心を揺さぶられたり、座右の銘となっている漫画、映画、小説などの1フレーズが誰しもあるはず。自身の中で名言となっている言葉をもとに、その作品について熱く語ってもらう連載コラム『言の葉クローバー』。今回は、12月6日にセルフタイトルの新作をリリースしたThe Novembersの小林祐介が登場。自身の価値観の軸足のひとつとなっている言葉について語ってもらいました。
(これは『音楽と人』2024年2月号に掲載された記事です)
美しいと思うことは、物の美しい姿を感じることです
美を求める心とは、物の美しい姿を求める心です
書籍『小林秀雄全作品〈21〉美を求める心』
作品紹介
『小林秀雄全作品〈21〉美を求める心』小林秀雄
昭和29~33年の間に発表した44篇の作品を所収。「美を求める心」は、小林秀雄が小・中学生の若者に向けて、美はどうすれば見えてくるか、自分のものにできるのか、という心構えを優しく説いた昭和32年の作品。
この言葉は、小林秀雄さんという文芸評論家の作品全集のうちの1冊に書かれているもので、自分の感受性であったり、モノづくりに対する在り方の軸足になっている一節です。
端的に言うと、目の前にある一輪の花をあるがままに感じることの難しさ、をいろんな言い方で書いてあって。例えば、僕たちが目の前の一輪の花を見た時に、スミレという花だ、紫色の花だ、といった具合に、自分の中にある名前や色といった情報に擦り合わせようとする。その時点で、スミレという名前の花である、紫色の花だという概念で見てしまって、目の前の花そのものを見ることをやめてしまう。でも〈美〉というのは、目の前にあるものに対する概念や記号みたいなものを捨てたところに初めて宿る、と。
つまり何でも頭や知識だけで理解しようとすることは、〈美〉を感じる経験を遠ざけることである、と。そういったことが書かれているくだりの中に今回挙げた一文が出てくるんですけど、これだけを聞いたのと、前後のくだりを読んだ上で聞くのとでは、この言葉に対する解像度が全然違ってくるので、ぜひ本を読んでもらうことをおすすめしたいですね。
この本を手にしたのは13年前、25歳ぐらいの時。友達から『Xへの手紙・私小説論』をプレゼントしてもらったことで、小林秀雄という人を知って。読んでみたら、みんなが当たり前だと思ってることを一度疑うというか、新たな視点を与えてくれるものだったんですよね。それで、他にどんな本があるんだろう?って調べていく中で、「美を求める心」というタイトルがすごく引っかかって。〈これは絶対に読まなきゃいかん!〉と思って買ったんです。
自分の中で〈美〉というものは、昔からずっと無視できないもので。それは単純に形が整っていて綺麗だなというのとは別軸で、倫理・道徳的な善悪みたいなものを超えたところにある〈美〉に強烈に惹かれてきたし、自分は何でそれを好きなのかをわからないまま、夢中になっていることが多くて。だからずっと僕の中で〈美とはなんだろう?〉っていう思いがあったんですよね。自分が〈美〉を感じるものと、感じないものの違いはなんだろう?とか、何に自分は〈美〉を感じるのだろうか?とか考えていたんですけど、この作品を読んで、〈美〉をわかろうとするんじゃなくて、わからないものを感じることが大事なんだって思ったんです。
僕にとって〈美〉というものは永遠の命題でもあり、自分の心の羅針盤でもあって。なので、eastern youthの『感受性応答セヨ』じゃないですけど(笑)、自分の感受性や心が応答したほうに向かってモノづくりをしていく。それが一番大事なことなのかなっていうことを改めて実感させてくれる1冊でもありますね。
写真=鳥居洋介
The Novembers
NEW ALBUM『The Novembers』
2023.12.16 RELEASE
- BOY
- Seaside
- 誰も知らない
- かたちあるもの、ぼくらをたばねて
- November
- GAME
- James Dean
- Cashmere
- Morning Sun
- 抱き合うように