2023年にソロデビュー20周年を迎える吉井和哉。『吉井和哉20th × 音楽と人』と題して、『音楽と人』の過去のアルバム記事を特別公開しています。今回は、5作目となるアルバム『VOLT』のインタビューを公開。
(これは『音楽と人』2009年4月号に掲載された記事です)
吉井和哉持ち前のロック感と人間くささとが一緒くたになって、途方もないエネルギーを伴いながら、一気に押し寄せてくる。そんな会心の新作が『VOLT』だ。
ひきこもり同然で作り上げたLOVINSON名義の2作。吉井和哉を名乗り、個人性をさらに追求しながら、サウンドスタイルと歌詞の視点を広げた2作。そしてこの5作目からは、彼はいよいよ迷いのない領域に到達しつつあることがうかがえる。この生命力にあふれた音は、ヤバさと優しさを漂わせながら、生きることを思いきり肯定する。その主役の表情にもう悲壮感はない。前作『Hummingbird in Forest of Space』のヒューマンな世界観を通過して、吉井の音楽世界は一気にスケールアップしたのだ。今まで、時間はかかったかもしれない。だけど吉井はやってくれる! そんな確かな予兆があふれ返ってるこのアルバムに乾杯だ。
今回の手ごたえはいかがでしょう?
「そうですね。イキイキしてて、いいですね」
うん。それは最近の吉井さんも、ってことですか?
「……じゃないですかねぇ?(笑)。いや、まぁそれはもちろん、いろんな問題も抱えてますけど。まあでも……すべては音楽のために起こる問題ですから。はい」
で、まず「ビルマニア」がチャートの上位に。
「入りましたねー。5位内に入ればいいなぁと思ってたら、入ったから、良かったですね」
でも僕は、今のマーケット的にはどうだろう?と微妙な気持ちだったんですけど。
「うん(笑)、俺は最近の音楽っぽいなと思って出したんだけど(笑)。GReeeeNと変わらないでしょ?」
い、いや、そんなことないです。
「あははは。変わらないだろ! テンポが違うだけ!」
違います、音圧も何も! で、これで注目すべきは都会に帰ってるということです。
「……帰ってきたのは、ずいぶん前なんですけどねぇ」
でも外側からは見えづらかったですよ。
「そうですね……まあ都会に帰ってきたというのもあるし。自分の中心に帰ってきたっつうか……だから、首都圏ですよね(笑)。とはいえ、ふだんは琵琶湖にいるんで、あまり(笑)。ほとんど滋賀にいるんですけど」
それは釣りのためですね?
「釣りのため! あはははは!」
で、思うのは、4年前の「CALL ME」で〈都会では枝切られる〉と唄った方が——。
「はい。それ、訊いてくると思った!」
そりゃそうですよ! その人が——。
「そりゃ前回言ったじゃない! 『Hummingbird〜』の時に。言ってない? ほかの雑誌か(笑)」
ひでー!
「あはははは! ……まあ、あの時はね、都会はイヤだったんだよ。イヤだったっていうか、いたかったんだけど……いれなかったんだよ」
それは何でなんですか。
「……(複雑な表情)……いろんな事情で。〈都会でやることは、もうないわ〉って……ちょっと隠居しようとしてました。〈CALL ME〉の時はネガティヴだったし……あ、COFFEE MEが来た(笑)(註:スタッフがコーヒーを買ってきた)。ありがとうございます。ただ、あの時はね……自分の音楽をどういうふうに表現していいか、わかんない時期でもあったし。まだイエローモンキーはあったしね。確かに。それがなくなってしまって、数年経って。〈もう亡くなったんだ〉っていう……亡くなった人をいつまでも悔やんでいるのも、ね。そういうのもあるのかもしんないですね」
じゃあ吹っ切れたんですかね。
「いや、だいぶ! このレコーディングに行く前に〈もう鳴らしたろ!〉と思ったから。すごい音を!」
うんうん! 鳴ってます。
「だからイエローモンキーに勝とうとは、いつも思ってやってないけど……鳴らしたるぞ!っていう。俺は俺の音を鳴らしたる!って。そう思ったのは初めてかもしんないですね。で、ギターの音、汚くてもいいから、俺が弾こう!と。俺の匂いが強くなるはずだ!と(笑)」
そう、音の感触が生々しいですよね。
「だから『at the BLACK HOLE』に似てるような気もするんですよ。それの、こう……自信があるヴァージョンみたいな」
あ(笑)、じゃあ、あれは?
「自信はなかったんだよ! いや、いい作品だとは思いますけど自信はなかった。ヘタだったし(笑)。で、今回はテーマがあって、〈ダサくない駄作を作ろう〉っていう」
ダサくない駄作?ですか。
「〈名作を作ろう〉と思うと、どうも肩肘張っちゃうというか、うまくいかないんですよね。だからとりあえず音のいい、ダサくない駄作を作ってみようと。そのかわり全曲ライヴでやりたくてしょうがない曲を作ろう!と。血沸き肉踊る!みたいな。で、だんだんアメリカで作業してくうちに、ほんとのテーマが自分でわかってきて……仮タイトルは『BOLT』だったんです、もうすでに。それはあまりにも早く曲ができたから……あのー、オリンピックのボルトっていたでしょ? でもアメリカに行ったら、ボルテージのVOLTのほうのメッセージがいっぱい入ってきて、あぁなんかいいなあって思って。で、氷河期の歌とかもあるんですけど——」
うん、「SNOW」ですね。
「氷河期を溶かしたのも、地球のボルテージ——マグマだし。人間も、自分の中のマグマでそういう氷河期を乗り切るんだな、と。俺は氷河期を溶かしたんだ!と」
その氷河期ってのは、数年前までですか。
「『39(108)』の終わりぐらいでしょう。〈THANK YOU YOSHII KAZUYA〉(註:06年秋からのツアー)で溶け出したんじゃないですかね。でも溶け出して、すぐできないのが吉井和哉で」
ですね。
「『ですね』言うな! 帰るぞ、このまま!(笑)」
いやいやいや。えーっと、だからあの時「稲妻が落ちた、けど、このアルバムには反映されてない」と言ってたのが、間にもう1枚はさんで、ここで噴き出してるわけですね。まあ、循環するのに時間はかかりますよね。
「循環……そうですね。なんか爆発したフリはできるんだよね。フリじゃしょうがないと思うんで、もう」
だって〈THANK YOU〉のライヴはものすごくハジけてましたもんね。
「でも、あのツアーは……〈THANK YOU〉って今までの吉井和哉に感謝する感じで、半分パロディで昔の俺をやってたと思うし。そのあとの〈GENIUS INDIAN TOUR〉(註:07年秋から)はまったく違ったと思うし。あの時は、曲が足りなかったんです。やっぱりイエローモンキーの曲とかやんないと構成できなかったし、アルバム出して枚数が増えてかないと、自由にライヴのメニューが作れなかったりするじゃないですか。けっこうドラマ性求めるタイプだから、どうしてもここで〈LOVE LOVE SHOW〉になっちゃった、みたいな(笑)。ファンも、前半は良かったけど、後半はちょっと尻すぼみしてたって言ってたし」
そう、それは僕も原稿で書きました。
「うん、自分もやってて、わかってるし。でもそこで〈LOVE LOVE SHOW〉とか〈SPARK〉とかやったら、また同じになっちゃうし。やっぱり、ないなりに工夫してやらなきゃいけないじゃない? だから〈いつか絶対自分の新しい曲で成り立つソロのライヴができるはずだ〉ってやってました」
そうですか。で、今回なんですが、全体にクラシック・ロックのテイストが強いなと。
「古臭いですか?」
えーと、まあ、あえて言うと(笑)。
「そうかー! うーん」
ただ、それがムリなく出てる気がするんですよ。お里をさらけ出してるというか。
「お里って(笑)。もうちょっとうまい言い方ない?(笑)。だってジャケット、富士山だもん。これ、小学校6年の時の俺が描いた富士山! 油絵で描いたの」
えー、ほんとに!?
「シングルがビルで、アルバムは富士山よ?」
編集部・柳「めでたいですね(笑)」
「持ってるとめでたいですよ! 景気上がりますよ! ほら、富士山もいつ噴火するかわかんないじゃない? だからこれ、扉開けると中、噴火してまっせ!みたいな。わかりやすいプログレのジャケットですよ」
ぷ、プログレの音ではないですが(笑)。
「でもジョン・フルシアンテが最近出したアルバムなんか、もっと古臭いですよ!(笑)。で、ほら、氷河期・噴火・氷河期・噴火で、ずっとくり返してるかもしれないじゃないですか? この地球だって。人間もそうかもしんないし、俺もそうだったし。だから自分のルーツというかね、そういうものに忠実にやりました。一切新しいことをやらない!と思って、今回は」