人気作家・瀬尾まいこの同名小説を、松村北斗と上白石萌音のW主演で映画化。月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さん(上白石)とパニック障害を抱えている山添くん(松村)が、いつしか同志のような特別な関係になり、互いに助け合いながら希望を見出していく物語。三宅 唱監督に、本作に込めたメッセージやキャストの魅力を教えてもらいました。
(これはQLAP!2024年2月号に掲載された記事です)
本作の主人公は、周囲に理解されにくい悩みを抱え、生きづらさを感じている2人。監督が思う原作の魅力や映画の見どころは?
原作は瀬尾まいこさんの同名小説。プロデューサーから「読んでみてほしい」とお声掛けいただき手に取ったところ 、主人公の藤沢さんと山添くんの2人がとても魅力的で。それぞれがPMSとパニック障害というどうにもならない悩みを抱えながらも、相手の症状は改善できるんじゃないかと、いろんなことを試したり行動をしていく。しかもその行動が、別に正解というわけでもないあたりがとってもチャーミングなんですよね。僕自身、この個性あふれる2人の物語に出会えて良かったと感じましたし、映画化することで、より多くの人にとって2人が大切な存在になるのではと思いました。
映画は、原作にはないオリジナル要素もあるのですが、瀬尾先生も快く受け止めてくださいました。小説と映画の違いもあわせて楽しんでいただけたらうれしいです。2人が働く “栗田科学”という会社は社長も社員も温かくて、生きづらさを感じる2人が周りの人に支えられ、誰かと共に過ごすことで人生を前向きに生きる物語になっています。観てくださる方にも、“栗田科学”の社員になったかのような気持ちで2人を見守ってほしいですね。一緒に時間を過ごすような感覚で見ていただければ、自然にいろんなことが心に入ってくると思います。

W主演の松村北斗くんと上白石萌音さん。一緒に仕事をして感じた2人の印象や役者としての魅力を教えてください。
松村さんはとても好青年で、役のために資料を読んだり丁寧に準備をしていて、俳優としてきわめて誠実な方。そして演じる山添くんも好青年ですが、同時に、どこか変わっている。同じように松村さん自身もいい意味でちゃんと変わったところがあるんですよね。一度、撮影中にどうしても晴れた空で撮りたいシーンがあったのですが、撮るときに曇ってしまって。僕がすねていたら、松村さんが雲に向かって手を合わせて“どいてくれ”というようなオリジナルの祈祷をしてくれたんです(笑)。その特別な舞いのおかげか翌日見事に晴れて、無事に撮影することができました。そういうステキな部分が彼の愛せる魅力だし、山添くんのようでもあるなと感じましたね。
また、藤沢さん役の上白石さんは、幅広い分野で活躍されていて武道館に立つような方でもあるのに、この作品では線路脇で歩きながらみかんを食べていて、それがまた似合っている。藤沢さんは見る人が自分や身近な人を重ねることもできるような等身大の人物ですが、上白石さんもやはり親しみを感じさせる方。土砂降りの雨の中で倒れ込むシーンでは、「めっちゃ楽しい!」と言っていて。非日常を体験できる仕事を楽しむ術を十分に知っているという点でも最高な方だなと思いました。


パニック障害を抱える山添くんとPMSに悩む藤沢さんを演じた松村くんと上白石さんとは、どのようなコミュニケーションをとり、一緒に役を作っていったのでしょう?
松村さんは初めてお会いした時点で、病気について調べたり、役に合わせてご自身の思いで髪を伸ばし始めていたこともあり、最初から山添くんに近い状態でいてくれて。お互いに持っている情報や意見を共有することを出発点にできたのは、とてもありがたかったです。発作のシーンを演じる身体的リスクについて勉強する時間があったり、2人だけで話す機会も多かったので、働き始めたときの葛藤を思い出して腹を割って話すこともできました。また、上白石さんとも、たくさんのことをお話ししました。僕のほうから聞きづらいことを察してくださったのか、女性の身体についての話題を自ら切り出してくれて。普段なかなかできないことですし、僕の人生にとっても有意義な経験でした。
撮影に入ってからも、2人とは現場で考えを共有しながらセリフの語尾まで一つひとつ確認して、じっくり作り上げることができた幸せな現場でしたね。2人は声もステキな俳優ですが、実は無言の表情も魅力的。相手の話を聞く表情の芝居が本当に素晴らしいので、1度目は話す側、2度目は聞く側と、できれば映画を2回見て楽しんでいただけたらうれしいです。

互いの事情を知り、いつしか同志のような関係性になっていく山添くんと藤沢さん。2人のシーンを撮影する上で大切にしたことや現場で話し合ったこととは?
山添くんと藤沢さんは職場の同僚であり、恋人でもなく友達でもないけど、どこか同志のような気持ちが芽生えていく関係性。山添くんの部屋で2人きりで過ごす場面を恋愛として見せないようにするのは、やりがいがあると思った部分でもあります。松村さんと上白石さんは共演経験もあり、尊敬し合っていて、見ていて安心感がある。なので僕が決めるというよりは、実際に部屋の中で2人に「どこに座って話す?」と聞いて、思った場所に座ってもらって、そこから撮影を進めていきました。ポテトチップスを食べるカットでは、「この2人いいなぁ。絶対何もないね」なんて思ったりして、楽しかったですね。2人の信頼関係から生まれたシーンはほかにも多くありますし、自然な関係性が役にも表れていると思います。
それから、藤沢さんが山添くんの髪を切るシーンでは、実際に切ってもらうので本番は当然一発撮り。上白石さんは何度もマネキンで練習をしていましたが、とても緊張していました。いざ本番でハサミを入れたら、“ジョキジョキ〜”とすごい音がして(笑)。観てくださる方には、その音も含めて楽しんでいただきたいです。


文=室井瞳子
三宅 唱監督
みやけ・しょう/1984年7月18日生まれ、北海道出身。近年に手掛けた映画は、『THE COCKPIT』、『きみの鳥はうたえる』、『ケイコ 目を澄ませて』 など。
『夜明けのすべて』
(バンダイナムコフィルムワークス=アスミック・エース配給/
2月9日より全国ロードショー)
監督:三宅 唱
出演:松村北斗、上白石萌音 ほか
©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会