2024年に結成20周年のアニバーサリーイヤーを迎えた9mm Parabellum Bullet。彼らの記念すべき節目にあたり、〈9mm Parabellum Bullet 20th × 音楽と人〉と題し、これまでに発表されたアルバムに関する記事を順次公開していきます。毎月1作ずつ、9ヵ月に渡る特別企画。まずは、ファースト・フルアルバム『Termination』について、ヴォーカル&ギター・菅原卓郎のインタビューをお届けします。
(これは『音楽と人』2007年12月号に掲載された記事です)
9mmのファーストアルバム『Termination』。とにかくハイテンションで凄まじい演奏――多くの人が感じたであろう彼らへの第一印象、そしてそれゆえの期待に十二分に応えつつも、フルアルバムらしいしっかりとした緩急がつけられていて、抜群の聴き応えを感じさせてくれる。新曲+35分のライヴという構成のデビュー盤「Discommunication e.p.」に衝撃を受けた人も多かったろうが、この作品はより多彩な衝撃と感動を、より多くの人にもたらすことになるはずだ。
そして、そんな記念すべきファーストアルバムを彼らは『Termination』――終点、終末と名づけたのだった。それは、間違いなく菅原卓郎という人間の脳内由来のセンスである。その通り、このアルバムは〈逡巡による前進〉、〈終わりからの始まり〉、〈絶望からはじまる希望〉という世界観に貫かれている。それは、これまであまたのアーティストとロック・ファンが惹きつけられ続けているテーマだ。菅原はそれに2000年代的に、かつ9mm的にきちんと向き合い、この素晴らしいアルバムをものにしてみせたのだ。
このアルバムをめぐってのもろもろに、弊誌は多角的なプローチをかけていくつもりだが、まずは菅原の単独インタビューからである。
アルバム、素晴らしいですね。
「ありがとうございます」
自分たちでもやれたな、っていう感覚はやっぱりあるでしょう?
「〈やりました! 出ました!〉っていう感覚(笑)」
出し尽くした感じ?(笑)。
「ははは。やれることは――その曲たちに対してやれることは全部やったぞ、っていう」
9mmが作るアルバムって、いったいどんなもんになるんだろう?って思ってたのね。どういういふうに作るんだろう?と思ってて。でもちゃんとフルアルバムだった。
「すごく流れもいいし」
そう、突っ張り一本で押し切ってるわけじゃないんだ。
「うん、流れを作っていって。引どころとかもありますしね」
うん。それは、自然発生的に作れたものなんですか?
「それは、滝(善充/ギター)が曲を作ってくる時に、だいたい1から10まで構成自体を組んできて、それをみんなで肉付けするという感じだったので、〈こういう曲もあったほうがいいんじゃないか〉っていうのは、狙いながら作っていったんじゃないかと思うんですけど」
そう、今回作曲が滝さんになってる曲があるんですよね。
「作曲が滝になってるのは、滝が1から10まで、曲の長さというか、サイズ、大体のところを決定して。それに合わせて全員でパートをつけていったっていう曲ですね」
その方式は今までになかったものなんですか?
「僕らの一番最初のやり方ですね。バンドを始めた時のやり方です」
なんでそうなったんですかね。
「あのー、これお話ししましたよね? 僕らの曲作りがものすごく混乱したんです〈Discommunication〉が――」
うん、8ヵ月かかった。
「あれ、あとから数えてみたら11ヵ月だったんです」
はははは!
「で、それは何が原因でそうなってたのかというと、それまでと同じように滝が曲を出してきて、みんなでアイディアを出すっていうやり方は一緒だったんですけど、みんな、このバンドがどういうものかわかってきて、アイディアをどんどん出せるようになったんですね。それをすごく楽しんでたんですけど、それが〈アイディア出すのが大事〉みたいになっちゃってたところもあったんですよね。曲を活かすためのアイディアなのに、アイディアだけが積もり積もって、その全部を活かそうとして混乱していったっていう」
なるほど。
「それをすっきりさせるために、滝が――意識的にか無意識なのかはわからないけれど、まずは一本ちゃんと筋を通しておいて、そのうえでみんなのアイディアを活かしていこう、っていうことになったんだと思います。ツアー中で時間がなかったっていうこともあるんですけど。だからまぁ、リハビリみたいなもんですね(笑)」
ははは。まぁ、みんなでアイディアを出し合うことが不成功に終わったわけではないけども、っていうところなんですね。
「そう。でも、いっぺん矯正しておかないと、歯止めが利かなくなる部分が出てくるんじゃないかってことで」
じゃあみんなも、滝さんがある程度、固まったものを持ってくるってことはウェルカムだったんだ。
「僕は全然そうです。アイディアの出しすぎで混乱が発生しているってのは、みんなわかってたし、滝も困ってたし。〈だったら、いいんじゃないか〉と。そもそも滝が持ってくる曲は最初から信頼できるものだったじゃないか、ってこともわかってたし。で、その滝の曲に反応して自分たちがやっていくってところは、実は何も変わってないし、1から10までと言っても、それはサイズと基本的なリズムとリフの話であって。〈ギターこう弾いて〉みたいな細かいところまで指示されてるわけでもないし。滝のワンマンバンドになったわけでは全然ないですし」
重要な微調整っていう感じだったんですね。
「そうですね」
また彼に訊く機会もあると思うんだけど、彼、やっぱりいろいろわかってる人なんでしょうかね?
「半分半分じゃないですかね。そういうのが必要なんだと思った部分もあるだろうし、無意識に出してくる部分もあるだろうし、僕も彼にしっかり聞いたわけじゃないからあれですけど、彼、勘はすごくいいから。先に気づいちゃう部分もあったんじゃないかとは思います」
僕。作曲クレジットが彼個人になってるのを見て、〈おお、いよいよ滝も開眼したのか〉なんて思ったんだけれど。
「はははは。実際いいですもんね。メロも滝が作ってますからね」
うーん、すごいな。
「まあ、妖精ですから」
はははは。
「ギターの国からやってきた妖精ですから(笑)。でも、こういうやり方をしたことによって、滝だけじゃなく、(中村)和彦(ベース)が同じことをしてもみんな同じように反応できるだろうし、僕やかみじょう(ちひろ/ドラム)くんが同じことしてもそうだろうと僕は考えてます。あるいは……こないだ、4人で、2日で20曲くらいアイディアを出した時があって」
わははは。
「それは、みんながキャタクターとかを設定して〈ゲーム音楽を作ろう〉みたいな感じでやったんですけど(笑)。〈この後、このキャラはどうなるのか〉みたいな感じでいろいろやってみたら20曲(笑)。そうやって4人でも作れるし、それぞれがそれを持ち帰って〈こういうことを考えた〉ってのもできるだりうし」
やり方が増えた。
「そうですね。じゃあ次に何をしようとか、そういうことは決まってないんですけど」
うん、このバンドにはまたいろんな展開がありそうだっていうことを感じさせてくれるアルバムになってると思います。
「いや〜、本当にみんな褒めてくれて、だんだん〈これはイカン!〉と思うようになってきてます(笑)」
はははは。で、そういう素晴らしいファースト・アルバムにね、『Termination』――終末、と名づけてしまう菅原さんのお話が聞きたいわけなんですよ。
「はははは。いや、でもこれ実は名づけたの和彦なんですよ」
あ、そうなんだ。
「はい。でも僕もうっすら思ってたんです。まったく別のタイトルをつけるか、〈Termination〉だろうなぁ、と。そしたら和彦が先に『タイトル〈Termination〉がいいと思うんだけど』って。だから『いいと思いまーす』」
はははは。しかも彼もわかってるねえ、9mmのなんたるかを。
「ふふふ。大人ですからね。最初はパッと収録曲の中から取っただけっていう部分もあるんですけど、〈Termination〉には終了とか、電車とかの終点とか、そういう意味があって。このアルバム、最近作った曲も入ってるし、インディーズからの、結成して4ヵ月くらいで作った曲も入ってるんです。それ、最後の曲なんですけど」
「Punishment」だ。
「そういうところも踏まえて、今までやってきた活動の区切りとして、〈終点で、ここから別の電車に乗り換えましょう〉っていう。あと、ファーストで〈終了〉っていうのもパンチ効いてるぞ、と(笑)」
いやぁ、そこが実に9mmしてるなぁと思いましたね。いろんな未来の見えるアルバムだし、いいアルバムだし、これからっていうアルバムだし、その世界はスッキリしてない部分はスッキリしてないし、やっぱり苦しんでる。
「スッキリしたからいいアルバムできました、って、そういうことにはならなかったですね。アルバム出せたことにはスッキリしてますけど。歌詞、もっとリラックスして鋭いこと言えばいいなと思いますけど」
でも、このアルバムに関して言えば、それでいいと思う。重い言葉がちゃんと重く伝わってくる。
「このアルバムに関してはそうかもしれないですね。うん、このアルバムに入ってるずっしりした部分とかは、根本的になくなるもんじゃないと思いますね」
うん。何かが終わっている部分がある。何かあらかじめ罪を背負っている部分があるというか。そこから始まってるところに目を向けている。
「あらかじめ――というよりは、現在進行形で背負い続けてる感じです。ポイ捨てする。それを回収する人がいるとか。洗剤捨てたら川の水が汚れるとか。それについて答えを出すというよりも、とっかかりにしてもらいたい、って感じです。だから、〈気づけ、気づけ〉って。そして自分に、〈忘れんな〉っていう。気にしていたらキリがないのだけれど、でも自分がしたことが良かれ悪しかれ何かに影響を与えている。それは忘れないようにしてます」
〈終わりの始まり〉〈終わりって、終わらないなぁ〉みたいな感じ。
「そうなんですよね……ぐるぐる回っていく感じ。バンドの練習もそうだし。〈あれ、これ2年前くらいに俺らの課題じゃなかったっけ?〉って。でも、それを繰り返していけばいいんだよなって、その時の問題を片付けていけばいいんだって、滝とそういう話になったことがありますね。それ、いろんなことに当てはまっていく問題のような気がします」
うん、ロックってそういう逡巡を解決に導きそうな感じもさせるし、一方で増幅もさせるっていう。変な回路を持ってる音楽だと思うんだけれど、そこにきちんと向かい合ってる、すごく誠実なロックアルバムだと思う。
「バンド自体はロックのことをあんまり気にしないで、〈何がなんだかわかんないものを作ろう〉という意識なんですけど、そこがそう感じてもらえる部分なんじゃないかと思います。僕らの音楽が、フォーマットはロック上に乗っているっていうこともあるだろうけど」
だから、この時代の、この世代のロックアルバムの作り方という気がします。で、このアルバムがとても楽しいアルバムだっていうこともすごく大事。すげえ爽快。
「(笑)そうそう、そうです。楽しい。ぼくらはめちゃくちゃに楽しんでる。パッと暗い、みたいに感じられる部分もあるとは思うんですけど」
あのね、音聴く前にまず歌詞を読んだ撮影スタッフの方が、ぽつんと言ってたよ。「若いのに苦しんでいるわね」って。
「はははは」
それも確かに真実なんだけどね。
「僕の歌詞、そうなってますからね。でも、バンドはすげえ楽しいぞ、楽しいからこれをやってるってのがわかってもらえると、作った甲斐があるぜと思いますね」
文=柳 憲一郎
写真=下薗詠子
9mm Parabellum Bullet
BEST ALBUM
『THE ULTIMATE COLLECTION -20Years, 20Bullets-』
2024.07.31 RELEASE
- 太陽が欲しいだけ
- Black Market Blues
- The Revolutionary
- キャンドルの灯を
- Punishment
- Talking Machine
- Discommunication
- 光の雨が降る夜に
- 黒い森の旅人
- ハートに火をつけて
- ロング・グッドバイ
- Supernova
- 名もなきヒーロー
- Scenes
- スタンドバイミー
- ガラスの街のアリス
- 生命のワルツ
- Mr.Suicide
- Brand New Day
- One More Time
「カオスの百年 20th Anniversary Special」&「LIQUIDROOM 20th ANNIVERSARY」
9/9(月)恵比寿LIQUIDROOM
OPEN18:30 / START19:30
※スペシャルゲスト:the telephones
〈9mm Parabellum Bullet 10th Album リリースツアー〉
2024年
11/09(土)[神奈川] F.A.D YOKOHAMA
11/16(土)[北海道] 札幌 PENNY LANE24
11/17(日)[北海道] 小樽 GOLD STONE
11/23(土)[山形] Session
11/24(日)[宮城] 仙台 Rensa
11/30(土)[京都] 京都FANJ
12/01(日)[兵庫] 神戸VARIT.
12/06(金)[香川] 高松オリーブホール
12/08(日)[愛媛] 松山Wstudio RED
12/19(木)[東京] 下北沢 CLUB251
2025年
1/11(土)[東京] Spotify O-WEST
1/18(土)[広島] CLUB QUATTRO
1/19(日)[岡山] CRAZYMAMA KINGDOM
1/25(土)[水戸] LIGHT HOUSE
1/31(金)[渋谷] CLUB QUATTRO
2/1(土)[栃木] HEAVEN’S ROCK宇都宮 VJ-2
2/8(土)[福岡] DRUM LOGOS
2/9(日)[鹿児島] CAPARVO HALL
2/22(土)[東京] Zepp DiverCity(TOKYO)
3/1(土)[愛知] Zepp Nagoya
3/2(日)[大阪] Zepp Osaka Bayside