僕みたいな人間は、良く言えば個性的だし、悪く言えば使いづらい。だから一発でクビになるか、一生使ってもらうかのどっちか(笑)
サポートの仕事はいつから始まっていったんでしょう。
「レギュラーのサポートとして最初につかせてもらったのが、大比良瑞希さんっていうシンガーソングライターなんですけど、2016年の10月くらいですね。2018年からはSIRUPとも一緒にやるようになって、少しずつ声をかけてもらうことが増えていきました」
これまでいろんな現場に参加されてきたと思いますが、印象に残ってることは何かありますか?
「悪い印象のほうなんですけど、一度、すごく人気のある人からサポートの声がかかって、音楽的な好みはそこまでシンクロしてたわけではなかったのに仕事を受けたんです。そしたらちょっと不運なトラブルに見舞われて、当日の演奏で大失敗してしまって。もちろん、それ以降声がかかることもなく。相手の名前に乗っかろうとしてた自分がすごくダサかったなって思うし、そういう考えだったから大怪我したようなもので。それからは、〈プロフィールに名前が書けるから〉みたいな考え方で仕事を引き受けることは絶対しないようにしようって思いましたね」
そんなことがあったんですね。
「本当に恥ずかしかったです。長く一緒にやっていくなら、自分が本当に好きだって思える人だけにしようってあらためて思って。だからこそ、今はSIRUPやgo!go!vanillasでサポートをやらせてもらってるんですけど、半分バンドメンバーのような気持ちで関わらせてもらう現場が多くて。もちろんお仕事をいただいている以上、どの現場も差はつけずに全力でやるんですけど、自分にとって一番大切にしたいものは何だろう?って考えた時に、人間的にバイヴスが合う人とやることだなっていう」
なんでもかんでも仕事を取ればいいっていうわけではなく、相手とどういう関係値で音楽を鳴らせるかを大切にしたいと。
「そうですね。ただのサポート仕事だから、みたいなスタンスじゃなく、もっとコミットした形でバンドに関わっていきたい。ただ、僕みたいなタイプが嫌な人もいると思うんですよ。仕事としてきちんと線を引いて、言われたことだけをキチンとやってほしいっていう人もいると思うんで。僕みたいな人間は、良く言えば個性的だし、悪く言えば使いづらい。だから一発でクビになるか、一生使ってもらうかのどっちか、みたいな感じかもしれないです(笑)」
でも使いやすいプレイヤーにやろうとはせず、自分のスタンスを求めてくれる人と一緒にやろう、っていう。自分自身にも音楽にも正直でいたいということですよね。
「ミュージシャンそれぞれにいろんな音楽との関わり方や向き合い方があるからこそ、僕は人として好きだなって思える相手や、音楽への向き合い方に共感できる相手と一緒にやりたい。芸能人になりたいタイプの人とか、お金を稼ぐ手段として割り切ってる人も、何も悪くないと思うんですけど、自分は音楽を通して世の中に何を伝えられるかとか、自分自身がどう生きるか、みたいなことを考えたいと思ってるので。そこで共感し合える人がいるなら、持ってるすべての力を出してその人をサポートしてあげたいなっていう」
バンドとサポートの関係って、はっきりした利害関係があると思うんですが、井上さんはすごく純粋に向き合っているのが伝わってきます。go!go!vanillasとは、どういうきっかけで一緒にやるようになったんですか?
「たしか2020年に、『PANDORA』のエンジニアをやってたIllicit Tsuboiさんがピアノを弾ける人を探してるっていうので、知り合いから紹介されたんです。それでスタジオに行ったら、ピアノのレコーディングなのにメンバー全員いたんですよ。みんながめっちゃ僕の音を聴いてて。バンドの音楽を自分たちでちゃんとコントロールしたいというか、みんな本当に音楽が好きなことが伝わってきて、すごくいい現場だなと思いましたね」
サポートの楽器のレコーディングにメンバー本人がいることは珍しいんでしょうか?
「いろんな現場で仕事しましたけど、メンバー自身がいることは少ないですね。でもgo!go!vanillasは挨拶から極めてウェルカムで、とにかく気持ちよかった。それがすごく印象に残ってて。そのあと牧(牧達弥/ヴォーカル&ギター)に誘われてサシで呑みに行ったんですけど、牧は音楽にも人にもめっちゃ興味があるんですよ。しかも打算じゃなく好奇心のチャンネルがちゃんと開いてて、すごく面白い人だな!と思ったんです。そこですごく仲よくなって、そのあとまた別の曲のレコーディングにも呼ばれて、他のメンバーともちょっとずつ仲よくなっていきました。今ではもはや友達みたいな感じですね」
音楽と人の1月号でgo!go!vanillasのメンバーが、井上さんが最新アルバムの『FLOWERS』のレコーディングに参加されたことですごく刺激があった、という話をしているんですね。ちゃんと音楽や人に興味を持って、一歩踏み込んだ形でチームやバンドに関わってくれる井上さんのような方だからこそ生まれる空気感や、いいエッセンスがあるんだろうなって思います。
「そういうふうに言ってもらえると……めっちゃうれしいです!(笑)。すごく自己肯定感が上がります」
showmoreの活動をDIYでやって、サポートの活動もこれだけされていると、オーバーワーク気味になりそうですが、そのあたりはどうバランスを取っているんでしょう。
「実際、showmoreに関しては完全にひとりですべての作業をやっているんで、作るほうに集中したい時もあるけど、他にやってくれる人が誰もいないのでやらざるを得ない感じですね。自分が出るライヴなのに、水20本買って、みたいなことをしてる時は、俺ピアノなのになんで本番前になんでこんな重いもの持ってるんだよ!って思うこともありますけど(笑)。バンドの請求書を作るのもSNSも全部自分でやっていて、その合間にサポート仕事もやってっていう……だから回ってるようでほとんど回ってないところもあって(笑)」
そうなんですね。
「ただ、PAをやってくれてる新井健太(新井音響)とか、わりとインディー魂ある人なのでけっこう踏み込んで手伝ってくれたり、サポートメンバーやメイクの子も、仕事の領分を超えてマネージャー的なサポートをしてくれて。みんなに甘えてます」
井上さんがサポートをするうえでより踏み込んでサポートをしたいと思うのって、showmoreの周りにそういうふうに支えてくれる人がいることも大きいのかなと思いました。
「あぁ、それは本当にあるかもしれないですね。僕はバンドを超えてファミリーみたいな感じになりたいんです。そういうふうに人と関わってきたから、今、周りに助けてくれるような人がいてくれるのかなとも思うし、そこで自分がもらったものは誰かに還元していきたい。そこは全部繋がっているかもしれないですね」
文=竹内陽香
DIGITAL SINGLE「Taxi driver」
2022.10.19 RELEASE