人気漫画『からかい上手の高木さん』が実写映画化。中学のクラスメイトである“からかい上手“の高木さんと“からかわれっぱなし”の西片の日常のやりとりを描く人気作で、映画は、中学時代から10年後が舞台。教育実習生として母校へ帰ってきた高木さん(永野芽郁)と母校で体育教師となった西片(高橋文哉)が10年ぶりに再会し、最高にピュアで愛おしい恋物語が動き出します。メガホンをとった今泉力哉監督に、見どころやキャストの魅力、撮影裏話を伺いました!
(これはQLAP!2024年4月号に掲載された記事です)
本作は大人気漫画の実写化。高木さんと西片の中学生時代を描くドラマが現在放送中で、そこから10年後を舞台に2人の再会の物語を描く映画が間もなく公開になります。まずは制作の経緯や、映画化する上で大切にしたことを教えていただけますか?
この作品の企画は、ドラマと映画の2つの製作を目標に始まり、原作漫画で描かれている中学時代の高木さんと西片の物語をドラマで、そこから10年後の大人になった2人の物語を映画で描くことになりました。原作の素晴らしさの一つは、彼らの特別な日に焦点を当てるのではなく、“からかう”高木さんと“からかわれる”西片の日常のささいなやり取りから物語を立ち上げているところ。会話や間など、2人の何気ない姿が非常に細かく描かれていて。映画ではその繊細さは保ちつつ、少しだけ特別な時間も描けたらと考えました。もちろん、 そうするからには責任が伴いますが、高木さんと西片のキャラクターさえきちんと踏襲していれば、オリジナルの要素はあってもいいと原作サイドにご快諾いただきました。
一つだけ要望があったのは、10年の間に2人がほかの誰かと恋愛をしていないということ。それは、もちろんそうだよな、と。というのも、そもそも原作漫画には“(元)高木さん”という2人が結婚した後のスピンオフも存在しているんです。すでに確立されている2人らしさを壊さないよう心掛け、丁寧に作りました。再会した2人のピュアな物語をぜひ楽しんでください。
高木さん役の永野芽郁さん、西片役の高橋文哉くんのキャスティング理由や、一緒に仕事をして感じた2人の役者としての魅力はどんな部分でしょう?
キャスティングについては、最初「大人になった高木さんと西片の“からかい”を演じられる人、いる!?」となりました(笑)。ですが、永野さんと高橋さんにお会いしたとき、「あ、この2人なら大丈夫だな」と思えて。永野さんはとにかく明るくて快活な方ですから、その空気を生かしてもらえば魅力的な高木さんになるはず、と。
一方、高橋さんはあれだけ男前なのにもかかわらず、素直で真っすぐで、本当にいい人で。西片の芝居って、すごく難しいんです。からかわれるのは嫌だし、「やめてよ」とは言うものの、そこには照れも見え隠れしなきゃいけないので。高橋さんとは、その塩梅を細かく話し合いました。
それはからかう側も同じことで、高木さんのからかいって、愛情の裏返しなんです。かと言って、大人のあざとさや色気のようには決して見せたくない。そうなってしまうと、原作から逸脱してしまうので。永野さんはそのバランス感覚が本当に上手でしたし、2人ともからかいの中にある“好き”を自然ににじませてくれました。ともに、俳優である前に人として魅力的で、高木さんと西片を楽しんで演じてくれました。
映画ならではのシーンとして描きたかったことや注目ポイントはありますか?
原作は、基本的に西片の視点で描かれているので、西片がからかい返そうとしても、高木さんは“わかっているよ”という一枚上手な様子で、西片への思いが見えない部分もある。でも、高木さんが西片を好きなことは、物語に触れる側には明白なこと。よく知られた原作だからこそ、映画ではそんな高木さんの秘めた感情を見せるようにしました。
例えば、同窓会の帰りに、高木さんが「目をつぶって」と言い、「分かったよ」と西片が返すシーン。本来なら、嫌がりながらも目をつぶる西片のドキドキのほうを描く場面ですが、映画では、そんな西片を見てほほ笑むと同時に、“好き”が溢れてしまっている高木さんの表情も捉えました。高木さんの、真っすぐな“好き”を描くことで、西片の気持ちの揺れや迷いも際立つと思って。それに、そういうシーンを演じる際の永野さんは、芝居のテンションが明確に上がっていてとてもかわいらしいので、表情にも注目していただきたいです。
永野さんや高橋さんのアイデアから生まれたシーンもあったのでしょうか? 印象に残っている撮影やお気に入りのシーンを含め教えてください。
私の撮影では、脚本上のシーンやセリフが撮れたとしても、その後しばらくカットをかけずに芝居を続けてもらうことがよくあって。それは、その場で生じる生っぽさや緊張感、想定外のおもしろさを期待しているんです。高木さんと西片がプールで洋服が濡れてしまい着替えるシーンでの独特な空気は、まさにそうして生まれました。着替え終えた2人が、なんだか気恥ずかしくてクスクス笑い合うところまでは脚本に書いてあるのですが、その後のやりとりは永野さんと高橋さんのアドリブから生まれたもの。中学の頃に戻ったかのような姿の2人は、距離感がすごく近くて、甘酸っぱくて。見ているこっちがくすぐったかったです(笑)。それがとても良かったので、あえて音楽を入れずに生っぽさを生かした仕上がりにしています。
生っぽさという点で言えば、その直後に2人で海沿いを歩くシーンも印象的。当初は西片の心の葛藤をナレーションで入れていたのですが、2人の芝居を見て、ナレーションなしに変更しました。
撮影は小豆島で行ったそうですが、ロケ地に小豆島を選んだ理由や島での撮影で印象に残っていることは?
原作に舞台設定の明記はありませんが、作者の山本崇一朗さんは香川県の小豆島で育った方で、アニメ版も小豆島が舞台。実写で撮るなら同じ場所がいいなと思い、島でロケハンを行いました。撮影用にお借りした中学校は現在も実際に使われている学校で、校舎の窓から海や山を眺められるようなロケーション。当初は屋外シーンのみを島で撮り、校舎などは関東で探すことも考えましたが、スタッフ全員一致で「全編ここで撮ろう!」と。島のさまざまな場所で撮影しているのですが、夕景のシーンは狙っている場所に雲が立ち上がってしまって苦戦して、3日目にやっと撮れました(笑)。
合宿撮影でしたが、永野さんや高橋さん、他のキャストの皆さんも小豆島をすごく気に入っていましたね。高橋さんは仕事の関係で一度都内に戻ったのですが、島に帰ってきたときには「東京の水が肌に合わないかも(笑)」と、まるで島の住人みたいなことを言ってて、おもしろかったです。
文=渡邉ひかる
今泉力哉監督
いまいずみ・りきや/1981年2月1日生まれ、福島県出身。2010年に映画監督デビューし、現在は映画やドラマの演出、脚本を手掛ける。近年の監督作品は、『窓辺にて』『アンダーカレント』など。
映画『からかい上手の高木さん』
(東宝配給/5月31日より全国ロードショー)
監督:今泉力哉
出演:永野芽郁、高橋文哉 ほか
(C)2024 映画『からかい上手の高木さん』製作委員会
(C)山本崇一朗/小学館