自分の性(さが)とか、自分の性格とか質をムリに変えようとするのは良くないなと思う
でも吉井さんの重い時期って、これ以前の5年間で充分だと思ったのに、まだツラいことが?
「や、全然ツラくないんですけど。身体も健康ですし。ただ、やっぱり……環境を変えたいんじゃないですかね。いろいろ、自分の中の。もっと……もっと……自由にやりたいんじゃないかな」
ということはプレッシャーのようなものが。
「……でも……ま、そういう時期なんでしょうね。そこにあまり縛られてはいけないって、もう今は思う。だからヘンな話、今日もお寺さんで撮影させてもらって。人によっては『そんな、ご本尊さまにお尻向けて撮っちゃダメですよ!』って考えちゃう人もいれば、『いや、そんなちっちゃなことで神様は怒らないですから』つって普通に撮れる人もいれば、どっちも正しいわけで。だから――」
ものは捉えようということですか。
「そう、捉えようってことです。だから〈いい〉〈正しい〉はなくて……法に触れなければ、自分が気持ちいいことやるのが一番だと思う。あとはアレだよね…………今、自分の中にリアリティがなかったんでしょうね、キラキラしたものが。〈40で、じゃあ何唄う?〉〈40前で何唄うの? 男が?〉っていうの、ないすか?」
うーん、俺は唄ってないからなー(笑)。
「いや、俺的にはないんだよ、唄うことなんか。30代後半で。そんな、えっ、ラブソング? 〈君にキスしたい〉とか唄うの?っていう話になっちゃうじゃない。みんな言ってるもん、同世代の奴とか。20代とか30代前半は許されることがあっても『いろいろ大変になってくるよなあ』みたいなね。だから〈CALL ME〉はすごくあの時期に必要な曲だったし、あの年齢の人間だから唄えると思うし。さらにやっぱ、ハードルは高くなってくじゃないですか? そんなこと、ライターさんに言ってもしょうがないんですけど」
いえ、これは読者にも伝わりますよ。
「もちろんね、読者には、もっと言っちゃいけないことで。でもやっぱり、もうヒストリーを見せるしかないわけですよ。この時期は」
鎧を着ててもしょうがない、みたいな?
「鎧というか、ムリにポップにしてもしょうがないし。ポップなことなんかないし、全然」
全然ないですか。
「ないよ!」
う、うーん! またまたこれは……。
「作ればいいですよね? でも今、俺はおとぎ話を作ってる気分じゃなかったし」
んー、それはYOSHII LOVINSONの2枚もそうだったと思うんですけど。
「うん。もう『SICKS』以降そうですよ、イエロー・モンキーの。だけど、もう40以降の次のアルバムからは、そういう意味では、自分のパーソナルな部分は、逆に隠してくかもしれない」
うん。あのー、あらためて思ったのは、ここまでのソロの3枚って、いろんなことが唄われてるけど、結局すべて吉井さんのことですよね。
「(笑)……そうですそうです」
それってシンガー・ソングライターのような切迫感や生々しさだなあと思うんですよ。
「ああー……シンガー・ソングライター・ブームでしたからね。僕の中ではもう」
あ、そうなんですか?
「うん、そんな音楽ばっか聴いてたから。とくに70年代のシンガー・ソングライター……ジェイムス・テイラーとかね。ああいう孤独感というかね、孤高な感じというのは、たしかに好きな時期でしたね。だから今回はアコギ1本で作れる、唄えるような曲をバンドでやってるっていうのが、今までよりさらに深いと思うし」
なるほど。しかも70年代のシンガー・ソングライターは、60年代中盤から70年代にかけてのバンド・ブームが破綻したあとのものですから。
「そそそそ(笑)。そうなの」
つまり、30年ぐらい前の状況を地で行ってる人ですよね(笑)。ひとりに立ち返ってるわけですよね。
「(笑)うん。だって、ひとりしかいないんだもん。でも逆に40になってからは80年代のソロ・シンガーみたいに、唄って踊るようなね。マイケル・ジャクソンとか(笑)」
デヴィッド・リー・ロスとか。
「デヴィッド・リー・ロス! ヒューイ・ルイス? バンドか、あれは(笑)。クリストファー・クロス」
それは踊らないです。
「あ、フィル・コリンズ! いいなあ。フィル・コリンズになろう!」
あと、これらの曲を書いてる時期は、ぬくもりが欲しい時期だったのかなという気がしますけど。
「うーん、そうかもしれないね。あのー……でもね、自分の性(さが)とか、自分の性格とか性質をムリに変えようとするのは良くないなと思うしね。あのね、山梨にそっくりなお寺があるの」
ここと?
「ここと! だから今日すごい落ち着いてたんです。そこは違う宗派のお寺なんですけど……そこのお坊さんに『もっと楽に、自分の好きなように、自分の感性で生きるのがいい』って言っていただいて。そん時ふと思ったんですよね。やっぱり……楽にやるのが一番いいんですよ(笑)」
ふむふむ。まあ僕ももう40なので、わかるところも多分にあるのですが。
「あ、なんか余裕ですね(笑)。厄前でもソワソワしてないですね?」
ああ、僕は全然。
「全然? 気にしない?」
うん。というか思うんですけど、吉井さんは年齢のことを気にしすぎてるんじゃないかって。
「……そうですね。うん、そうなんですよ。親の愛情が少ないんですよ……(笑)」
あの、僕、「日本人は年齢を気にしすぎ」って話を聞いたことがあるんです。「外国の人は〈何歳だからこうしなきゃ〉って、そんなないよ」って。
「うんうんうん。それがね、日本人なんです(笑)」
吉井さんも気にしがちですか? 年齢を。
「年齢? 気にしますよ。それは」
うん。何でですかねえ?
「……何で?」
だって極端なこと言うと「どうでもいいじゃないですか」って話ですよ。
「どうでもいい人とどうでもよくない人がいるわけですよ! 世の中には。人それぞれ(笑)」
うーん。あのー、「WEEKENDER」が好きなんですけど。
「へー」
「へー」って(笑)、人気曲じゃないですか!
「あははははははは!」
とくに感情移入したのが〈遠回りしても 良かったと言える/大人になりたい〉ってとこで。
「うん、俺もそこですね。そこを唄うための回りですからね(笑)」
な、長くて遠い回りでしたねえ(笑)。
「そういうもんなんです、人生って」
だから〈大人にならなきゃ〉という気持ちが重くのしかかってたのかなという気がするんです。で、日本には〈子供はここまで〉〈こっからアンタは大人にならなきゃダメよ〉というプレッシャーが強い風土があって。まあ、ここんとこはそれが崩れつつありますけど……とくに田舎だと、そういう価値観が今でも大きいですよね。
「うん、それはそうですね。すごくある。都会と田舎で全然違う。田舎はもう、横溝正史も立証してるけど、すごい怖い!」
(笑)横溝正史に行きますか。
「うん(笑)。というか……極端なこと言っちゃうと、これからは、ひとりひとりの考え方の時代だと思うんですよ。もう戦争とかテロとかも、ほんとムダな時代だと思うし。戦争とか政治では、この世の中変わらないし。やっぱりひとりひとりの考え方で変わっていく世の中だと思う。そういうとこに芸術とかアートが必要だと思うんです、すごく。それは、本とか僕読まないけど、肌で感じるものなんですけどね。だから……たとえば田舎なら田舎の中での戦争があったり、夫婦間の戦争があったり、職場での戦争があったり、いっぱいあると思うんですけど。そういう中で、ほら、たとえば今ってさ、欧米社会が入ってきてグチャグチャになってる時だと思うんですよ。グチャグチャになりきっちゃってる時というか」
向こうの文化や価値観がね。
「うん。外国だったら、墓は個人の墓なのに、日本だと家の墓だから、やれ『この墓にはあの嫁は入れない』だの何だの、しょうもないことまで問題になったり。とくに田舎はそういうのが強かったり。第三者のことを気にしすぎて動けない民族じゃないですか? 日本って。個人の主張が少ないから。まあ僕もそういうことをすごくこの1年考えてたんですよ。僕も、いわゆるおばあちゃん子だし、田舎だし、そういうのは耳にして育ってるから。『バチが当たる』ってフレーズだとか」
はい、はい。僕もよく言われた。
「うん。でももう、そういうんじゃないじゃないですか? この世の中って。ただ、もっと、欧米化ではなくて、国際化していかなきゃいけないと思うし、いろんな部分。そこに向けて自分も少しずつ動いていきたいなぁと思うんです。何か、おっきいことができそうな気がするんですけどね」
大きいこと? 音楽で?
「うん、芸術で。何かのお手伝いとか。何かのパイプの役とか」
へえー! それは頼もしいですね。
「んふふ……(←再びテレコをいじる)」
あー! ちょっとちょっと!!
「倍速にしたの。大丈夫、使い方知ってるから。ちょっと巻かなきゃいけないかなと思って(笑)」
いや、テープの速度を巻いても時間は同じですから! えーと、パイプ役という話でしたが。
「いやいや、ほんとに役に立てればと。俺はこう見えても、いろいろ世の中のことに何か手伝いできないかなって考え出してるんですよ。ねえ? いろいろ好きなことやってきたし。これからは好きなこともやりつつ……何かそうやって少しずつ手を広げていきたいなぁと思うんです。たとえば、もっと若い子と何かやったり。若い子をアメリカに連れてって『こういうとこ、あるよ』とか。そういう簡単なことでもいいんですけど」
ああー。若い子で思い出したけど、夏フェスで世代が下の人たちと触れ合われたそうですね。
「(笑)……僕、最近の若いバンドですっごい好きなバンド多くて。ほんっとに自分の若い時とえらい違いだなって思うぐらい音がいいし、センスもいいし、って思うんですよ。そういう子たちがわざわざ楽屋に挨拶しに来てくれて『昔聴いてました』とか『コピーしてました』とかいうのは、すっごいうれしいですね。しかも全っ然イエロー・モンキーと違うタイプのアーティストなんですよ? そういう子たちが自分の個性を確立したわけだから、それがうれしいですね」
精神的な部分で何か受け継いでるんですね。
「うん、お役に立てたんだなあと。〈あの人そういえばテレビでスカート穿いて唄ってたなあ〉みたいなのを記憶してくれてるんでしょうね(笑)。あとはもう単純に、その……〈まだまだ若いもんには〉みたいな発想がないので」
えっ、そうなんですか?
「全然ないですよ。だって若い子は若い子でやっぱり魅力があるし、こっちはこっちの世界があるし。どっちもできないじゃないですか? だけど、その、やっぱり、若い子たちが〈センスいいなぁ〉とか思ってくれるのは、すっごいうれしいですよね。単純に。それは本能ですよね? 人間の」
ですね。でも、そうですかー。もしかしたら〈そんな、棚の上に置かないでくれよ〉みたいな気持ちもあるのかなと思ったんですけど。
「ううん、いや……若い人たちは、ほら、俺みたいなこと、できないから(笑)」
おーっ、カッコいい! そう思います?
「ムリ! やっぱり、ね、何にもしなくても生きてるだけで先輩なわけだから。歳とってるだけで。そういう枯れた部分というのは、やっぱ出せないんじゃないですかね。匂い、みたいな……ま、匂いしかないんですけどね。あはは!」
編集部・柳「加齢臭? それは違いますよね(笑)」
「(笑)いや、似たようなもんですよ」
というか、今の発言は「お前ら、俺ぐらいカッコ良くなれるか?」ってことかと、一瞬。
「いやいやいや、なれますって! 40になったら全然俺なんか抜かすよ。だって二十歳の時点で俺よりカッコいいんだもん。ひどいっすよ! 俺の昔の写真見たら、たぶん(笑)。『何すか、その前髪?』『何すか、その楽器!?』みたいな(笑)」
んー、そうですか? いや、実は最近カッコいい男はロックじゃなくてヒップホップのほうに行ってると思うんですよ。
「ああー! そういうことですね。そうですね」