全部近所の川に捨てたからね(笑)。〈俺、もうこっちじゃない。ここにいちゃいけない!〉と思って。そんぐらい俺にとってニルヴァーナは大きかった」
それが今回ツアーでアメリカ行って、カートの家とか思い出の場所を体験して、どう思いました?
「幸か不幸か、あれから変わってしまったお礼というか、〈こうなったの、お前のせいだぞバカヤロー〉ですよ(笑)」
わはははは。
「でもカートが実際座ってたベンチに俺も座って、〈あの時カートはこの湖をぼーっと見ながら、煙草を吸いながら、ギターを弾きながら、何を思ってたんだろう?〉っていろいろ想像したんだ。そういう空気に触れることができてすごくよかった。あとシアトルって、山形と空気がそっくりでさ。ずっと曇り空で、うちの街と変わんなかった。それもすごいよかったね」
確かにどんよりしてるんだよな。
「俺、山形出てもう30年経ってるのね。もう東京の生活に慣れちゃった。でもあの時、夜中にひとりで家を飛び出して、ウォークマンでロック聴きながら、あてどなく河川敷歩いた、あの感覚をシアトルで30年ぶりに思い出した。その音楽が生まれた街に降り立って、〈この空気感からあの音が鳴るんだな〉っていうのが、理屈じゃなく実感できたのよ。〈ああ、あの音は嘘じゃないんだ〉って」