デビュー10周年イヤー中のgo!go!vanillasからふたつのニュースが届いた。ひとつは新曲「SHAKE」の配信リリース。ロンドンにあるメトロポリス・スタジオにてレコーディングされたこの曲は、これまで彼らがやってきたことがいいバランスで落とし込まれている。低音がしっかり響き、自然と身体が揺れるビート。鍵盤やホーンの入れ方も絶妙で、何よりインディーズ時代のファーストアルバムのタイトルを冠した曲名にもグッとくる。そして、このタイミングでポニーキャニオン内のIRORI Recordsへ移籍することも発表された。ここには10年前から繋がっていたストーリーがあるのだが、詳しくは牧達弥(ヴォーカル&ギター)のインタビューを読んでもらいたい。ロンドンで得られた多くの刺激と気づき、そしてあの頃の夢を引き連れてgo!go!vanillasの次の10年がここから始まる。そこには期待と楽しみしかない!
(これは『音楽と人』2024年2月号に掲載された記事です)
ロンドンでのレコーディングはどうでしたか。
「充実してました。10年やってきて、レコーディングにしても、ライヴにしても、最初の感動と毎回同じテンションでやれてるかっていうと、そうじゃなくなってくるじゃないですか。どっかで〈ま、こんなもんか〉って達観してた部分があって。そういうタイミングでロンドンに行けたから、もう全部が新鮮で」
例えば?
「イギリス行く前は緊張してたというか、本場だからなるべくデモもしっかり準備して、カチッとしてた。でも向こうってわりと出たとこ勝負で『こういうのどう?』ってどんどんアドバイスを言ってくれて、いろいろ試すし、コロコロ変えるんです。日本じゃ準備してきたものをキッチリ録るのが基本だから、そんなのありえない。でも〈こうじゃなきゃいけない〉みたいなことがあると、想像を超えるものって生まれないから、このやり方ってすごい健全だなと思って」
なるほどね。
「あと録ったものをチェックする時、日本だとヘッドホンとかちっちゃいスピーカーで音のノイズがないかとか、歌のピッチが合ってるかとか、そういうのを確認するのがメインなんですよ。でも向こうだとデカいスピーカーでドーンって鳴らして、気持ちがアガるかどうか、みたいなところを重視してて」
〈これいいね!〉って感じのほうが大事というか。
「ノイズとかピッチどうこうじゃなくて、ノレるかノレないか。でもそれって当たり前というか。アマチュア時代にスタジオ入ってた時って、とりあえず音聴いて〈なんかこれ違うな〉〈これいいねー!〉っていうのが判断基準だったはずで。いつの間にか俺らのほうが変わってた。だから〈あ、やっぱりこれだよね〉ってあらためて思いましたね」
じゃあ行く前にあった靄みたいなものが晴れて、やっぱ音楽って楽しいなって気持ちになれましたか。
「そうですね。スタジオで部屋を借りてるアーティストとか紹介してもらったんですけど、ロシア人もいればイタリア人もいるんですよ。でもみんな、すごくフラットに音楽で繋がっていて。そういうのを見てたら、まだ楽しいことって全然あるんだなっていうシンプルなバイタリティをもらえた。レコーディングも順調に進んで、もともと〈SHAKE〉だけの予定だったけど、結局3曲くらい録ることができて」
その「SHAKE」は、バニラズがこの何年かでやってきたことが、いいバランスで着地してますね。タイトルも含めて、10年目にふさわしい曲で。
「なんか偶発的な部分もあったりするんですよ。この曲のデモを日本で最初に作った時から、冒頭の〈SHAKE〉って言葉とAメロはもうあって。それはふいに出てきた言葉で。でもインディーズの1枚目に『SHAKE』ってアルバムを作ってた俺らがデビュー10年目を迎えて、そしたらレーベル移籍の話が出てきて、10年目でロンドンレコーディングができることになった。そういう奇跡的なタイミングの重なりを踏まえて作りたいなっていう意図はありましたね」
10年やってきたことが血となり肉となって、ちゃんと出せてる感じがすごいしますよ。
「だって〈オリエント〉って曲で、ロンドンを夢見てた少年が、大人になった今、ロンドンで本当にレコーディングしてるんですよ。今までは理想や夢を原動力に生きてきた10年だったけど、その夢が実体としてもう近くにあるから」
そしたらこういう1曲に自然となるというか。
「そう。でも夢が近付いてきたからこそ、そう簡単にはいかないこともロンドンで感じた。言語だったり、音楽の聴かれ方だったり、やっぱり日本と英語圏ではギャップがあって。でもバニラズが目指してきたいちばんの理想って、洋楽をルーツに持ちながらも日本のポップスとしてもちゃんと成立するし、海外の人にも自信を持って聴いてもらえる、っていうところで。日本にいると日本の物差しだけで見ちゃう部分があったけど、それがフラットになったのはよかったと思う」
海外で勝負するぞってことじゃなくて、ちゃんと自分たちがやってきたことを大事にするというか。
「国籍が違っても、それをやってればカッコいいものは伝わると思うんですよね。こないだ台湾にも行ってきて、向こうのバンドとも交流があったんですけど。台湾のインディーシーンって、シティポップとかサイケとか、わりと日本が海外からの影響を受けて鳴らしてきたものをやってるアーティストも多いんですよ。でも言葉は中国語だったりして。たぶん日本以上に垣根がない。だからちゃんと市民権を得てるし、すごくいい音楽の土壌ができていて。俺らもJ-POPの個性をちゃんと理解して、バンドに落とし込んでいくような、そのさじ加減をもうちょっと考えていきたいなっていうのはありましたね」
10年経ってどこか達観してたところもあっただろうけど、ロンドンや台湾に行ったことで、もっといろんなことができるなっていう感覚になれたってことだよね。
「そうですね。こっからさらにディープに行くには、すごい努力しなきゃいけないとこだとは思うけど、そこが見えたっていうのはデカかった。僕の中では、パスポートみたいなバンドになりたいんですよ」
パスポート?
「なんて言うのかな……イギリスにイージー・ライフってバンドの友達がいるんですよ。前に来日した時、クアトロにライヴを観に行って、そこでユニバーサルで働いてる友達が紹介してくれたら、すごい意気投合して、めちゃくちゃマイメンになった(笑)。今回イギリス行くって言ったら連絡くれて、スタジオに遊びに行ったんです。で、〈SHAKE〉のデモ聴かせたら、めちゃくちゃテンション上がってて。『めっちゃいいじゃん、このフレーズ。ちょっと遊んでいい?』って、リミックスみたいな遊びをノリでできた時に、こういうことをいろんな場所でやりたいと思って。前までは海外にバンドの友達ができるなんて想像もしてなかった。俺らは日本のバンドでしかなくて、やっぱり海外とは乖離してるだろうから、仲よくなるなんて無理だろって思ってたんですよ。でも踏み出してみると全然違う景色があるって気づいて」
こんな世界もあるんだっていう。
「台湾で交流したバンドもそうだけど、彼らみたいなバンドは世界中いろんなところにいて。音楽でちゃんと繋がれれば、相手の国に行っても、相手が日本に来た時も何かできるかもしれない。そうやって、いろんなところに行けるバンドになりたいんですよ。それも国だけじゃなくて、日本のオーバーグラウンドやアンダーグラウンドも飛び越えたい。だからこそ根源的なところで〈カッコいいよね〉って思ってもらえるものは絶対に外さないようにしたいし、詞やメロディがいいだけじゃなくて、総合的に〈ああ、気持ちいいな〉って思えるものを作っていきたい。それはロンドンでのビートの作り方を見ながら思ったかな」
日本語の歌詞や日本人らしいメロディはもちろん大事にするけど、サウンドやビートにより重きを置くというか。
「自分のパーソナルな部分として作詞やメロディっていうのはもう沁みついてるものだから、変わることはあんまないと思うんですよ。だから変えていくとしたらやっぱり音へのアプローチの仕方。日本と海外じゃ、イヤホンで聴いてても作り方が全然違うってわかったし。それはどっちがいいとかではないけど、もっとそこをニアリーにできることはあると思うんで」