【LIVE REPORT】
怒髪天結成40周年特別企画"オールスター男呼唄 真冬の大感謝祭 -愛されたくて…2/5世紀-"
2024.02.04&05@渋谷Spotify O-EAST
■DAY1(2024.02.04)
祝・怒髪天40周年。渋谷で行われた特別記念2デイズは、ド直球の「情熱のストレート」から始まり、会場を埋め尽くすコアファンに捧ぐ「スキモノマニア」、さらには鉄板の宴会讃歌「酒燃料爆進曲」へと続いた。たった3曲でほとんど完璧な大団円。威勢よし、景気よし、笑顔よし。意気揚々とコーラス参加しながら、今回は4人がちゃんとライヴをするんだな、なんてことも思っていた。
話は15年前に遡る。渋谷AXで行われた25周年記念〈オールスター男呼唄 秋の大感謝祭-愛されたくて…四半世紀-〉では、ほぼ司会進行役に徹したメンバーが一曲ごとにゲストを呼び込んでいたものだ。結果、総勢48名のバンドマンが入れ替わり立ち替わり怒髪天をカヴァーするという奇跡的なトリビュートナイトになったのだが、今回はメインアクトが怒髪天。通常のワンマンライヴを軸にしながら、随所にゆかりのあるゲストが出てくる仕様である。
最初のサプライズは「裸武士」だ。一番は通常通り増子直純が唄い、二番になるとカラフルなワンピース姿のうつみようこが英語で歌唱パートを引き継いでいく。実力も言語力も超一流なのに、サビのコーラスが〈スッポンポン!〉の繰り返しなので高尚さがゼロ、というのは最高のチャームポイントだ。磨かれた職人技を俗世に引きずり下ろして元気に変える。これぞ怒髪天の流儀だろう。
続いて登場したレキシの池田貴史も同じことをやっている。軽快なファンク「愛の出番だ!」に乗って煽り始めれば、そこはもうプロ中のプロ、無敵のエンターテイナーが降臨している。上原子友康のギターソロ中に増子と魅せた一瞬の〈Choo Choo Train〉ダンス、さりげなく挟む井上陽水のモノマネなど、散りばめるネタが絶妙に古いところもナイス。たった一曲だが、バンドの男臭い世界観を塗り替える、ウォーミーな人柄ありきの笑いが確かに生まれていた。
ただ、ゲストが退いてしまえば空気はやはり怒髪天の男祭りになる……と思ったはずの「トーキョー・ロンリー・サムライマン」が実はすごかったのだ。最初は増子の熱唱、そして二番に入るタイミングで登場したのは、うそーん、と思わず声が出る山本譲二! 異様なオーラの輝きに圧倒されてしまう。想像以上に楽しげに唄い、増子と共にステップを踏む譲二アニキと、それを心底嬉しそうに見つめるメンバーのイイ表情。続けざまに大名曲「みちのくひとり旅」がバンドセットで始まった瞬間からは、昭和歌謡の風情に浸る特別ショータイムとなる。うーん、この企画、思った以上に贅沢!
再び怒髪天のワンマンに戻る、というか、さっと戻れるところがすごいと思う。昭和演歌の名曲と、熱く生きるロック労働歌「GREAT NUMBER」にあまり落差がないこと、さらには聴き馴染みのあるイントロが聴こえてきたと思いきや、それが「My Revolution」、登場したのが渡辺美里であることも、ちょっと処理しきれない情報量だ。増子が「みさっちゃーん」と呼べば、すさまじい声量で渡辺が「ズミちゃーん」と返し、仲睦まじくデュエット「ハートに火をつけて〜シーズン2〜」が始まっていくが、ステージにも客席にも、ここにクエスチョンを挟む人はいないのである。
まずすごいのは増子直純の交友関係、さらには曲調をまったく選ばない怒髪天のキャパシティだろう。そのうえで、これはらしくない、趣味ではないと拒否する様子のまったくないファンの度量が大きすぎる。そのことを肌で感じたのだろう、ステージ上で渡辺美里がしみじみと語っていた。「このお客さんに支えられて、40年やってきたんだねぇ」。
後半、ふらりと現れて弾き語りから始めたのはTOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)だ。水色ジャケットに真っ赤なタイ、白のパンツに眼鏡の姿は、かつて25周年記念で披露した横山やすしのコスプレ。当時はまさか衣装など無縁の人と思われていたため、せっかく登場しても「誰だかわからなかった」と散々言われた夜のリベンジだ。律儀な後輩精神、いや芸人魂すら感じるが、しかし、彼が届けてくれたのは芳醇な歌心である。15年前にもカヴァーした「杉並浮遊雲」。前半はブズーキによるアレンジが施され、まるでOAUのオリジナルにも聴こえたそれは、のちの友康の言葉によると「曲を作った人間として一番嬉しいこと」だったそうだ。
以降は友康、さらにベースの清水泰次、ドラムの坂詰克彦のトークタイム。というのも、TOSHI-LOWと共に「杉並〜」を熱唱したところで増子は体調不良を訴え楽屋に消え、予定になかったMCが続いたのだ。数分後、山中さわお(the pillows)に手を取られ再登場した増子にようやく安心の拍手が起こる。ゲストらしいスポットライトが当たらなかった山中は「俺だけ登場が地味になってない?」と訴えていたが、そこは札幌の直属後輩の定めだろうか。ただし共に過ごした時間のぶんだけ息は合う。2人が渾身の熱量を込めて唄った「雪割り桜」が、この日の事実上ラストとなった。
ゲストは全員出演済み、予定していた最後の数曲は大事を取って中止とさせてもらう。以上のアナウンスは、二度舞台袖に消えたのちステージに戻ってきた増子本人から伝えられた。彼を見守るメンバーやゲストたちは終始笑顔だったが、過去例のない幕引きとなってしまったのは事実である。最後、深々と頭を垂れ、両手を合わせて「すまん、明日は必ず!」の表情を見せた増子直純が忘れられない。もちろん、どう転んだところでタダでは起きないのがこの人の歴史でもある。さて、明日はどうなる?