俯瞰で見ると最低に見えると思う。でも音楽を邪魔した場合それを全部切る!っていう生き方をしてる
あと思うのは、誰の心にも入っていくような曲が増えてますよね。
「こんだけ適当な、ねえ? ヘンな歌詞でね(笑)」
主にシングルになった曲がそうだし、「バッカ」もそうだし。
「〈バッカ〉とか〈雨雲〉とかね」
だから欲望にまみれた姿と、すごく優しい、ほんと一市民の姿が交互に出てくる作品で。それがひとりの人間のものとして成立してるんですよね。
「うん。それが吉井和哉っていう身体の中身を見てみた時にある比重なんじゃないですかね。ちょっと前に、脳内イメージって流行ったじゃないですか。俺、あれ、全部『休』なんですよ。で、ここの真ん中の眉間のとこにだけ『H』が1個あるんですよ(笑)」
はははははは!
「1個ってまた深いなぁ、みたいなね(笑)。で、後頭部に『友』ってのがある。そういうアルバムじゃないですか? ほんと(笑)。これがたぶん自分のベスト・バランスなんじゃないかなと思う。『SICKS』もそういうバランスだったと思う。で、『39108』は全部『悩』だった、みたいな。後頭部に『H』が1個ぐらい(笑)」
あー、でも今度のアルバムはもっと『H』が多い気がしますが……。
「あははは! 1個ってとこがね! 1個の濃い『H』を唄ってるんです(笑)。動かない『H』!」
それにしてもイエロー・モンキーはクラスの隅っこであまり友達もいない子がつながりを求めて聴いてた音楽だった気がするんですが、今やそうではない曲が増えてますよね。
「そうですね……まあ今は、もちろんファンも大事にしてますけど。いろんな人に聴いてほしいなというのは、すごく思いますね。ていうのは、自分のロック感ってもう、若い子にはあんまり伝わらないじゃないですか」
ああー、そう思います?
「うん。『セックス、ドラッグ、ロックンロール』みたいなのが好きだったロック感だから、自分のは。10代の時に聴いてたロックがやっぱ好きだからね。そういうのって今の10代の子に言っても……ズレると思うんですよ。ピントが。で、『俺は1万人ぐらいの固定ファンがずっといてくれればいいや』ってのは、すごくイヤなんですよね。まあそれで普通に週に3回ぐらい焼肉食えるでしょうけど(笑)」
週に3回も食べないでしょ(笑)。
「はははは! それぐらいの儲けは出るでしょうけど。べつに俺はお金が欲しいわけじゃないし。それこそそうやって割り切っちゃえば、今のファン層でやってけるし。なんだけど、そういうんじゃないんですよね。だけど自分の思ってることを押し殺してキレイな歌を唄ってるかというと、また全然違うわけだし。そう思いながらも、こんだけヘンな内容のアルバムを作ってしまうわけだから。そこは自分が今やってて一番楽しいハードルなんですよ」
ハードル、ですか。
「こういうのを作りながら広げていきたいっていう。というのは、吉井和哉って人を知ってもらいたいだけであって。吉井和哉を愛してほしいんですよ。で、愛されたいんですよ、たぶん(笑)」
はい、はい。わかります。
「愛されたいというか、ありがたがられたいんです。ははははは!」
あ、ありがたがられたい(笑)。
「いや、みんなそうじゃないかなぁと思うんだよね、きっと。俺は音楽しか能がないから、とりえがないから。だから……その人の人生にとって何かしらの影響というか、たとえば時にはそっと手を差し伸べてあげたりとか。笑かしてあげたりとか、ハッピーにしてあげたりとか……っていうのはしたいなぁと思ってて。でも『覚えとけよ、俺はエロいからね!』みたいな(笑)」
なるほど。それにアルバムのそこかしこに〈愛〉とか〈夢〉〈希望〉というストレートな言葉が出てきてますよね。これが今回の開けた感じにつながってると思うんです。
「うん、まあ……やっぱ日々ありがたみを感じてるんですよ、音楽をやれてることに。だから……そうさせてくれてる見えない何かがあると思うんですよね。僕、無宗教ですけど、そういう何かに言うべきだろうなと思って。自然に入っちゃいますね、『恵みのShine』であるとか、そういう言葉が。若い時はそういうの、無視できるけどね。すごいありがたいことですよね」
音楽が自分に何かもたらしてくれてる、みたいな?
「うん、『まだやらしてくれるんだなあ』と思った」
はい。ただ、音楽の神様がいるとしたら、吉井さんはすごく苦しめられた時期もあったじゃないですか。
「うん。それを捨てようとしたからじゃないですかね? 音楽をやるっていう行為を。引退しようと思ったりとか……だから苦しんだんじゃないですか。ガソリンスタンドでバイトしようと思ったことがあるし(笑)」
だからその神様は、ある時には残酷なものやへヴィなものを自分にもたらすこともあるわけですよね。
「うん……も、あるけど。世に出してるものですからね、音源って。ということは世の人が聴いて、どう思うかがすべてだから。それによって救われたって人が、やっぱいるわけで。そういうのが自分の天命なんだろうなぁと思うし、それを避けてはいけないような気がして……それで〈CALL ME〉作ったりしてたわけですからね。だから、たしかにいろんなものを犠牲にしちゃってるし、俯瞰で見ると最低の男に見える部分もあると思うんですけど。でもやっぱり音楽を邪魔した場合は、俺はそれは全部切る!っていう生き方をしてるから。しょうがないです。音楽しかないから。やることが」
やっぱりそう思えるんですね。
「そうですね。役者の仕事とか来ますけど断ってますね、ちゃんと。『CMぐらいは出たいな』と思ってるんですけど、CMの話は全然来ない(笑)」
そ、そうですか(笑)。そうなると、人々に何を唄っていくかが大事になってくるということですか。
「うん……『人々の中で自分はどういう存在で提供できるんだろう』っていうことじゃないですか。やっぱり相手がいて成り立つことだから、今僕がやってることは。そこはすごい難しいですけど。バランスがね」
なるほど。でも吉井さんの人生が投影されている作品が続いているなあとは思っております。
「そうですか。大変ですけど(笑)」
ですよね(笑)。去年、今後もっとハジけるという話をして、パツーン!と行くのかなと思ってたんだけど、決してそれ一辺倒ではないですね。
「……そうですね(笑)」
でもこのいろいろなものがない交ぜになった感覚こそ、今の吉井さんの人生観なんだろうなと思ったんですよ。
「逆に……器用に『みんながこういうの聴きたいんだろうな』みたいなのでアルバムを全部まとめられたら、もっと自分は成功できてると思うんだけど(笑)。それじゃヤなんですよ。やっぱり照れ屋なんで……すごい恥ずかしいんですよ、それをするのが。すごく血の通ってないもののような気がする」
決して虚飾に満ちたロック・スターを演じようというのではないと。
「だってフェラーリとか持ってねえし。ははははは!」
(笑)フェラーリ持ってそうに振る舞ったっていいじゃないですか。
「いやいや、お話したことはないけど、ロック・スターっぽいなあって思う人の話を聞いてると、やっぱロック・スターですよ。そういう人って」
吉井さんは違うと。
「自分で言いますけど、地味ですからね。コンビニでもらった割り箸、捨てられないですから。すげえ貯まってるんですよ、引き出しに割り箸(笑)」
あははははは!
「ほんとのロック・スターは割り箸なんか取っとかないっすよ! それが〈ワセドン3〉を入れてしまうところだから、もう気づけよお前ら!って思うんですけど(笑)。しかも俺、さっきまで東急ハンズでフライパン買ってたんだよ? マジですよ。車乗っかってるから、あとで見せますよ! キッチン用品全部買いなおそうと思って今コツコツ買い揃えてます(笑)。ふたつ買いましたよ、ちなみに!」
べつにウソとは思わないです(笑)。でも一歩一歩進んでますね、吉井さん。
「よく『今までになかった大人のロックがやりたい』と言ってたんですけど、それができてきてるなぁと思いますね。こういうものはなかったと思うし」
はい。毎回それを切り開いていくのはヘヴィだと思いますけど、頑張ってもらいたいです!
「どんどん加齢臭が出てくるからね。曲に(笑)。でも……いい加齢臭でありたいな(笑)」
文=青木優
写真=太田好治
吉井和哉
ALBUM『Hummingbird in Forest of Space』
2007.09.05 RELEASE
01 Introduction
02 Do The Flipping
03 Biri
04 シュレッダー
05 上海
06 ルーザー
07 ワセドン
08 Pain
09 Shine and Eternity
10 バッカ
11 Winner(Album Version)
12 マンチー
13 雨雲
https://www.yoshiikazuya.com/discography/detail/77/
〈ソロデビュー20周年記念 NEWS!〉
■吉井和哉展「二◎」(ニジュウマル)リリース決定!
収録曲、ビジュアル、商品形態などの詳細については後日発表予定。
■吉井和哉展「二◎」(ニジュウマル)が東京ガーデンシアターにて開催!
ソロデビュー20年の前日9月30日と当日10月1日の2日間にわたる大規模展覧会。