【LIVE REPORT】
〈UKFC on the Road 2025〉
2025.08.09 & 10 at ZeppHaneda
UK.PROJECTのレーベル部門とプロダクション部門が総力を上げて開催する夏の恒例イベント〈UKFC on the Road〉。2011年に、〈夏フェスが開催されない土地を廻る〉という裏テーマのもと、仙台、新潟、福岡の3ヵ所で初めて行われ、形や場所を変えながら、今年で15年目を迎えた。アニバーサリーイヤーとなった今年はZepp Hanedaを舞台に2日間にわたって総勢21組が出演。2ステージ制で、近年UK.PROJECTに仲間入りしたアーティストから20年以上のベテラン、そして初年度を盛り上げた面々など、さまざまな出演者がこの2日間を大いに盛り上げた。15年かけて〈UKFC on the Road〉が築いてきたもの、示してきたものが凝縮されたような2日間を徹底レポートします!
■DAY1(8/9)

メインとなるFRONTIER STAGEにまず登場するのは、今年から自主レーベル〈0A(ゼロエー)〉を立ち上げ、ニューアルバム『Sono nanika in my daze』をリリースしたばかりのAge Factoryだ。最新作のリード曲「rest/息」からライヴがスタートし、張り詰めた緊張感はありながらも熱のこもったプレイが続く。サービス精神に溢れているわけでも、人懐こく馴れ合うようなバンドでもない。しかし、彼らは音楽で人とのたしかな繋がりを求めている。「向日葵」「Everynight」の開放感や、ライヴ中盤にUK.PROJECTへの感謝を伝え、自分たちの音楽が「誰かのためになれたら」と語った清水英介の言葉はまさにその象徴だった。UK.PROJECTの音楽に救われた自分の音楽が、誰かの人生をまた作っていく。そのサイクルのようなものを感じさせるパフォーマンスで、2日間の幕が上がった。


続いて、ペルシカリアがフロアに特設されたFUTURE STAGEの火蓋を切る。なんばHatchで開催された昨年は、会場規模に圧倒されたのか少しセンシティヴになっている様子だったが、今回は変な気負いもなく威勢のいいパフォーマンスを初っ端から展開。承認欲求が人一倍強いくせに甘えることが苦手な矢口結生だが、そんな自分を素直にさらけ出して唄った「情けない」は、個性的な先輩たちにも負けない〈ペルシカリアらしさ〉が滲んでいた。


7月にファーストアルバム『+天竺』をリリースしたばかりのthe dadadadysは、アルバム収録のパンクチューン「GO jiGOku‼」を1曲目に豪快に鳴らして、フロアの雰囲気をグッと自分へ引き寄せる。ステージを駆け回り、転がり、ぐちゃぐちゃになる小池貞利に対して、他のメンバーも一歩も引かないプレイで応酬。メンバー同士が激しくぶつかり合うことで感情がさらに引き出され、興奮や熱狂を生んでいく。それは、一つになる必要なんてない、それぞれが感情を爆発させてこの瞬間を楽しめばいい、と言われているような気分にすらなるほど。最後には「これからもいろんな人の感情を繋ぐ、架け橋みたいなバンドになっていくんで」と宣言した小池。そのあとの「らぶりありてぃ -la dolce vita-」は、歌をしっかり聴かせながら、UKFCに集まった人たちの感情を掬い上げていった。


そのあとに登場したからあげ弁当は、この日のラインナップの中では完全に陽に振り切れているバンドだ。クセの強いバンド名に反して、音楽はとにかくまっすぐ。からっとしたヴォーカル焼きそばの歌声や愚直な演奏からは、このバンドの素直さだけが飛び込んでくる。〈君のことが大好きだ他に何も見えないよ〉(「君のことが大好きだ」)と飾らずに唄える強さは彼らの魅力だろう。そして、「賛否あると思う」と言って披露したsyrup16gの「Reborn」のカヴァー。丁寧かつ楽しそうな4人の演奏から、〈好きだからどうしてもこの場所でやりたかった〉というただただ純粋な思いが伝わったのだろう。その証左として彼らが立ち去ったあともフロアからの温かい拍手が止むことはなかった。


FRONTIER STAGEに登場したART-SCHOOLは、今がバンドのピークなんじゃないかと思わせる鮮烈なライヴだった。今年で結成25周年を迎え、現在は最新アルバム『1985』を引っ提げたツアー中ということもあり、バンドの状態も上々。トリプルギターと強力なリズム隊という5人で鳴らすサウンドは、巨大な塊となってこちらに迫ってくるし、「スカーレット」の冒頭では木下理樹も声を張って気迫を見せる。この日に懸ける思いの大きさが垣間見えたような瞬間であり、戸高賢史も「ART-SCHOOLが25年続いたのは、誇張でもなんでもなく、UK.PROJECTがあったから」と思いを述べる場面も。過去の曲と近年の曲が混ざり合うセットリストで、色褪せることないイノセントと鮮やかになっていく今のバンドの姿をまざまざと見せつけていく。救いのない中でも光を求めて唄い続けてきた25年。「FADE TO BLACK」の轟音は、そんな25年を支えてくれたUK.PROJECTへの感謝に満ちていた。


エルビス・プレスリーの「A Little Less Conversation」のSEで登場したthe myeahns。昨年からUK.PROJECT内のロックンロールレーベルDECKRECよりリリースしていて、UKFCは今年が初出演だ。初とはいえ、活動キャリアはすでに10年を超えているバンドなので、そのパフォーマンスも堂々たるもので、ご機嫌なロックンロールナンバーでフロアの心をグイグイ掴んでいく。「アウェイって聞いてたけど、ホームみたい」と満面の笑みを見せる逸見亮太に、こちらも一層楽しくなり、最後には会場全体が身体を揺らし、手を上げていた。さまざまなジャンルのアーティストが出るUKFCだが、フロアはいつでも温かいし、音楽をしっかり楽しもうとする姿勢が強いのも特徴のひとつだ。


まさかこの人たちがこのイベントに出演する日が来るなんて、誰が想像できただろう。限定復活した椿屋四重奏2025がFRONTIER STAGEに姿を表すと、割れるような歓声と拍手が起きた。UK.PROJECTから初めてリリースしたミニアルバムの1曲目となる「群青」で幕を開け、「長い歳月をかけて実家に帰ってきました。今日はUK.PROJECTからリリースした曲だけをやります」と中田裕二が口にする。今年のツアー中はずっと〈椿屋四重奏2025〉と自称していたが、この日は終始〈椿屋四重奏〉と名乗っていたのも印象的だった。おそらく古巣に対する愛情や当時への思いを噛みしめるところもあったのだろう。しかし、演奏自体は当時をなぞるようなものではなく、今のバンドのグルーヴがちゃんと鳴っている。ロックの幻想を追いかけるのではない、酸いも甘いも知ったうえで鳴らされる豊かで深みのあるサウンドは、ここまでの道のりやこのタイミングでの復活が間違いではなかったことの証明だ。最後は「またいつかお会いしましょう」という言葉を残してステージをあとにした。


各ステージもラストのアクトとなった。FUTURE STAGEのトリを務めるのはHelsinki Lambda Club。2014年に行われたUK.PROJECT主催オーディション〈Evolution!Generation!Situation!〉でグランプリを獲得し、その年のUKFCで初出演を果たした彼らもすっかり中堅どころ。「ミツビシ・マキアート」や「何とかしなくちゃ」といった陽気なナンバーで始まり、後半にかけてどんどんディープな方向へ。UKFCに参加し始めた当時は、どうやって爪痕を残すか、いかにフロアを惹きつけるかに躍起になっていた印象もあるが、今ではさまざまな音楽を取り込みながら揺るぎないバンドの世界観を確立してきたことがわかる。そんな貫禄すら感じさせる堂々のステージングで大トリのsyrup16へバトンを渡した。


いよいよこの日の最終アクトとなるsyrup16がFRONTIER STAGEに登場。過去、五十嵐隆がソロ名義でUKFCに出演したことはあるが、バンドでは初登場だ。2013年の弾き語りで出演した際、「ひとりでステージに立つと自分を武装してしまう。シロップというクッションを置かないと、自分というものがちゃんとわからない」ということに五十嵐自身が気づいてシロップ再始動へのギアが入ったと、その後のインタビューで話してくれていた。つまり、UKFCがあったからこそ、今の彼らの活動があると言っても過言ではないだろう。先日ツアーが終わったばかりということもあり、3人の演奏に感じるのはたしかな充実感で、「15年目で初めて出れました。仲よくしてください」「錚々たるバンドの最後をやらせてもらって恐縮です」といった自虐的な五十嵐のMCに対しても、フロアからは温かい拍手と歓声があがる。今と過去を繋ぐように本編のセットリストは最新アルバム『Les Misé blue』の曲と初期の曲で構成されていた。そしてアンコールで再び登場し、活動を支えてくれるUK.PROJECTと応援してくれている人たちへの感謝を伝えてからの「Reborn」。〈時間は流れて/僕らは歳をとり/汚れて傷ついて/生まれ変わっていくのさ〉という歌詞が、生まれ変わって生き続けていくことを肯定する。それは、15年という歳月を重ねてきたUKFC、いろんなことがありながらも長く活動を続けてきた仲間たち、これからUK.PROJECTの看板を背負っていく下の世代、そして日常を必死に生きながらもこうして音楽が鳴る場所に足を運ぶリスナー、すべての人たちへの讃歌のようだった。


みんな歳を取っていく。決して昔と同じままではなく、生まれ変わりながら、その時代を共に生きていく。そんな希望を感じる1日目が終わった。そして、この日はUK.PROJECTに脈々と流れるオルタナティヴ、シューゲイザーの系譜が色濃く出ていたが、明日はどんな景色が見られるのか。期待に胸を膨らませながら会場をあとにした。
文=竹内陽香
写真=河本悠貴(FRONTIER STAGE)、Emily Inoue(FUTURE STAGE)