2024年に結成20周年を迎えた9mm Parabellum Bullet。彼らの記念すべき節目にあたり、〈9mm Parabellum Bullet 20th × 音楽と人〉と題し、これまでに発表されたアルバムに関する記事を順次公開していく特別企画。第7弾は、ギタリスト・滝 善充のライヴ活動の一時休止というバンドの危機的状況を打破するかのごとく制作された7thアルバム『BABEL』。9mmにとってターニングポイントともいえる本作について菅原卓郎と滝 善充に行ったインタビューをお届けします。
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(これは『音楽と人』2017年6月号に掲載された記事です)
昨年末、期限を決めずに滝がライヴ活動を休むことが発表された。それは、夏に開催された〈LIVE 2016 “Waltz on Life Line” at 日比谷野外大音楽堂〉で発生した右腕の不調が大きなきっかけとなったのだが。そんな状況の中、全作曲が滝、全作詞が菅原という初期の9mm Parabellum Bulletのシステムでニューアルバムを制作するということが発表された。そして完成した7枚目のアルバム『BABEL』は、エモーショナルとセンチメントがぶつかり合い、彼らのリアルが映し出された、間違いなく最高傑作だ。今回は菅原と滝のそれぞれに、この作品に至るまでを聞いた。まだまだ厳しい状況は続くかもしれないが、彼らはこれからも止まらない。このアルバムがそれを物語っている。
菅原卓郎 Interview
真剣に不安だったんですよ、新作。でも良かったから良かったなって。
「良かったから良かったですよね。俺たちもそう思います(笑)」
バンドの状況考えると、ここでいいアルバム作れなかったら、〈ロックシーンの最前線にいる9mm〉っていう言い方はもうちょっとできなくなるかな、という危惧があったんですよ。
「ですね。ギリギリの状況ではあるけど、これでカタチに出来たらすごく熱いことになるんじゃねえかなってことも思いながらやってましたよ」
前作が全員で作詞作曲を行って9mmを拡張する役割を担ってたとすれば、今回は9mmのコアを掘り下げていて。
「滝が作曲、俺が作詞っていうアルバムを作ろうっていうのは、6枚目のアルバム『Waltz on Life Line』ができてすぐあとくらいにアイディアとしてあって。あと、『Waltz on Life Line』まで3年くらい空いちゃったから次は短いタームで出そうっていう、その2つがあったんですよね。それをそのまま実行したというか。最初はただ、こういうふうにしたらいいんじゃない、っていうくらいだったんですけど、でも去年の野音(〈LIVE2016“Waltz on Life Line”at 日比谷野外大音楽堂〉)で滝の手に不調が出て、そのあとツアーを経たら、もうこれでやるしかないぞっていうか。むしろこうすることが正解なんじゃないかとか」
そのアイディアでガンガン進むはずだったんですよね。でもあの野音は、本当に参った。
「参りましたね(苦笑)」
今までになかったくらい、これはさすがに9mmまずいんじゃないかって思った。観客も雰囲気感じ取ってたし。
「あんまりどうだったっていう記憶がないですからね。とにかく切り抜けたぞっていうところが強くて」
3人は立派だった。滝さんは本当に大変だったと思うけど。
「でも、全員悔しかったですよ。ライヴした感じじゃないなって。しのいだなって感じで終わっちゃったから。もちろんリベンジしたいなっていうのはあるんですけど、でも同じ公演みたいなことをするのも違う気がするから。実際に今、滝はライヴを休んでるわけだし、慌ててやろうとしたってしょうがない。もちろん〈あそこがまだちゃんと終わってないな〉って思うような場所ではあるんですけどね」
バンドとしてはずっと背負っていかないといけないライヴになりましたね。
「そうですね。それからずっと、いろんなバンドとか、ファンとかに助けられてきてるから。今もそうですけど。普通のバンドとファンの関係以上に力をもらった1年だったというか。しかも、その中で出来たこのアルバムがすごい強度だっていうことがいちばんの救いというか。もちろん解決してることって全然多くないですし、〈このアルバムが完成して全部安心だ〉ってことじゃないけど」
実際、活動休止なり解散、そうは思わなかったですか?
「いや、思いましたよ、もちろん。けど俺はこのまま休止しちゃったり、あるいは解散しちゃうとかはあまりにも中途半端すぎるから、ちょっとそれはしたくないっていう感じでした」
確かに、野音ライヴ前のタイミングで滝さんにインタビューさせてもらってるんですけど、元気いっぱいでしたからね。
「そうですね。ライヴも前半はバッキバキのパフォーマンスでしたからね」
そういうこともあって、なおさらここでは止まれないっていうのがあったのかもしれないですね。
「うん」
そして、その後は予定されていたツアー先で、無料でアコースティックライヴを行ったりして。俺はこういう9mmを見ることになると思わなかったし、正直あまり見たくないなとも思った。でも一方でこういうギリギリの状況でも休まず動くからこそ、9mmらしさの真髄が出る、とも思った。
「ライヴスタッフから、『こういう時だからこそ、お客さんに助けてって言ったほうがいいよ』って言われて。まったくそのとおりだって思ったんですよね。実際、『助けてくれ』って言ってツアーしてましたからね(笑)。でもそれが正しかったです。そう言える人になって良かったというか……だって『もう俺たちボロボロです』って状況なのは間違いないし。もちろんそれでもう観てらんないって思って、しばらくライヴ行けないっていう人もいるかもしれないし、そういう人たちの気持ちもわかるけど、でもなんか大事なところはそこじゃないっていうか。今弱ってるんです、って言って弱さもちゃんと見せるっていうのは強いことでもあるから」
そういうことですよね。全作曲が滝さん、全作詞が卓郎さんっていう構造で、そのことが明らかにこのアルバムに出ました。これは強靭なアルバムですよ。
「そうですね。アルバム10曲をひとつのトーンで聴かせるものにしようっていうアイディアが選曲の時からあって。曲選んだのは滝とディレクターなんだけど、選んできた10曲の歌詞のイメージも滝が渡してきて。それが〈時代が巡ってるような感じ〉だったんです。手塚治虫の『火の鳥』みたいに、この曲は何時代、この曲は現代の文明が発達して、その文明が壊れて、一回全部チャラになって石器時代みたいになるとか」
滝さんの作曲イメージすごいわ。
「はははは。それは曲聴いててそう思ったみたいですけど。でもそれも半分くらいですよ。半分はちゃんとイメージが書いてあって、残り半分は〈よくわかんない〉っていう。いきなりざっくりしたメモになってたりして(笑)。まあ全部が全部、時代で表わすのに無理があるのは滝もわかってるから、曲を聴いて思ったままの景色を書くっていうのと、どう書いたって自分たちのことになるはずだから自分たちのことを書こうと思ったんですよね」
そう、今までになく、歌詞はあなたたちそのものですよね。それまでがそうじゃなかったとは言わないんですけど。
「そうですね。ただ、それまではやっぱりちょっと隠してるというか、自分たちのことは書かなくていいんじゃないかっていうのがあって。今考えたらなんでだろう?って思うんですけど(笑)」
まあそれが9mm独特の叙情性につながってたからね。
「うん。物語を創り上げる、みたいなことだったと思うんだけど。でも自分たちがハードな状況になるとか、俺だったら子どもが生まれたとか、実際そうなってみてわかったんだけど、普通に暮らしてることってめちゃくちゃ豊かなことだなって。だから、直接書くかどうかは置いといて、自分の人生のことを書いちゃうのが一番いいんじゃないかって思ったんですよね」
結果として、滝さんのハイテンションのサウンドに、あなたのイノセントとセンチメントがズルズルっと今のカタチで引き出されるっていう。
「そうですね」
不思議と今回の作詞、一周回ったのか、卓郎さんの初期の歌詞に重なるんですよね。
「思ったのは、10年前出来なかったことをやろうって考えてて。〈10年前のリベンジだ!〉みたいな(笑)」
それは歌詞を書く前から意識していたことですか?
「1曲ずつ歌詞が出来ていくにつれて、すごく簡潔なものになったなって感じたんですよね。〈こんな簡単な言葉でいいの?〉って思ったんですけど、自分が本当だって思ったことは正解でいいぞって決めて。サビなんか同じことの繰り返し、みたいなのが多くて。でも〈それの何が悪い?〉ってつねに自分に言いながら(笑)」
いや、聴いてて全然気にならないですよ。
「ならないですよね。そこも初期の感じというか、それはあるんですよ、不思議と」
9mmの衝撃の基本形がまたこうして目の当たりにできるとは思わなかったです。なんでこの人はこんなバッキンバッキンのサウンドに、自身のイノセンスとセンチメントを見い出しちゃうの?っていう(笑)。
「センチメンタルだなぁって(笑)」
そうやってあなたが伝えようとしたことっていうのは、仲間の別れとリユニオンを繰り返し呼びかけてるように聴こえるんですけど。
「そうですね。やっぱり自分たちに唄ってるんですよね。歌詞の中だともうすでに離れちゃってるんじゃないかという状態が――」
はい、散見されますね。
「散見されますよね(笑)。散見されるんですけど、そこの瀬戸際みたいな不安な状態というか、これから先どうなっちゃうんだっていうところが一番感情的には高まるところじゃないですか。9mmの曲はそういうものが合うというか。不安な状況に置かれてる時の感情の高まり、それと自分たちの状況が合っていたというか、だいぶ味わったって感じかな(笑)。その歌詞を書くに至るまでに」
でもそういう状態から途方もないエネルギーを生み出すのもあなた方なわけで。
「だから昔は、そういう状態はどうやら人間の力が湧くらしいっていうことを、なんとなくわかってるような感じだったんだけど、今は実際に去年の野音含めてハードな状況が何度かあったりして、ちゃんと人生の経験として蓄積されたら、すんなり腑に落ちる、すごく簡単な言葉で出せるようになったっていうことだと思うんですよね」
そりゃこのバンド辞めるわけにはいかねえよなって感じですよね。
「もったいないですよね(笑)。できるじゃん、ほら!って感じ(笑)」
バッキンバッキンの力で押してくサウンドに、なぜかイノセンスが乗っかり、それをステージで、滝さん含めた4人で爆発させるのが9mmだと思うんですよ。そこまでまた持っていきたいですね。素晴らしいサポートギターの方々にはもちろん感謝ですが。
「もちろん滝のいる4人で演奏しているのが9mmだなって、初回盤につくDVDのツアーの映像とか観てても思うんですけど。でもそこは焦ってないかな。それこそバンドを長く続けたら、〈この期間は滝がライヴのステージにいないことがありました〉ってことになるだけ――っていうふうに考えないと。ライヴのステージに立つことを滝自身が諦めてるわけじゃないし、オリジナルメンバーが一番だっていうのはもちろんロマンあふれる素晴らしいことだけど、だからこそ焦んないぞっていう感じかな、俺は。迷走したっていいじゃん、って俺は思ってますけどね(笑)」
うん、状況としてはまだまだこれからっていう側面はありつつ、このアルバムが出来たことは本当に大きかったと思う。
「そうですね。普通に最高ですから、まじで(笑)。作るものにブレはないぞっていうことを示せたのは一番の収穫なんじゃないかなって思います」