怒髪天・増子直純が、人生の兄貴分・先輩方に教えを乞い、ためになるお言葉を頂戴する『音楽と人』の連載「後輩ノススメ!〜オセー・テ・パイセン♥〜」。その〈補講編〉として、誌面に収まりきらなかったパイセン方のありがたいお話をWebにて公開していきます。
第8回のゲストは、増子が20代の頃から敬愛しつづけるシンガーソングライター、泉谷しげる。5月に京都磔磔で対バンを果たすこととなった大先輩とのちょっとした共通項をはじめ、ミュージシャンとして、人としての姿勢・在り方について熱く語りあった模様をお届けします!
増子さんが2年後に還暦を迎えるにあたり、いろいろな先輩方に話を聞いていこうというテーマの連載なのですが、泉谷さんは来年、喜寿となられますよね。
泉谷「今思うとさ、もっと早く老けりゃよかったなと思うのよ。やっぱ若い頃ってなんもわかってないじゃん。戻りたいって思わないでしょ?」
増子「全然思ったことないですね。やっぱ昔は、なんか勝手に生きづらかったというか、不安のほうが大きかったというか」
泉谷「な? あと自意識過剰なのよ。そんなに世間はね、相手にしてないっていうね」
増子「ほんとそこなんですよね。それが若さ、ってことなんでしょうけど」
泉谷「そう、そうなのよ。あと俺らみたいな商売の人間は、自分は最高だとか、特別な人間だと思っちゃったらもうダメだね。すごいヤツだと思っちゃったら、世間から完全に離れちゃうんですよ。全部上目線になっちゃうし」
ああ、あくまでも市井に生きる人間として、生活者の視点を持ち続けることが大事というか。
泉谷「だって特権を持った人間とかさ、偉くなった人間に音楽とかエンターテインメントなんていらないでしょ。高いバッグを買ったり、いい車に乗ったり、そこで満たされちゃってるんだからさ。金によって完全に生活が娯楽化してるんだから」
コロナ禍の時もそうでしたけど、何かがあった時、音楽をはじめとしたエンターテインメントというのは、一番最初に排除されてしまうものでもあるというか。
増子「そうだね」
泉谷「まあ、なくても大丈夫なものでもあるんだけどね。音楽とか芸術は、なくても大丈夫だし、無駄なものなんだけど、その無駄を楽しめる心の余裕が生活を押し上げていくのであってさ。だから、満たされてない者にこそ必要なものなんですよ」
ただ、アーティスト、芸術家という言葉には、高尚なイメージもありますが。
増子「それは人の言うことだから」
泉谷「人の価値観が勝手に決めてくれるわけで、『俺ってすごいだろ』って言っちゃダメでさ。『俺はアーティストだぜ』とか『俺はロックンローラーだぜ』って……単なる承認欲求だよな。くだらねえ。だから、還暦になってよかったなって思うのは、自意識過剰がどんどんなくなって、自分でやったことに対する評価とか気になんなくなったし、そういうのを見なくなったんですよ」
増子「俺も自分のライヴ映像とかも見ないし、作品もそんなに聴かないです」
泉谷「そうなの? でも若い時は見ただろ?」
増子「いや、若い時もあんまり見ないですね」
泉谷「いいことだ。それは健全。とってもいいと思う!」
増子「なんかイヤなんですよね」
泉谷「イヤだよね。反省しちゃうし、こうやっておけばよかったって、せこい考え方になる。それってくだらねえよ。っていうのは歳とらないとわかんないんだけどな」
若い時は、やはり完璧なものを目指してしまいがちというか。
泉谷「ありもしない完璧をな! 俺もそうなんだけど、増子も自分の音楽だけしかみてないわけではないというかね。人のものも好きだろ?」
増子「そうですね。やっぱり自分のできないことというか、考えもよらないものに出会えますからね」
泉谷「そうそう。で、自分のできないことに出会うと、ちょっと嫉妬しちゃうというかさ、〈チキショー〉ってなるだろ? これはやっぱり人の在り方として健全」
嫉妬心も含めて健全。
泉谷「一番大事なことですよ。嫉妬しながらもお前よりはいいものやるぞ、ぐらいのほうがいいんですよ」
何クソ魂、というか。
増子「あと俺の中で泉谷さんのすごいなって思うのは、まったくレイドバックしないところで」
泉谷「あ、そう? まあ俺、レイドバックにまったく興味がないんでな」
増子「それが最高ですよ。なんか歳を重ねていってレイドバックして、たとえばブルース・アレンジにしましたみたいなので、よかったなっていうものをひとつも見たことなくて。それはどんなアーティストでも」
泉谷「くだらねえよな!」
急に歳をとったからって、枯れる方向にいくのは違うと。
泉谷「ダメダメダメダメ。前に加藤和彦がさ、何に飽きたのか〈帰って来たヨッパライ〉をボサノバでやりやがってさ」
一同「(笑)」
泉谷「思わず『どうしたんですか!?』って聞いたもんね」
増子「そんな雰囲気の曲じゃないのに、なんでボサノバにしたかな?(笑)。飽きちゃったのかな?」
泉谷「はっきり言えばそう。その気持ちもわかるのよ。けど俺は『加藤さん、やめていただけますか? それ』って言ったよね(笑)。だから演歌歌手の変なずらし方もそういうことなんだよな。飽きてるのよ。自分で唄いたくてやってるわけじゃない、仕事で唄ってるから飽きちゃうのよ。でもうちらはさ、仕事を超えてるじゃない。だからそこの目的が違うのよ」
増子「ああ、確かに」
泉谷「ただまあ、30ぐらいから老人風にやってる高田渡っていうのもいたけどな。あれは国宝だから(笑)。もう20歳からそのまんま」
増子「憂歌団もそうですよね(笑)」
泉谷「憂歌団もそう。あれも国宝(笑)。前にさ、ロイ・ヘインズっていうブルースメンを向こうで観た時に――今はもう90すぎだけど、まだ現役でやってる太鼓たたきで」
増子「90代で現役って。いや、すごいな!」
泉谷「そいつが、学園祭みたいなのに、ハット被って、シャレこいて出てきたわけよ。で、学生と一緒にドラム叩くんだけど、そのドラムにちゃんと文句言ってるの。『なんだ、お前の叩き方は!』って。しかも声も爆発してるのよ。だから、これは増子に、っていうよりは、自分世代にあえて言いたいことなんだけど、でっかい声を出して、喉を鍛えないとダメだよ。じゃないと誤嚥しちゃうし、痰も飲み込めなくなったらアウトだからな。誤嚥多くなってくるからな!」
人と喋ったり、声を出すっていうことを意識的にしていかないとダメだと。
増子「あとやっぱ呼吸を深くというか、ちゃんと息吸って、ちゃんと大きく吐かないとダメですよね。呼吸が浅くて弱いヤツは、ほんとに生き物として弱ってるんだなって思います」
泉谷「そう。だから、できれば声を嗄らすぐらいのことを、たまにやったほうがいいというかね」
増子「俺、年々声デカくなって、薄着になって、いっぱい食べれるようになってて……これ、バカの三原則なんですよね」
声が大きく、薄着でいっぱい食べる。
泉谷「そうそうそう。それ私です(笑)」
増子「でもそれがやっぱり野性なんですよね」
泉谷「そう! それにね、こういうふうになりたいって思っていれば、それはいくつであろうとなれますので。私はなりたくて今も泉谷しげるをやってるんでね。なんせ昔は、もう車酔いは当たり前、船はもちろん、バスもタクシーも一切ダメだったんだから。それじゃあさ、泉谷しげるにはなれないでしょ?」
地方にも行けないですよね。
泉谷「ツアーでさ、生まれて初めて飛行機乗った時なんか脂汗が出ちゃって、袋を5枚ぐらいもらって〈がぁ~〉って(笑)」
増子「めちゃめちゃ吐きましたね(笑)」
泉谷「まあ、軸が悪かったんだろうな。だから姿勢良くして、とにかく〈泉谷しげるになる、泉谷しげるになる〉と。で、泉谷しげるってどういうヤツだ? 野性で無礼で声がデカくて大暴れする……(笑)」
というイメージを自分の中にもって(笑)。
泉谷「そうそう! もうね、真逆の人間になりたくてしょうがなかったの。だってカッコ悪いじゃない、泉谷しげるがいちいち飛行機で吐いてたらダメだろ?(笑)」
増子「あははは。まあ、それはそれでチャーミングですけどね」
泉谷「嫌だよ! カッコ悪いだろ(笑)」
泉谷しげるになる、と自己暗示していくうちに、ある時から思い描いたイメージの自分になっていったんですか。
泉谷「うん。やっぱり人気じゃないですかね。人の注目がそういう人間にもっとしてくれるっていうか、後押ししてくれるっていう。だけどね、いくら人気なくなっても、好きな人は好きって言ってくれるし、いまだにライヴにも来てくれる。こいつらのために、とにかく、この期待は裏切っちゃいけないなという気持ちにどんどんなっていくんだよ」
だから泉谷しげるとして歌い続けられると。
増子「俺もそうですけど、特に泉谷さん好きな奴らは、もうずーっと好きですからね。それこそ泉谷さんに影響受けてるのって、ミュージシャンだけじゃないですからね。前に藤沼さん(藤沼伸一/亜無亜危異)のイベントに泉谷さんが出た時、奈良さん(奈良美智/画家・彫刻家)も来てて。終わったあとにビール呑んで涙ぐみながら、泉谷さんの〈翼なき野郎ども〉を聴くと、80年代後半から90年代までの自分のペイントが心の中に出てくるんだって言ってて。ほんと、いわゆる物作る人には、すごく多いと思う」
影響を受けたという人が。
泉谷「やっぱ野郎どもの歌を唄ってて、野郎どもに好かれてなかったら、逆に腹立つだろ」
増子「(笑)。でもほんと歌詞がね、グッと来るんだよね。俺、日本人で詩集買ったの泉谷さんだけですよ」
泉谷「そ〜お?(照笑)。今ちょっと喜んでるよ。単純だからさ。だからなのか、カーっとテンションが上がっちゃうことも多いんだけどね。すぐ導火線に火が点いちゃう。まぁ、堪忍袋が小さいっていう(笑)。普通はみなさんもうちょっとデカいような気がするんだ」
増子「俺もね、それちゃんと受け継いでますよ(笑)」
堪忍袋の小ささも継承(笑)。
増子「毎回反省はするんですけど、こればっかりはもうしょうがない。そもそもの容量がないし、紐なんかついてないんですよ。だから堪忍袋の織が切れるとかじゃない。最初から紐ついてないから」
あはははは。でも、ご自身の中では、ちゃんと段階を踏んで怒ってるんですよね。
増子「そう、俺の中ではね。でもよく最初からトップギアだって言われるもんね。『優しく注意しなきゃダメだよ』って言われるんですけど、自分の中ではだいぶ我慢してるつもりなんですけど、いかんせん導火線が短い」
泉谷「申し訳ないんだけど、これはもう型なんだよな。確かに時代に合う/合わないなんて話もあるんだろうけどさ、人間としての型番がそうなんだから、しょうがない!」
増子「俺も、ほんとにそう思ってます。たぶん今日本で『バカヤロー!』ってよく言うミュージシャンは誰でしょう?ってアンケートとったら、間違いなく泉谷さんの名前があがるでしょ。で、その次俺になると思うだよね(笑)」
そこも継承していくと(笑)。
増子「そうだね。で、こっからもっと歳とっていったら『バカもん!』って波平みたいに言ってるのかもしれないけど(笑)」
文=平林道子
■LIVE INFORMATION
磔磔50周年記念×怒髪天 presents 響都ノ宴
〈押せば生命の泉谷湧く〉
5月15日(水)京都 磔磔
出演:怒髪天 / 泉谷しげる
5月17日(金)、18日(土)京都 磔磔
出演:怒髪天(ワンマン)
問=清水音泉
■泉谷しげる INFORMATION
〈泉谷しげる全力ソロライブ90分!〉
4月7日(日)甲府CONVICTION
4月13日(土)秩父ホンキートンク
5月16日(木)和歌山OLD TIME
5月26日(日)上越高田・高田世界館
6月1日(土)、2日(日)FMきたかたライブスペース
6月9日(日)小田原クエスト
〈泉谷しげる×藤沼伸一・ロック オブ ロックス!〉
5月12日(日)吉祥寺ROCK JOINT GB
■怒髪天 INFORMATION
NEW DIGITAL SINGLE
「ザ・リローテッド」
2024.01.31 RELEASE
箭内道彦60年記念企画
〈風とロック さいしょでさいごの スーパーアリーナ “FURUSATO”〉
ロックの日【夜】
3月31日(日)さいたまスーパーアリーナ w/GLAY
磔磔50周年記念×怒髪天 presents 響都ノ宴
〈押せば生命の泉谷湧く〉
5月15日(水)京都 磔磔
出演:怒髪天 / 泉谷しげる
5月17日(金)、18日(土)京都 磔磔
出演:怒髪天(ワンマン)
〈ザ・リローデッド TOUR 2024〉
6月20日(木)渋谷CLUB QUATTRO
6月22日(土)大阪umeda TRAD
6月23日(日)名古屋CLUB QUATTRO
6月26日(水)札幌BESSIE HALL
7月06日(土)新潟GOLDEN PIGS BLACK
7月07日(日)郡山HIPSHOT JAPAN
7月15日(月/祝)仙台darwin
7月20日(土)金沢AZ
7月21日(日)松本ALECX
10月05日(土)高崎Club JAMMER’S
10月09日(水)和歌山CLUB GATE
10月11日(金)広島セカンド・クラッチ
10月14日(月/祝)岡山ペパーランド
11月02日(土)札幌PENNY LANE24
11月03日(日)札幌PENNY LANE24
11月16日(土)心斎橋BIGCAT
11月23日(土/祝)Zepp Shinjuku (TOKYO)
12月07日(土)沖縄Output
12月08日(日)沖縄Output