【LIVE REPORT】
時速36km 2ndミニアルバム「狂おしいほど透明な日々に」
Release One Man Tour〈コンプレッシドクリーンサスティーンツアー〉
2024.02.17 at Zepp Shinjuku
この日、仲川慎之介は「ありがとう」という言葉を、何度も何度も口にしていた。曲が終わったあとはもちろん、曲の合間やMCの最中、フロアが合唱や手拍子をしてくれた時にも、その5文字がこぼれる場面がたくさんあった。Zepp Shinjukuに1300人が集まり、自分が作った音楽を聴いてくれている。その愛おしい光景を前に、どれだけ感謝してもしきれなかったのだろう。
時速36kmのミニアルバム『狂おしいほど透明な日々に』のリリースツアー、そのファイナルとして迎えたZepp Shinjukuワンマン公演。ソールドアウトの会場は後ろのほうまで人でいっぱいとなった。「時速36kmです! よろしく!」と気合いの入った仲川の咆哮でライヴはスタート。初っ端は気合いが入りすぎているのか、緊張のせいか、前のめりな演奏が続く。しかし、そのつんのめりそうな演奏が会場の鼓動を引き上げていくようで、オギノテツ(ベース)が威勢よく前フリした「スーパースター」では、会場一体となって「スーパースター!」と声を重ねる。松本ヒデアキ(ドラム)の力強いビートが響く中、オギノと石井開(ギター)もステージ前方に出て観客を煽ると、会場の温度が一気に高まっていくのが肌を通して伝わってきた。
その真ん中に佇む仲川は歌の力強さこそあれど、マイク前からあまり動かないし、ギターのストロークもガシガシ弾くようなタイプではなく、やや内股気味。Zeppのステージに立っているのに、彼の佇まいはどこか遠慮がちにも見える。「凡人」「つまらないやつ」。ミニアルバムのインタビュー時に、仲川は自分のことをそう言っていた。今、目の前でマイクに向かう彼は、カッコつけることも、自分を強く見せることもなく、ただ精一杯、一生懸命に唄っているだけなんだろう。そんなふうにありのままでZeppのステージに立てるヴォーカリストも珍しいと思った。
だからこそ、オレンジ色の照明に照らされた「ラブソング」や「Cakewalk」は、飾らない等身大の歌がより響いてくるようだった。フロアも歌を味わうようにステージを真剣に見つめていた。すると、もっと目の前のあなたともっと近づきたい、一緒にこの空間を作りたいという思いになったのか、「助かる時はいつだって」で身体の前で小さく手拍子を求める仲川。頭の上で大きくアクションすればいいのに、そうじゃないところも彼らしい。「いつだって心の真ん中にある感情を大事にしてほしい。間違ってる感情なんてないから」とMCでも言っていたが、ああやってほしい、こうあってほしい、と求めることはない。時速36kmの音楽には強要も否定もないし、誰かを攻めるような表現もない。そこには仲川の過去の経験が大きく影響していて、できるだけ優しくありたいと彼は願っているのだ。
中盤以降、〈なるだけ馬鹿みたいに/あなたの場所を目指す軌道が/悲しくならないように〉と唄う「ムーンサルト」、〈あなただけは悲しいことの/全てが届かない場所へ/そんな愛の歌〉というフレーズがある「シャイニング」など、時速36kmが鳴らす誠実な優しさが真っ直ぐに飛び込んできて、グッとくる瞬間が何度もあった。ステージ上もフロアも笑顔が増えていく。そして「かげろう」のイントロでは自然と手拍子が起こり「いいね」とうれしそうに仲川はハニかんだ。中学時代の自身を投影したようなこの曲。サビではたくさんの拳もあがり、その光景を眺めながらの歌声は、「いつか、こんな景色が待っているぜ」と、まるで当時の自分を迎えに行くような温かさにあふれていた。
熱演が続いたあと「ちょっとはチョケないと」とゆる〜いMCが挟まり、あらためてZepp Shinjukuでライヴができている喜びを口にする仲川。「もっとデカくなるんでこれからもよろしくお願いします」と力強く宣言すると、「俺らにもみんなにも、しっかり言葉で示してよ」とオギノが囃し立てる。「いや、場所とか関係ないじゃん」という押し問答が何度か繰り返されたあと、「Zeppに立てたんで、次は武道館狙っていきます」という改めての宣誓に会場は大盛り上がり。会場の大きさがすべてではないし、気軽に夢を口にはできない。でもそんなフロントマンだからこそ、背中を押して「一緒にその先に行こうぜ!」と横に並んでくれる今のメンバーは心強くもあるだろう。
そのあとの「動物的な暮らし」でも、ソロを弾く仲川に向かって「まだ行ける! まだ行ける!」とオギノが煽る。石井と松本も微笑ましそうにその様子を見ている。「ふうー!」という声がフロアからも上がり、思わず「バンド楽しい! みんなもやったほうがいいよ」と満面の笑みが仲川からこぼれる。そのあとに唄われたフレーズはまさにこのバンドを象徴しているようだった。〈気取って見えるかい/けど必死で立ってるんだぜ〉。気取ることのできない仲川慎之介と、彼を引っ張るメンバーたち。ドシッと構えた自信満々なフロントマンではないかもしれない。でもそんな彼だから唄える歌があるし、同じ目線で寄り添ってくれるし、近くで一緒に夢を見たいと思わせてくれる。時速36kmはそういうバンドだ。「ハロー」、そしてラストの「スーパーソニック」では大きなシンガロングが起きる。こんな自分の歌に、拳をあげたり一緒に唄ってくれる人がいる。自分のために歌を唄い続けてきた仲川にとって、今の状況は当たり前ではないからこそ、この瞬間が何よりも愛おしいからこそ、彼は何度も感謝を伝えていたんだろう。ステージもフロアもひとつになったその光景は、どこまでも美しかった。
2時間かけて、ダブルアンコールまで終えたZepp Shinjuku。最後は石井の提案で記念写真を撮ることに。「これBUMPがやってるやつだ」「うわ〜これ夢だったぁ〜」「はいチーズ、って俺が言った。うれしい……」とすっかり浮かれまくりの仲川がいたことも最後に記しておこう。「この日を一生忘れないでいようって思ってます」と途中のMCで話していたけれど、きっとこの日のライヴを観た人はみんな同じ気持ちになりながら会場をあとにしたはずだ。
文=竹内陽香
写真=タカギ タツヒト
【SET LIST】
- nami
- 七月七日通り
- ブルー
- 銀河鉄道の夜明け
- スーパースター
- アンラッキーハッピーエンドロール
- アトム
- ラブソング
- Cakewalk
- 天使の声
- 助かる時はいつだって
- ムーンサルト
- stars
- シャイニング
- かげろう
- 動物的な暮らし
- ハロー
- 化石
- スーパーソニック
ENCORE 01
- 夢を見ている
- リーク
ENCORE 02
- Stand in life