その時は誰もわかってないかもしれないけど、一生懸命やってたら、ちゃんとわかる時が来るから
今、前キーボードの伊藤洋一の話が出てきたので違う話をしよう。中学からの同級生を中心に結成されたこのバンドは、ロックンロールの雷に打たれたあの衝撃と、14歳のみずみずしさを5人で共有していた。そこが魅力のバンドだった。それはもう、今の3人の中にないのだろうか。
松本「もうそれは終わった。僕ら、青春ってキーワードをよく与えられてたけど、あの時代はもう終わり。洋一さん辞めて、丈(河野丈洋)が辞めるって言って。俺はほんとにホッとしたから。ああ、これでバンド辞められる、って」
中澤「あれで1回終わってるんです。そのあと素生が『やっぱりまだバンドやりたい』って言ってきてからのゴーイングは、もう別のバンドになってる」
松本「俺、パニック障害になっちゃったんですよ。本当にここから離れたかった。丈のことも洋一さんのことも、今でも大好きだし、洋一さんなんか月に3回ぐらい夢に出てくんだから。今でも」
中澤「電話には出なかったけど……ていうか、素生は電話番号消去したもんな」
松本「今でも好きなんだよ? もう5人で再結成なんてことは1ミリもないけど、いつか5人で『あの時ああだったよな』って、笑って話せるくらいまでバンドやってたいなっていう、甘い気持ちもある。でもそれもあの時、全部置いてきてるから」
中澤「還暦過ぎぐらいじゃない?」
石原「桶川にたまたま帰って『呑む?』とかはありますけど、今洋一さん、95キロくらいになってるらしいよ(笑)」
松本「あとなんかね、申し訳ない気持ちもある。結果出して5人でやるのは素敵だけど、結果を出すためにやるのは最悪じゃん。ごめんなって思いながら、当時の社長に言われて洋一をゲストに呼んだり、やめていく丈を売りにしてライヴやったり。最悪なことも僕らちゃんとやってきたから、おいそれと会えないんですよ。本当は会いたいけどさ。それとこの3人は、底辺からやってここまで這い上がってきたプライドもあるしね」
中澤「あんな状況だったら、どのバンドも絶対辞めてる」
松本「でもそれで終わりたくなかった。笑う奴もいるけど、今、俺らは本気で日本武道館目指してる。だからもっと広げることを、このEPでは意識したんです」
前作の『あたらしいともだち』は、コロナ禍でもあったため、ミニマムなレコーディングに徹したところがある。しかし今回は、旧知の山本幹宗(元The Cigavettes)を共同プロデューサーに迎えた。これは、松本が女性シンガーのジョナゴールドに提供した楽曲を、山本が編曲・ミックスしたことがきっかけだ。彼の視点を得たことによって、楽曲が広がりを持ち、ダイナミックさを手に入れた。パワー・ポップ感が強いのは、スタジオの大きなスピーカーで、ギターをガツンと鳴らしたおかげもあるのだろう。
松本「インディっぽい音はもう嫌だな、と思ってたんですよ。それをカンちゃん(山本幹宗)に相談したら、彼の伝手で、京都のスタジオを使わせてもらえることになって。じゃあ、今俺の実家は京都だから、そこにみんなで泊まれば、宿代も浮く。それで音源作るのはどうだろうって、経理の石原に電卓をはじいてもらって」
石原「ただお金かければいいってもんじゃないけど、でも、かけるものにはかけるべきだと思うんですよ。ずっとこのまま小規模な形でやっていくつもりがないことはわかってたから、じゃあ今回は予算を投下して、その代わりちゃんと回収しよう、と思って」
中澤「そのためには、プロモーションもできるところはちゃんとして、今までより広げなきゃいけない」
松本「やりたいことをやれたから、すごく満足してます。でも大事なのは3人でやることだから。この権利は、もうバンドが終わるまで手放すつもりはないんですよ」
とはいえ、3人にまったくブレがないわけではない。3人でやることがなによりも優先されるし、何よりも中学からの同級生。誰よりもお互いを知っている。だからこそ、バンドマンとして向き合わなくてはならない瞬間が出てくる。そんな試行錯誤と迷いの2年でもあった。
松本「僕らは今、お金を全部3分割してるんですね。必要経費を抜いたあと、通帳に残った利益をきれいに割ってる。でも今回、ちょっとモヤッたんだよね。僕が曲を作って、それをナカザが簡単なデモにする。今回はそこにカンちゃんも入ってるから、そこで入ったアレンジも加えて、石原に『こういうふうに弾いて』って渡す。ただ弾くだけの人になってた。これは、すごくバランスが悪いと思った。お金の問題じゃなく、バンドのアティチュードとして。俺らは今、もう1回武道館に立ちたいし、それを絶対にやれると思ってるけど、その前に、このモヤモヤは解決しなきゃいけないと思った」
石原「突然、今からZoomでミーティングやろう!って連絡が来たんですよ」
松本「Zoom立ち上げたら、無料ヴァージョンだから40分で切れんの。そのたびにもう1回立ち上げて(笑)」
中澤「要するに、クリエイティヴな部分に参加してないメンバーに、曲に関わる売上も3分割するのはおかしくないか、ってこと。もっとバンドで世間と勝負していこうとなった時、その気持ちが浮かび上がってきて」
松本「そのアティチュードで向き合わないと、他のバンドマンに勝てないから。でも最初、めちゃくちゃ話しづらかった」
中澤「だっていっさんにしてみれば、ギャラの取り分が減る、って話だからね」
松本「そしたら、風呂上がりの牛乳みたいに、その条件、すぐ吞んだ(笑)。『わかりました!』って」
石原「逆に聞きたかったんだけど、俺、渋ると思ってた?」
松本「渋らせるつもりがなかった(笑)。でもね、100メートルを10秒くらいで走れる子、100メートルを一生懸命頑張って19秒で走る子、どっちも僕の中では一緒なんですよ。一緒なんだけど、でも僕はそこで食ってるわけだから、はっきりさせたいの。プライドだよ。そのかわり、ライヴとか物販とか、クリエイティヴ以外のことに関しては一生変わらないし、この2人以外とバンドやるつもりもない。そういうことを話すのは、この3人じゃないと意味がないからだしね」
石原「だから俺にそういう話するんだろうし、俺だって、その話を渋るわけないでしょ。だって金儲けしたくてバンドやってないじゃん。言葉にはしなくても、3人で人生通して、バンド一緒にやってくって決めてるんだから」
松本「いいこと言うな! マジでほんとにそう! 僕だけタレントになって人気者になったり、誰かに曲書いたらヒットして、印税でめちゃくちゃ儲かったりとか、そうなっても意味がないし、それは負けだから。GOING UNDER GROUNDの負け。3人じゃないと意味がない。久々にライヴを観てくれた人から『キレッキレだね』って言われるけど、そんなの当たり前なんだよ。いっさんの言うように、3人の集合体で一生一緒にやってくって、腹決めてやってるんだから、どうなるかわかんないようなバンドと一緒にしないでもらいたいよね?」
中澤「そのプライドはある。っていうか、こう見えて、どのバンドよりもシビアだと思うよ」
そう。どのバンドよりもシビアに向き合ってるけど、同時に、どのバンドよりもお互いを知ってる。3人になって、事務所を辞めても、それでも続けてきたのは惰性じゃない。覚悟があったからだ。松本が辞めたメンバーの電話番号を消去したのも、もう逃げない決意からだ。
だから昔の自分たちじゃない。3人は今のGOING UNDER GROUNDを信じている。だから「爆音ノ四半世紀ep」から、もっと世間に向けて勝負しようと思った。生活のためではない。バンドはいろんな人の夢を連れて行く。メンバーが信じていれば大丈夫。それは3人がこのことに気づいているからだ。
松本「その時は誰もわかってないかもしれないけど、一生懸命やってたら、ちゃんとわかる時が来るから」
今、3人はそのことを噛み締めている。金でも名誉でもなく、友達とただバンドがやりたかった。紆余曲折はあった。辞めようとしたこともあった。でも今3人は、生活のベースを作って、家庭を維持しながらバンドを継続。そして武道館への夢を見てる。バンドマンにとって、こんな幸せなことはないじゃないか。
今年、結成26年目。4年後にはきっと、目標としてる大きな会場で、あの日、親方から貰ったチョコレートの包み紙に書いた、僕らのすべてを唄うだろう。
GOING UNDER GROUNDの歌は、懸命に生きてきた人たちが歩んできた、その足跡を肯定してくれる。そんなバンドだ。
文=金光裕史
NEW EP
「爆音ノ四半世紀ep」
2024.6.16 RELEASE
- 爆音ノ四半世紀
- サワイ・ヘブン
- 火星
- 屋根の上のSSW