【LIVE REPORT】
〈BACK TO THE LIVE HOUSE TOUR 2023〉
2023.07.05 at Zepp Haneda(TOKYO)
「もう祝ってもらう歳でもないけどね」――。
この日38回目の誕生日を迎えた野田洋次郎は、ライヴ中にお客さんが放った「誕生日おめでとう!」という祝いの言葉にそんなツッコミで会場を笑わせていたけど、実はその瞬間、彼がまだ30代であることに驚いている自分がいた。もちろんRADWIMPSは彼が高校生の時に始まったバンドだから、そのキャリアがメンバーの年齢と比例してないのは承知の上だ。それでも今までこのバンドが辿ってきた道のりや成し遂げてきたことは、年齢で測るものではないとはいえ、人並外れた経歴であることに異論を唱える人はいないだろう。今日のチケットだって手に入れること自体、宝くじに当たるようなものなのだ(本人もMCでそう言って客の盛り上がりを煽っていた)。そんな希少価値の高いツアーを8年ぶりに開催した彼らは、38歳という壮年期を迎えた今も変わらず〈青二才なバンド〉であることを思い知らされるものだった。
初っ端からフロアの歓声が凄まじい。ステージに3人が登場しただけでウオオオオオオーーー!という怒号のような雄叫びが湧き起こる。久しぶりの声出しOKってこともあるんだろうが、RADのファンってこんなに声デカかったっけ?と驚くほどのボリュームだ。そんな中「なんちって」が投下されると、爆発音みたいなツインドラムの律動が会場を揺るがす。そういえば今の体制になってからのステージをライヴハウスで観るのは初めてだってことに気づいた。これまでみたいなアリーナ規模ならまだしも、2000人以下のライヴハウスに響き渡るツインドラムは明らかにオーバースペックだと普通は考えるだろう。でも彼らは違っていた。そもそもRADWIMPSとは、青春の蹉跌をバンドの音に変換することが起源であり彼らの行動原理だ。それを今、本当に久しぶりに、過剰なバンドサウンドでここに帰ってくることが彼らにとってのルールであると同時に、そんな前のめりな気持ちに応戦できる精鋭がここに集結している、ということなのだ。「ます。」でオイコールとヘドバンが発動されたフロアを嬉しそうに見渡す洋次郎。その顔には「やっとここに戻ってきたぜ」という安堵の表情が浮かんでいるように見えた。ライヴハウスに里帰りしてホッとしてるってことなのか。
さらに「ハイパーベンチレイション」「指切りげんまん」「me me she」といった15年以上前の懐かしい曲が投下されると、彼らはずっとライヴハウスに居続けてる住人なんじゃないかと錯覚するほどこの場所に馴染んでいた。もちろん彼らが背負ってる舞台セットや演出はアリーナのそれをまんま持ち込んできたような大掛かりなものだし、前述したとおりバンドの音そのものが会場の規模を逸脱している。さらに言えばどんなアーティストでも大きな会場のステージに立つのが当たり前になると、その目線は斜め上へ自然と向けられるようになるもので、それだけ遠く離れた場所まで音楽を届ける存在であることが求められる。でもここにいる彼らの目線は自分の足元にいるオーディエンスに向いていたし、そこにステージとフロアの境界線は存在しなかった。たぶんそこには届けるとか伝えるとか共有するとか、そういう相手に対する意識よりも彼ら自身がとことんライヴを楽しむことに専念していて、RADWIMPSがライヴハウスに戻ってくるというのは、そういうことなんだな、と思った。
中盤、「そっけない」の演奏をしくじりピアノを止めた洋次郎に、フロアが「もう一回! もう一回!」と嬉々としたテンションでコールを浴びせる場面が訪れる。すかさず「俺、今日誕生日なのにな」とぼやく彼に、今度は「おめでとうー!」と返すオーディエンス。その丁々発止なやりとりは、久しくコロナで会うことが叶わなかった友人との再会を楽しむ同窓会みたいな微笑ましい光景だった。それと同時に、それだけバンドもファンも年齢を重ねてきたことを実感させる瞬間でもあった。ふと思う。洋次郎は音楽を作り続けることで人生を何周したのだろうか。どこにもなかった自分の居場所を作るために始まったバンドが、歳を追うごとに自分たちだけの居場所ではなくなっていく過程において、たくさんの人に向けて音楽を発信し続ける理由を求めている時期が彼にはあった。使命とか責任みたいなものを背負い込んで、やれることは全部やろうと腹を括って自分の能力を全開放したタイミングも訪れた。そこからこのバンドは、大衆という怪物と正面から向き合っても、折れない心とフィジカルを手に入れたのだ。その結果、もはや他のバンドやミュージシャンと並べて語るようなバンドではなく、彼らは遠く手の届かない雲の上の存在になった。さらにコロナでツアーがなくなり会う機会が減り、それでもかろうじて開催したライヴは不完全なコミュニケーションが求められ、その存在はさらに遠ざかってしまったような気もしていた。どんなに本人がツイッターで日々の呟きを繰り返しても、近所のコンビニで彼と鉢合わせるような僥倖はあり得ないという確信、つまり、自分の中で彼という存在に現実味がなくなっていたのだ。
でも、洋次郎は仲間とともにライヴハウスへ戻ってきた。しばらく会えなかった友達も引き連れて帰ってきた。言うまでもなく8年という年月の中で、いろんなことが大きく変わった。バンドも、世の中も、あの頃にはもう戻れない。でも、彼らは今もなお青臭いロックバンドのままだった。今でも何かに抗っていて、青二才が言いそうな音楽を恥じることなく鳴らしていた。もちろんあの頃と違った聴こえ方のする曲もあったから、さすがに洋次郎もずいぶん大人になったんだな、とは思ったのも確かだ。けど、彼らはまだ不惑を迎えてすらいない青二才のバンドであることを、過剰な音と熱量に支配された空間によって激しく思い知らされたのだった。
〈やめないんじゃなくてやめらんねぇ 理由なんて知るか かっけーだけ〉――アンコールで披露された新曲「大団円 feat.ZORN」の一節、ZORNのラップがこのバンドの存在理由を代弁してるようだと思った。バンドをやってる理由? そんなの知るかよ。彼らからライヴハウスで受け取ったのは、青二才の小僧が言いそうな決め台詞だった。RADWIMPS、かっけーよ、マジで。
文=樋口靖幸
写真=ヤオタケシ
【SET LIST】
01 ココロノナカ
02 なんちって
03 ソクラティックラブ
04 ます。
05 ハイパーベンチレイション
06 指切りげんまん
07 me me she
08 かたわれ時
09 そっけない
10 ヒキコモリロリン
11 俺色スカイ
12 遠恋
13 Tamaki
14 オーダーメイド
15 05410-(ん)
16 有心論
17 会心の一撃
ENCORE
01 大団円 feat.ZORN (07.04 配信リリース 新曲)
02 いいんですか?
03 君と羊と青
04 DADA
DIGITAL SINGLE「大団円 feat.ZORN」
2023.07.04 RELEASE
01 大団円 feat.ZORN