心を揺さぶられたり、座右の銘となっている漫画、映画、小説などの1フレーズが誰しもあるはず。自身の中で名言となっている言葉をもとに、その作品について熱く語ってもらう連載コラム『言の葉クローバー』。今回は、ヤバイTシャツ屋さんのもりもりもとが、音楽のすばらしさを実感したという映画を紹介してくれました。
(これは音楽と人2025年7月号に掲載した記事です)
『メタルヘッド(原題 Hesher)』
人生は雨の日の散歩みたい
身を覆ったり隠れたりできるけど 濡れたままでもいいのよ
作品紹介
『メタルヘッド(原題 Hesher)』監督:スペンサー・サッサー
2011年公開のアメリカ映画。ある一家の前に突然現れた破天荒な男が、ヘヴィメタルの音楽とワイルドな行動で傷ついた家族の傷を癒していくヒューマンドラマ。
僕はふだん音楽映画が好きなんですけど、題名のとおりヘヴィメタルの映画だと思って観たら、全然そうじゃなくて(笑)。ただ、ずいぶん前に観た作品なのに、今でもずっと忘れられない映画なんですよ。
映画自体はいわゆるブラックコメディなんですけど、母親を亡くして傷ついてるT.J.っていう男の子の家庭に、ヘッシャーっていうメタル好きの謎の男が勝手に住みつく中で、家族にだんだん変化が訪れていく物語。そのヘッシャーがとにかく粗暴というか破壊衝動の塊で、T.J.をイジメた相手をボコボコにしたり車を燃やしたり、やりたい放題なんです。でもその一方でどこか優しさがあって、その家族はヘッシャーのおかげで傷ついた心が癒されていくんです。
このセリフはT.J.のお婆ちゃんの言葉なんですけど、この映画全体だったりヘッシャーという人の生き方を象徴してると思ってて。〈幸せだな〉って思うことって、人生の中でもほんの一瞬だったりするじゃないですか。1日の中で楽しいとか幸せを感じることよりも、退屈だったりムカついたりストレスを感じることのほうが多い。つまり「人生は雨の日の散歩みたい」だと。でも、雨に濡れてみっともない格好になったって、それでいいんだよ、そういう辛いことと共存していくのが人生なんだよ、っていう言葉を残すんです。で、まさにヘッシャーがそういうメッセージを発信する人で。上手くいかないことがあっても、それもまた人生なんだと。
ここで紹介するために昨日この映画を観返して思ったけど、ヘッシャーという男の存在って、僕が好きな音楽に出会った時の衝撃に似てるというか。自分の代わりに何かを表現してくれたり、人前で表に出せない感情をぶつけてくれる存在なんですよ。T.J.にとってヘッシャーがそういう存在であるように、僕にとって音楽とかバンドってそうなんだよなって。学生時代、ロックと出会ったことで、辛い学校生活が救われたというか。ロックってうるさくて攻撃的な音楽に聴こえるけど、その中には優しさとか愛がある。ヘッシャーもそう。僕にとっては音楽の素晴らしさを実感できる映画でもあるんだなって。