怒髪天・増子直純が、人生の兄貴分・先輩方に教えを乞い、ためになるお言葉を頂戴する『音楽と人』の連載「後輩ノススメ!〜オセー・テ・パイセン♥〜」。その〈補講編〉として、誌面に収まりきらなかったパイセン方のありがたいお話をWebにて公開していきます。
第2回のゲストは、めんたいロック、日本語ロックの始祖、サンハウスのフロントマンであり、70代半ばとなった今も現役のロックシンガーである柴山“菊”俊之。「先輩としての柴山さんのスタンスは、見習うべきところがいっぱいある」と語るように、バンドマンとして、作詞家として、その在り方も含めて増子が尊敬してやまない大先輩のありがたいお話をここにお届けします。
増子さんにとって、お手本になる先輩であるという、柴山さんに今回聞いておきたいことはなんでしょう?
増子「改めて聞きたいのは、柴山さんの人付き合いにおける距離の保ち方かな。今まで、慕ってくる人もいっぱいいるし、ビジネス的に近づいてくる人もいっぱいいたと思うんですけど、すごく人と人との距離感をわかってるというか、つかず離れず、ほどよい距離感を保てる人だなっていうのが俺の中にはあって。すごくちゃんとした人だなって」
柴山「いやいや、ちゃんとした人ではないよ」
増子「いやいやいや。それこそ芸能に近いロックバンドの世代じゃないですか。だから、当時はかなり大変だったと思う」
今は、芸能界とバンドシーンって別物って感じですけど、サンハウスが世に出た70年代は、まだ芸能も音楽も一緒なところはありましたよね。
柴山「俺の上の世代にグループ・サウンズがあったからね。当時の日本では、バンドの人たちがメインでやる場所がテレビだったし、もちろんそういうのを見て、あんなふうになりたいなって憧れて音楽始めたところもあるけど。でも途中で道を間違えちゃって、変なところに行っちゃっただけで(笑)」
増子「あはははは。でも間違いじゃなかったわけじゃないですか」
柴山「そうだね。グループ・サウンズみたいな感じにならなくてよかったなとは思うよ。やっぱ俺は芸能界っていうのが好きじゃなかったしね」
増子「だからこそ人との距離感って大事だっただろうし、やっぱり賢くないと生き残れない世界だったと思うんです」
柴山「まあ、つまらない人とは付き合わない。それだけだけどね(笑)。サンハウスやってた頃は、ひどかったですよ。喧嘩したりはないけど、言いたいことはちゃんと言ってたし、まったくスタッフとかの言うこと聞いてなかったから(笑)。でもなんか騙されたりうまい具合に丸め込まれたり、やっぱり大変でしたけどね。ただ、自分のやってる音楽がどうあるべきか、ロックはどうあるべきかっていうことに、ちゃんと責任取れるかどうか。それを常に考えるだけじゃないですかね」
自分はどうしたいか、どうあるべきかということを常に自問自答していく。そうすると、おのずといい距離感で人と付き合うことができると。
増子「あと、自分たちの上の世代って、いろんなスタンスでバンドやったり音楽やったりしてきてた人たちが多いですけど――」
柴山「そのうちバンドマンじゃなくなるよね。音楽をやってはいるけど、ただやってるだけの奴とかね。ただ周りがどうであろうと、俺はそうしなければいいって思ってやってきたから。それに基本、サラリーマンが一番難しい仕事だってずっと思ってるのよ。実家が会社をやっていたけど、その手伝いすら自分はできなかったというか、そもそも仕事したくなくて、怠けたくて音楽やってきたような人間だからね。ほんとは家の仕事を兄弟で継がなきゃいけない状況だったけど、サンハウス始めて1年くらい、大学5年目くらいの時か。『柴山家の財産はいりませんから、卒業後も音楽をやらせてください』って言って」
家業を継ぐことはせず、バンドマンになることを選んだ。
柴山「選んだなんて感じでもないですよ。ただ音楽が好きで、ロックをやれればよかっただけだから。でも、だからこそせめて、自分の音楽、バンドの音楽くらいは追及しようぜ、っていうのは常に考えてやってきたところはあるかな。やっぱり人間って、何かを長くやっていくと、どんどん追及していかなくなりがちだし、そうしなくなる言い訳もいっぱいあって。それこそバンドマンなんて、いっぱい言い訳が立つところがあって、逃げ場所もあるじゃない」
増子「あと歳を重ねてちょっと人に物を言ったりなんなりできるようになると、事務所を作って社長になったり、お店やったりっていう人もけっこういるけど、そういうことじゃない」
柴山「そう。そうなんだよ、ほんとはね。もちろん、そういう人もいてもいいけど、特にヴォーカリストはさ、ステージの中心に立って、自分が回さないといけない場所にいるし、バンドにおいてもそういう存在なわけですよ」
曲をメインで作ってようが、いなかろうが、バンド音楽は、歌を唄う人間がいないと成立しませんし、重要な部分を担っているわけですもんね。
柴山「だからバンドのことを最優先に考えて当たり前っていうかね。増子は、ずっと同じことやってるじゃん。それは変な意味じゃなくて、ずっとロックバンドをやってるわけじゃん。だから、すごい頑張ってるなって思うんだよ。でも、そうじゃない人っていうのは、ものすごくいっぱいいてね。そこで、生活があるんです、っていう言い訳もあるんだろうけど、だったら生活は、少し切り詰めればいいわけでさ。お金ないから酒やめようとか。自分は、癌になったっていうのもあるけど、酒やめて煙草やめたらけっこう余裕もできたから」
増子「やっぱり、芸術家、アーティストなんだよね、柴山さんは。いわゆる〈ロックンロールだぜ、イェーイ!〉っていうのではなく、作詞であったり、表現・創作だったりというところにすごくちゃんと重きを置いて、ロックバンドをやってきたっていうかね」
柴山「まあ、他のことをしながらでも、それはそれでいいとは思うよ。でも、それが音楽よりメインになっちゃダメだと思うし、自分のポリシーみたいなものは曲げずにいたいと俺は思うのよ。といって、あなたもそうしなさいとは絶対言わないし、俺の場合はそうっていう話なんだけど」
増子「いやぁ、いい話だ」
ちなみに増子さんは、あと3年で還暦を迎えるのですが、柴山さんは60になった時に思ったこととか考えたことってありますか?
柴山「いや、ないです。60になったらどうこうとかっていうけど、それも別に大したことではなくてね。60になったら60だって思うだけの話でさ。1日寝てパッと目をさましたら60になるだけ」
増子「おお! ただ1つ歳をとるだけだと」
柴山「周りからはさ、いろんなバンドマン呼んで、東京でライヴをやったら?とか言われたけどさ、イベントをやるために60になったわけじゃないから(笑)。だから当日は、いつもやってる下北沢のライヴハウスで、当時やってたバンドでライヴやって」
Zi:LiE-YAですね。
柴山「そのあと、ツアーで組んでた福岡で、サンハウス当時にやってたような人たち――もうバンドもやめて店出してる奴らとかと、『いつか1曲でもいいから一緒にやろうよ』なんて話をしてたから、一緒にライヴやったんですよ。まあ、Zi:LiE-YAのメンバーも、最初はなんで還暦祝いのライヴをこういう形でやるんだろう?って思ってたみたいだけどね。もっといろんな人呼んで――」
華々しくやればいいのにと。
柴山「武道館とかでやればいいのにって。もちろん、それも考え方のひとつだとは思う。でも、そんなのその日で終わってしまう、打ち上げ花火みたいなもんでしょ。それよりも自分にとって、やっておかなきゃいけないことをやる。60ってそういうことかもしれないなとは思うかな。まあ、けっこう反対されたけどね」
増子「そうでしょうね(笑)。還暦祝いなんだし、周りは派手にやりたいって思いますよ」
柴山「それはね、やってもそんなに嬉しくないんだよね、される人間っていうのはさ。なんか気遣わないといけないし。で、福岡で一緒にやってたようなヤツらとは、会えば『元気にしてる?』とか『頑張りよんね!』とか言いよるけど、あんまり大した会話にもならない。けっこう疎遠になっちゃってたし、楽しくやるんだったら、ここで一緒にやってみたらいいのかなって思ってね」
どうせお祝いするなら自分が楽しめるものをやろうと。そこで柴山さんは、地元の、昔馴染みの音楽仲間たちとライヴをやることを選んだわけですね。
柴山「今でも、あいつらとあの日福岡で一緒にやれてよかったなって思うよね。だって、俺も含めて、そのうち死んでいったりするから、次いつできるかわからないでしょ。それに、いろんな人集めて、その人たちでお客さん集めてやっても、絶対、終わったあと〈やったー!〉って気持ちにならないからね。みんなに〈やってくれてありがとうございました〉って、なんで俺がお礼言わないといけないの?みたいなね」
俺の還暦祝いなのに?(笑)。
増子「確かに(笑)。いやぁ、人で人呼んでもしょうがない、って最高だな、やっぱ。柴山さんの言葉、いろんなヤツに聞かせてやりたいよ、ほんと」
文=平林道子
〈菊@下北沢Club251〉
12月22日(金)東京・下北沢Club251
※詳細後日発表
怒髪天 presents〈YOKOHAMA オトコまえ 2023〉
8月18日(金)神奈川・F.A.D YOKOHAMA "We Are OUT老GUYS"
8月19日(土)神奈川・F.A.D YOKOHAMA "素顔のままで"
〈B.M. I LOVE YOU 2023〉
w/the pillows
9月6日(水)大阪・心斎橋 BIGCAT
9月7日(木)名古屋 Electric Lady Land
9月13日(水)渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
〈ジャンピング乾杯TOUR 2023~西にはあるんだ 夢の国ンニキニ~〉
w/フラワーカンパニーズ
10月6日(金)広島セカンド・クラッチ
10月8日(日)熊本NAVARO
10月9日(月・祝)福岡BEAT STATION
10月11日(水)高松DIME
10月13日(金)大阪・梅田Lateral〈OYZのしゃべりBar〉※トークイベント
ドハツの日(10・20)特別公演〈祝!10周年 なんだかんだでとおまわり〉
10月20日(金)札幌ペニーレーン24 ~おもひでましまし~
10月21日(土)小樽GOLDSTONE ~小樽詰次郎記念館竣工予定記念式典(大仮)~