PK shampooが〈Don’t Trust PK shampoo〉と題し、東名阪3会場を廻るツアーを2月上旬に開催する。東京・Zepp Haneda、愛知・名古屋ダイアモンドホール、大阪・味園ユニバースと大きめなハコだが、まったくプロモーションをしている様子がない。そもそも去年、ほとんどバンドとしての動きがない。何か考えがあるのかと思っていたが、なんと、予想外のトラブルに巻き込まれていた。ヤマトパンクス(ヴォーカル&ギター)に話を聞く。
急にいろいろと慌ただしくなってきましたね。
「本当に。まず、マネージャーが辞めたんですよ。辞めたというか飛んだというか……。それだけならまだしも、引き継ぎも何もしてないし、売り上げも全部持ってかれちゃって……」
そこまで言っていいんですか(笑)。
「全部言います(笑)。そもそも俺もメンバーもこの数年間、バンドで稼いだ金、ほとんど受け取ってないんで。それどころか、そのマネージャーが外部のスタッフやCDの流通会社、その他諸々にも大量の未払いや不義理を働いていたことが最近次々と発覚し始め、儲けは全部持っていかれたのにそういうマイナスだけ置いて行かれて……」
大変なことになってましたね。
「去年、いろんな事情でバンド活動がほぼできなかったんですよ。2021年の冬にスタジオコーストのワンマンがソールドして、さぁどうしようか、って時に事務所やレコード会社とのごたごたがあったり。曲のリリースもやむにやまれぬいろんな事情で先延ばしになって、ダラダラと何もまとまらないまま時が過ぎ(笑)」
足踏みしちゃったと。
「そうですね。でもファーストアルバムの評判もよくて、いろんな人たちに知ってもらえたので、何もなかったわけじゃないです。でも俺はCDの印税も一銭も受け取ってない(笑)。あれはどこに消えたのか謎です。カラオケやサブスクの印税は外部の会社を通してたのでそれで何とか生活はできたし。ていうかまぁ金はもうどうでもよかったんですけど、何より2月の東名阪ワンマンツアーが決まってるのに、なんのリリースもプロモーションもしてない状況で」
Zepp Hanedaと名古屋ダイアモンドホール、さらに味園ユニバースと、どれもキャパが大きい会場にも関わらず。
「俺らですら、本当にライヴやるのか?って思うくらい、ロクに告知も準備もしてなくて。レコーディングしようって話だったのに、マネージャーが何もしてなくてメンバーやスタッフのスケジュールすら確保されてなかったんですよ。そのうえ金持ってどっか行っちゃうし(笑)。かといってイベントを中止にはできないし今すぐどこかの事務所とかに新しく入る時間はないから、今はいろんな人の知恵を拝借しながら、メンバーのスケジュール管理からグッズの製造まで全部俺がやってる状態です。グッズ作る金も持っていかれちゃったから知り合いに原価を売り上げから天引きしてもらう契約組んでもらったり……(笑)。普通のバンドだったら確実に解散してます(笑)」
笑えない。そんな状況でもレコーディングは始まったみたいで。
「本当は、去年のうちに新曲録って、ライヴの前にリリースしたかったんです。曲も既にあったし。それがなんやかんやと引き伸ばしになって。でもまぁマネージャーとの関係が解消になったので逆に自由にレコーディングができるようになって。だけどあまりにも急すぎて、エンジニアさんもスタジオもまとまったスケジュールで押さえることができず。普段よく呑んでるレーベルのおっちゃんに連絡して一旦レコーディングする金出してくれないかって頼み込んだりして……ようやく、1月中になんとかなるかな、って見えてきた」
2週間前に突然とか無理だから(笑)。
「だから『曲書けよ!』とか『酒呑んでる場合か!』とか『何してるんだ!』って声はごもっともだったんですけど、いろんな事情が複雑に絡まっちゃってできなかったんですよ。俺の怠惰もなかったとは言いませんけど。いや、正直俺は遅筆だから助かった部分もあったんですけど(笑)」
それが今年になってだいぶ見えてきたと。
「まだまだやることは山積みですけどね。ライヴまでもう1ヵ月切ってるのに、テックの楽器チームのスケジュールを押さえ、機材を押さえ、メンバーのスケジュール調整をし、移動行程とチケットの手配。宿泊先はどうするのか、ライヴの映像は、録音は、レコーディングはどうしよう、と全部取りまとめてるので、毎日毎日寝ても覚めても電話がかかってくる状態で気が狂いそうです(笑)。グッズも何にも手配してなかったから、急きょ自分でイチからデザインして……」
どんどん暗い顔になっております(笑)。
「そして金は全部持ち逃げされてるんで、1円も入ってこない!」
皆さん、こんなヤマトパンクスのためにライヴにぜひ。そんな中、リリースはまだ先になってしまいますが、ようやく新曲が生まれましたね。
「ええ、本当にようやく」
相変わらず泣きのメロディが炸裂した、切ない名曲だと思います。
「いやぁ、俺って才能あるなーと自分でも思いました(笑)」
冒頭の歌詞に〈西武新宿〉って言葉が出てくるのに象徴されてますけど、視点が東京に住む自分になったことで、逆に、地元を思うというか、郷愁みたいなものが強く出ていて。
「これ、東京に出てきたタイミングで書いたんですよ。だから去年の夏にはあったんです。上京して、メンバーや仲よかった奴らとも離れて暮らすようになって、やっぱり変わったことがいっぱいあったんですよね。今までだったら、メンバーの誰かが勝手にスタジオ予約して、そこに適当に集まって、音鳴らして、楽しかったねって帰りに酒呑む。それで幸せだったんですけど、自分で選んだこととはいえ、やっぱり職業としてのミュージシャンになっちゃうと、いろんな手続きや打合せや人間関係のしがらみも増えるし、お金のこともシビアに考えなくちゃいけないし、何ならそれを持ち逃げされたりするし(笑)。なんだかなあ……と思った時に、脳裏をかすめた風景というか」
だから妙に切ない。
「そうですね。今までの人生でこういうふうになることがあまりなかった。失敗したこともそんなになかったし。それが東京に来て、いろんな意味で失敗するようになった(笑)。失敗というか、ちょっと落ち込むような出来事が多くて」
無頼で通ってますけど、実際に会って話すと、繊細で優柔不断な人ですからね。
「うるさいわ(笑)。だって、曲もMVも一年以上何も出さず、ろくにプロモーションもしないでZepp Hanedaから東名阪切ってるっておかしいでしょ?」
どうかしてますね(笑)。
「もはや傍から見たら最初から失敗なんですよ。俺らは、去年のうちにレコーディングして、EPかなんかとMV数本出して、みたいな打ち出しでこのツアーになるんやろな、と思ってたのに、まったく話がまとまらず……でもまあ、スケールのでかい失敗ができる自由があるってことは、逆に成功する自由もあるってことだし」
物は言いようです。
「そう捉えるしかない(笑)。でも悪いことばかりじゃなくて、助けてくれって相談できる大人もたくさん増えたし。今までは頭を使って効率よくクレバーに、みたいなタイプに憧れてて、実際そういう工程も大切だけど、やっぱり最後は汗かいて懸命にやらないとダメだな、と」
それでいいと思います。
「でも俺、なんだかんだ言いながら、この状況も含めて、何でもわりと楽しめるタイプなんですよね。ヘラヘラしてるだけとも言えますけど(笑)。なんか葬式に似てるな、と思うんですよ。ほら、肉親が『あと半年後に死にます』って言われたら悲しいけど、ある日急に事故とかで亡くなって、身内に連絡して葬式の会場とやりとりして、お花は、香典は、とかってあたふた走り回りながら準備してると、悲しむ間もない、みたいな。でも全部がひと段落してふと部屋で一人になった時、自分でも無意識に涙がすっと頬を伝う、みたいな(笑)」
Zepp Hanedaは葬式なのか(笑)。
「第一期PK shampooみたいなものを一旦区切るツアーにはなると思います。そのために毎日、朝から晩までずっと走り回ってるので。でもまあ、自主で活動してるくせになあなあで他人に任せてた自分らがよくないんですけど」
殊勝なことを。
「やっぱり自分の足で動き回って、自分の目で見て、手を動かして、汗をかいてみないと、本当のことはわからないんだなっていう(笑)」
それが身に染みてわかったと。
「そうですね。〈From World Wide Web〉って自分たちのことを謳ってますけど、それはあくまで〈From〉であって〈To〉とか〈For〉ではないんですよね(笑)。ちゃんと社会に出ていかないといけないなと。10代から20代前半の頃は、それこそネット上に書いてある意見とか屁理屈とか、机上の空論みたいなものを信奉してた時期もあったし、自分もそういう行動原理で動いてたこともあったんですけど。もう20代も後半で、こういう失敗も成功もたくさんして、大人になったというか、アップグレードされました(笑)。設計図を書いたりするのも大事ですけど、ちゃんとそれを基に実践機として公道走ってみないと、そもそもその設計図が正しいのかもわかりませんしね」
年末、新宿で突然路上ライヴをやってましたけど、あれは突然思い立って?
「そうですね。たまたまスピーカーとアンプがいくつか手に入ったんで、ちょっと鳴らして、ついでにMVの素材にしようと思って。新宿西口の外れでやったんですけど、人に聴いてもらう楽しさがわかりましたね。今まではチケット買ってくれた人しか観れなかったんですけど、それこそ閉ざした中で好きな人にだけ見せて聴かせるだけじゃない、こういう楽しさもあるんだなって」
お巡りさん、夜間通用口が終わるまで待ってくれてありがとー。よいお年を。 pic.twitter.com/I3vJPQZlHJ
— ヤマトパンクス/PK shampoo (@netchinpira) December 31, 2022
ここ最近、いろんな話をしてなんとなくわかったんですけど、たぶんみんな、ヤマトに会って話をしてると、ほっとけないなこいつ、みたいな気持ちになると思うんですよ。音楽にもそういうものが滲んでるような気もしますけど。
「ありがたいです。音楽好きだけどまだPK shampooのことをあんまりよく知らない人や、逆になぜか俺の人柄だけ知ってて、曲をまったく知らないって奴もいますけど。『ラジオから入ったから芸人だと思ってました』とか(笑)。それはそれで面白いんでいろんなことはやりたいんですけど、ここ数年はコロナもあってバンドをあんまりやれなかったので、今年はもうちょっと本腰を入れてやってみようかなと思ってます。いろんな反省も活かして(笑)」
ちゃんと音源をリリースして、ライヴやって、ツアーやる、と。
「なんか一大決心!みたいになってますけどバンドだったら当たり前の話ですよね(笑)。今までは変化球……どころか、わざと明後日の方向にボール投げたり、時にはボールじゃないものを投げる!みたいな活動ばっかりだったんで。みんな必死に素振りして投げ込みやってる中、ジャガイモをサッカーゴールに蹴り入れて、俺は個性的だーって言い張ってる感じ(笑)」
言ってたし、そうやらざるを得なかったわけですよね。
「それはそれで楽しかったんで言い訳したり誰かのせいにしたいわけじゃないんですけど。今年はちゃんと野球のボールをマウンドから振りかぶろうと思ってますんで(笑)」
文=金光裕史
撮影=笹原清明_えるマネージメント
PK shampoo One man tour 2023
『Don’t Trust PK shampoo tour』
2023.02.03(FRI) at 東京・Zepp Haneda OPEN 18:00 START 19:00
問合せ:ホットスタッフ・プロモーション 03-5720-9999
2023.02.10(FRI) at 愛知・ダイアモンドホール OPEN 18:00 START 19:00
問合せ:ジェイルハウス 052-936-6041
2023.02.18(SAT) at 大阪・味園ユニバース OPEN 17:00 START 18:00
問合せ:GREENS 06-6882-1224