2023年にソロデビュー20周年を迎える吉井和哉。『吉井和哉20th × 音楽と人』と題して、『音楽と人』の過去のアルバム記事を特別公開しています。今回は、7作目となるアルバム『STARLIGHT』のインタビューを公開。
(これは『音楽と人』2015年4月号に掲載された記事です)
ついに吉井和哉がやってくれた。彼は自分の音楽が向かうべき方向を見つけだし、その結晶を形にすることに成功したのだ! フルアルバムとしては丸4年ぶりのリリースとなる『STARLIGHT』――これは、この何年かの彼の真摯な格闘が豊かな実をつけた一作なのである。
本アルバムで重要なのは、40代も後半に差しかかったこのロック・シンガーが、ここから何を唄い、どんな音を鳴らし、さらにはどんなふうに生きていくのかという表明がなされているということ。それだけの決意と生きる上での意志が込められているのだ。そしてそういったものが現代的なポップネスとパワフルなロック・フィーリングの両方を装備したサウンドと楽曲に、明瞭に……それこそクリアに、ポジティヴに表され、開花していることが、本当に感動的なのである。
このことについては吉井自身も手応えを感じているようで、取材の席での声も明るかった。現実には楽なことなんかひとつもないし、明日何が起こるかなんてわからない。だけど、だからこそ、ちゃんと生きる。自分を見て、相手を見て、人生を生きるのだ。裏の攻撃が……吉井の音楽人生の新しいフェーズが、今また始まったのだ。
アルバムがとてもいいです!
「ありがとうございます! ようやく……まあ新しい、ほんとの吉井和哉が誕生したんではないでしょうか。自分でも並べて聴いて、ビックリしました(笑)」
はい。ご自身でも新しいところに来た感覚があります?
「うん、全部つなげて聴いた時に……正直、すごい興奮しましたね。できたじゃん!! めちゃくちゃカッコいいじゃん、これ!!と思って。わかりやすく、かつ、重いものが残る、大人の吉井和哉の今を聴いてもらいたいな、というのがすごくあったので。あと、カバーアルバムを作ったことによって〈やっぱりこういうメロディが身体に流れてるなあ〉というのを再認識して。自分もこれが聴きたかったな、というか。音もすごくいいし」
はい。ということは、のめり込んで作ってたところも?
「うん。残りの3、4曲になって、歌詞がすごく書けるようになってきたんだけど。でも最初の5、6曲は……たとえば〈死生観をリアルに捉えだした吉井和哉が死生観のことを唄っちゃっていいのだろうか?〉〈それって自分が今作るポップ・ソングと反してるんじゃないか?〉とか、そういう葛藤があって。まあこれ、90年代病なんですけどね……(笑)。やっぱり、多少……何つうんだっけ……飽食?」
飽食、の時代? ぜいたくをしていた時代の?
「うん、そういう、きらびやかに楽曲を伝えるというか。今もそれは大事なことだと思うんですけど。その……吉井和哉というコアな部分のそのドリップを、抽出をどれだけしていいのかな?みたいな。元の原液のまま出せない……今度は出したくないし。いちおうは口当たりのいいものにして、でもクセになるもの、リピートできるものを作りたかったし、ちゃんと説得力のある味にしたかったので。最初はすごい悩みましたよ」
そのバランスというか、サジ加減に?
「正直、その……50を迎えて、人生の折り返し地点を迎えようとしてる吉井和哉が何を唄えばいいんだろう?というか。20代、30代で作ってたポップ・ソングは、もう作れないだろうし。作ろうとすると、たぶんアンバランスなことになってくるだろうし。だからヘンな話、もう一度『at the BLACK HOLE』の時の気持ちに戻ったんです。これでもう1回ありのままの吉井和哉になってみたらどうだろう?と思って、残りの3、4曲書いてみたら、〈おー面白え!〉って書けたっていう。それが〈(Everybody is)Like a Starlight〉〈You Can Believe〉とか〈Hattrick’n〉とか、あのへんの歌詞。あと〈STRONGER〉とか」
濃いめのところですね。で、翻りますけど、この数年間は振り返ることが多かったですよね? イエローモンキーの……。
「うん、ちょうど(デビュー)20周年もあったしね」
そうそう、それにYOSHII LOVINSONが復活したり。そこで確認し直したこともあったんじゃないですか?
「ああ、ひとつひとつ振り返れば、『PUNCH DRUNKARD』のああいう映画(劇場版『パンドラ ザ・イエロー・モンキー』/2013年)が公開されて、みなさんに観ていただいたこととかは、すごく自分の……まあキズではないけど、そういうものにみんなに花を添えてもらったというか。〈YOSHII LOVINSON SUPER LIVE〉(2013年12月・さいたまスーパーアリーナ)だって、すごく成仏したし」
(笑)成仏しましたか。
「LOVINSONくん、喜んでたし(笑)。だから……吉井和哉は、イエローモンキーの吉井和哉としてロック・スターになりたかったの。で、その、なろうとする前の吉井和哉のことを隠したかったんだよね。子供の時とか、小学生中学生とか、思春期の頃とか、そのコンプレックスがロッカーへの願望を生んだりするじゃないですか。僕は明らかにそのタイプで。でも歌の根本にあるのは、ロック・ミュージシャン吉井和哉になる前の吉井和哉のことなので。ネタはそこなんですよね。だから……この裏の攻撃からは、初めて〈みんなが知ってる吉井和哉になる前の吉井和哉でいいじゃないか〉っていうか。それがすごく〈STRONGER〉で象徴されてる気がするんです。もう唄うための理由が唄われてるので。自分が歌を作るための」
はい、この曲はそうですね。
「これはある曲がボツになったんで、急遽書いた曲なんですけど。酒も呑まずにシラフで書いたんですけど、〈あ、これが叫びたいんだろうな〉と思って。最後にバーンと唄いました」
うん、めちゃめちゃ素っ裸な歌ですよね。
「そうですね。それも最近聴いて、〈ああそうか、僕はこれが根本にあるんだ〉と思って。ただ単に自分を見てほしいし、いつ死ぬかわからないし。何が愛だかわからないし、本当は。でも今ここにいる、ということだけをみなさんに聴いてもらいたいっていう。で、みなさんもそうじゃないですか?っていう」
わかります。で、この歌には、さっき言われた吉井さんの過去の自分像も、かなりある気がします。
「そうだね。だから〈Step Up Rock〉の少年時代の吉井和哉の気持ちでもあるだろうし。だから……裏タイトルは『at the レインボー・ホール』って前の号でも言ったんだけど、ほんとにそういう感じで。ブラックホールもスターライトだし、ある意味。ずーっと宇宙としてつながってるような気がしていて、その宇宙は正体もわからないし、大きさもわからないし、何もわからないんだけど。でも、そのわからないことに向かって生きているところもあるというか」
そのスターライトという言葉がある「~Like a Starlight」は、さっきの話だと後半にできたんですね。
「うん、この曲は、まさに『ヨシー・ファンクJr. ~此レガ原点!!~』を作って、昭和歌謡のメロディを含んだ曲を何曲か作った日があったの。まあ黛ジュンさんだけど、ネタばらすと(笑)。そういう本来得意とするアプローチをマンチェスター/UKロックに混ぜたというか。でも完成して並べて聴いたら『あ、これって〈楽園〉みたい!』と思ったりして。で、〈Hattrick’n〉は〈SPARK〉みたいと思ったり(笑)」
ああ、なるほど! たしかに。
「自分で今気づいてんじゃねえよ!っていう(笑)。だからほんとにアップデートと言ったらヘンだけど、今までの吉井和哉の10色があるとしたら、その10色が新しい色として……〈今年の赤はこの色です!〉みたいな感じで出たような。まさに今回のジャケットみたいな、ああいう色の音だと思うんですけど」
そうですね。しかもここでは気持ち的に吹っ切れたのか、完全に新しいところに立ってますよね。
「そうですね……2000年ぐらいから始まった、いろんな……プライベートな面でも、仕事や音楽の面でのいろんないざこざ……というか、抱えていたものがひと段落したこともあるし。うん……人はやっぱ、みんな成長するんだなっていうか。人はみんな生きてる限り成長して、自分でいろいろ考えて生きてる。そのタイミングが合うと、解放されるというか。みんなが解放されだしたのが去年から今年なのかな、っていう。スタッフも含めて、今すごく風通し、いいですからね」
そうなんですね。それが音楽に表れてるってことですね。
「そう! 僕はそれが出やすいので。出やすいし、その環境を音にしてしまおうというスタイルでもあるので、いつも」
わかりました。で、先ほどの死生観に戻りますが、そういうテーマ性は結局、今回唄うべきと認識したわけですか?
「うん、書く詞書く詞が全部そういうテーマだったので。それか、ものすごいくだらないことのどっちかしかなかった(笑)。ちょうどいい、カジュアルな恋愛の歌とか、ないんだよね。だけど……もともと、そういう人間なのかなと思ってて。その……死ぬことが……面白いというか。ヘンな言い方だけど」
面白い?
「〈死ぬって面白いな〉って、心のどっかにあるんですよ。怖いんだけど、何それ?みたいな。裏を返せば、〈ものすごいファンタジーみたいだよね〉というのが、ちょっとあって。だから子供の時から〈死んだらどうなるんだろう?〉とかって考えるの。まあ、みんな考えると思うんだけど。あと、リアルに〈ああ、俺のお父さん死んじゃった〉〈冷たっ!〉みたいな思い出とかもあって。〈ええーっ! もう起きないの、これで?〉っていう」
その冷たい感触を覚えてるんですか?
「覚えてます。脚とか〈何この色?〉みたいなのとか……まだ4才とか5才だから、悲しいこともわかんないんだけど、〈この人、これで終了なんだよね〉っていうのを子供の時にリアルに見たから。ついこないだまで遊んでたよね?っていうのがあって……興味を持ってしまったんだろうね。だから……もちろんものすごい大事な人間が死んだら、それはもう悲しいことなんだけど。あまりよく知らない人のお葬式に、おばあちゃんに連れられて行ったりするでしょ? ああいう時も……〈ああ、そっか、この人ももうこれで死んじゃったんだ〉って……ちょっと、その人のエンターテイメントを見せてもらってるようなね。だってパーティーじゃないですか? あれ」
まあ、にぎやかと言えば、にぎやかですからね。
「うん。そういう、〈この人ってどういう人生だったんだろう〉〈どう思ってるんだろう、今〉みたいなのをちっちゃい時から感じたりもしてて。死と、その対極にある生みたいなものについて、じゃあどうなんだろう?っていうことが根本にあったような気がする。治らないですね、これは、きっと。なので今回のアルバムも、相変わらずその死生観というのは原液の中にあると思うんですけど。とはいえ〈死ぬまでは頑張って輝こうぜ〉っていうシンプルなメッセージなので。ほら、音楽カッコいいでしょ?興奮するでしょ?みたいな。それだけ(笑)」
なるほど。でもそこにしっかりとシフトできているのが違うと思うんですよ。今まではその前で、もしかしたら怖かったのかもしれないし、戸惑ってたかもしれないし。
「そうですね。なんで、怖いって感覚よりも……50ぐらいになってくると、起きる時とか、死ぬことをやたら考える瞬間、ない? もう起きなきゃっていう10分くらいのあの時間帯に、〈このまま死んじゃったらどうしよう?〉とか鬱にならない?」
うーん、いやぁ、そこまではないです。
「ないんだ!? いいなぁ~!(笑)。まあ人によって違うのかもしんないけど。お腹痛ぁ!みたいな時とか」
僕はそんなにないかなぁ。高いところから落ちそうになった時ぐらいだけど、それは日常的なことじゃないし。
「そうか(笑)。そういうふうに思う瞬間の間隔がもっと短くなるって、同世代のミュージシャンの間でも話すの。『えー、わかんない』みたいな人もいるけど、でも『あ、なるよ』みたいな人もいて。で……ほら、お年寄りになると『もう私はいつ死んでもいい』ってフレーズ、簡単に言うようになるでしょ? あの覚悟ができる瞬間が、ちょうど50歳ぐらいなのかなと思っていて。じゃないと怖くて仕方ないと思うんだよね、死ぬことが、永遠に。生まれてくる時だって苦しいわけでしょ? だけど〈うわ、ヤベえ、生まれるの怖え!〉と思ったことは覚えてないわけでしょ? だから死ぬ時も、すごい恍惚の瞬間が待ってるのかもしれないな、とか。気持ちいい瞬間が」
ああー、そういう話もありますよね。
「うん。そういうことも考えると……前の号でも言ったけど、死生観がリアルになってくるというか、美化されないというか。若い時みたいに。死生観を美化した歌が作れないんですね。それ唄うと、みんなが心配しだすというか(笑)」
(笑)わかります。シャレになってないという。
「その感覚その感覚(笑)。そんな心配される歌を唄ってどうすんの?って話になるでしょ。だから唄うテーマが僕なんかはどんどん苦しくなってくるわけですよ。これで僕が毎日いろんな女の尻を追っかけてね、〈ベイビー愛してるよ!〉って歌だけ作ってられたら、どんなに楽か!(テーブルをドン!)。『ベッドの中で取材するよ?』なんてやったら(笑)。そりゃ楽ですよ! ……だけどそういうの、好きじゃないんだもん」
いや、好きじゃなくはないでしょ。
「好きじゃないの! わかってないんだよ、俺のこと! すごくマジメなんだから。たまにはするけど(笑)」
あ、ほらほら。
「でも一般レベルだっつうんだよ!(笑)。だから……ミュージシャンとして健康体であり、誠実であればあるほど、唄うテーマはなくなってくる。ポップ・ソングとしてはね。だからポール・マッカートニーだってミック・ジャガーだって、50歳からの名曲というか有名な曲がどれだけあるか。あんな天才なのに! だけどそれが悪いことではなく……自分でもまだその先の答えはわからないけど……きっと僕らが生むべき、作るべき世界ってのは、これからまたあるんだろうな、というのはあって。吉井和哉が今回作ったのは〈それと向き合っていくんだよ〉という決意表明をしたポップ・ソングたちなんです」
うん、そういう作品だと思います。