■DAY2(2024.02.05)
午後から雪となり、夜には東京23区にも大雪警報が出されたこの日。怒髪天ファンの心配はしかし、昨日最後までステージに立てなかった増子直純の体調に一点集中していたと思う。公演後に病院で検査を受けたが、各数値に問題はなく、脱水と酸欠が原因とのこと。以上のステートメントは前日深夜に発表されていたものの、元気な姿を見るまでは安心できない。そんな心境ゆえか、SEと共にメンバーが登場し、笑顔で増子が飛び出してきた瞬間、まさかの「キャーッ!」という黄色い声援までが起こっていた。
結論から言うと、兄ィ、超元気。本人のMCいわく「俺が思っていた以上にすごく健康」な身体を張り、40周年の幕開けをばっちり駆け抜けてくれたのだ。
昨日よりもゲスト人数が多いので早足でレポートしよう。ここ数年の新曲ばかりで固めたオープニングのあと、「明日への扉」で登場したのは見事なモヒカン&特攻服の仲野茂。メンバー全員のルーツでもある亜無亜危異の「READY STEADY GO」を共にプレイした時間は、それぞれの笑顔があまりにも眩しかった。さらにはガラリと空気が変わるバラード「愛のおとしまえ」になると、どうやって着こなすのかわからない赤に白地のFUCK OFFをあしらったスーツ姿の柳家睦が現れる。〈立派な人になりたくて なんかいろいろやらかした〉と互いを見つめて唄う二人の姿には、笑ってしまうけれど愛しか感じない。演歌やポップスの世界からゲストを招いた昨日よりも、今日はロックとパンク、つまり〈界隈〉の色が濃いことはこの時点で想像がついた。
だがしかし。15年前の25周年記念ライヴと同様、ギターウルフのセイジが飛び出し、雄叫びと共に音量のデカすぎるギターで「不惑 in LIFE」をプレイ、続けざまに「OUT老GUYS」をLOUDNESSの二井原実が唄う、なんていう展開はまったく想像のナナメ上であった。アナーキーは全員のルーツだが、LOUDNESSは上原子友康がこよなく愛する神バンドのひとつ。彼らの大名曲「CRAZY DOCTOR」が始まると、友康はおそらく過去イチで冴えた速弾きを披露し、その上に二井原がすさまじいハイトーンを被せていくのだ。もちろん怒髪天はメタルのバンドではないし、今となればロックと括っていい音楽性でもないかもしれない。ただ、だからこそ裾野は広い。ジャンルや肩書きは何でもいいから、まずは真似できない個性あり。その濃さだけが全ゲストの共通項だ。
次から次へと制御しきれない人たちが出てきた前半。一息ついたあと、増子は、この曲のゲストはあなたたち、と客席に語りかける。そこから始まったのは「濁声交響曲」。ギリギリまで前方に手を伸ばし、最前の客とハイタッチを交わしながら、最高の笑顔で唄いあげる兄ィの表情は昨日よりも柔らかい。呼び込んだゲストたちは確かに大切な友人や先輩だろうが、その重みはファンと比べられるものではない。同じ想いを抱え、共に声を上げる観客たち。心をひとつにできるファンの存在がなければ、どんなバンドでも続きはしない。40周年の節目に聴く「濁声交響曲」の歌詞は、しみじみと感慨深いものだった。昨日のハプニングがあったから、元気で歌える身体がそれだけでありがたい。
そんな客席が、この日一番の一体感を見せたのは次なるゲストの登場後だった。「団地でDAN!RAN!」が始まり飛び出してきた影山ヒロノブ。怒髪天がアニメ『団地ともお』の主題歌として書き下ろした曲なので、アニメつながりで呼ばれたのだろうが、もちろん一曲だけで終わるはずはない。そのあとに始まる曲は……『ドラゴンボールZ』主題歌「CHA-LA HEAD-CHA-LA」! 〈この声、本物だぁ〉とバカみたいなことに感動し、昔見たアニメの歌詞を今も覚えている自分自身に気づき、誰も彼もが常軌を逸したテンションになっていく。気づけば会場全体がすさまじい大合唱。考えてみれば怒髪天はまったく関係ない曲だが、ここまでのお祭り騒ぎができるのも、間違いなく彼らの人脈のおかげなのである。
さらにゲストは続く。「歩きつづけるかぎり」で呼び込まれたのはフラワーカンパニーズの鈴木圭介。小柄な身体から出るとは思えない声量に驚かされる。さらには大柄な肉体にギラギラの白スーツをまとったSAのTAISEIも登場。泣きの名曲「ひともしごろ」を唄う50代のシンガー2人に、血の気の多いパンクスの面影はない。ドクドクと流れる歌謡の血、そして傷つきながらもバンド人生に賭けてきたキャリアの長さに、ただ涙腺が刺激されるシーンであった。このあと、メンバー4人だけで「ありがとな」が披露されたが、この歌は2日間の全ゲストに、そして怒髪天を40年支えてきたすべてのリスナーに向かって響いていた。
いよいよグランドフィナーレへ。〈生きてるだけでOK〉の決め台詞がつくづく沁みる「全人類肯定曲」などを経て、ラストは全ゲストと唄う「オトナノススメ」である。説明不要の名曲、怒髪天35周年の時に仲間を大集合させてレコーディングした曲だが、生のステージで全員合唱が見られるのはおそらく最初で最後ではないか。本日のゲスト7人、メンバー4人、そしてキーボード奏者のクージーことクジヒロコも含めた12人が〈人生を背負って大ハシャギ〉している光景には膨大な笑いと泣きが詰まっている。増子は最後、感極まり叫んでいた。
「40周年! サイコーーーーッ!」
文=石井恵梨子
写真=西槇太一