こんな時代のシーンで、ロックバンドをやるなら、開き直るしかない。だからブチ切れるんですよ。俺の生き方のベースはそこにあるから
その10年前の自分は何を訴えかけてきてるんですか?
「『人生そこそこうまくやってるつもりかもしれないけど、お前、相変わらずクズだぞ』って(笑)。クズじゃないフリして、そういう自分に蓋をしてた。バンドをちゃんと続けていかなくちゃと思って、バランスとることに懸命で、大事に大事に、丁寧に積み木を重ねて、〈俺なんて終わってるよ。どうせうまくいかねえんだよ〉って感情を忘れようとしてた」
傍から見たらそうだったかもね。
「そう。こないだ知り合いのミュージシャンに偶然会って、近況を話したら『亮くん、人生完成してるじゃん』って言われて。なんだ、俺、人生終わってんだ、落ち着いちゃったと思われてんだって、愕然としたんですよ。周りから見たら、満たされてるように見える自分でも、心の中はずっとざわついてる。LINE CUBE SHIBUYAのライヴで、当日聞いた戦争や銃撃のニュースに心が荒れて、抑えきれなくて、ギター叩きつけてぶち壊しちゃったけど、それでも世界は何も変わらないし、変わるわけがない。だったらもうやれることは、クズな自分を認めて、積み木なんか崩して、何も変わらない世界を、そして何もできないクズな自分を、歌にすることしかできないな、と思って」
その通りです(笑)。
「再現ツアーやって余計にそう思った。だからフリーライヴで新曲やるつもりですけど、それは、クズがブチ切れてる歌になります(笑)。自分の中にある、開き直ってブチ切れてる部分に賭けたいんですよ」
フリーライヴがそうなるといいな。
「なりますよ。たぶんフラッドのフリーライヴに、人生が最高に楽しくて、儲かってて、順風満帆。ポルシェで駆けつけるような人はいないから(笑)。たぶん俺と似たような何かを1%でも持ってる人が来ると思う。そいつらみんなで、時代からズレてることを開き直って、ブチ切れる(笑)」
その似たような何かを持った人たち、っていうのを具体的に言うと?
「〈世の中こんなもんでしょ〉って、年齢的にそうならざるを得なかったり、なっちゃってる人もいると思うけど、そう口で言ってても、本当はそう思い切れない、そういう人たち(笑)」
まさにそうですね。そして最近、LiSAさんへの楽曲提供もしました。
「それも同じようなモードで書いたんですよ。でもLiSAちゃんに〈ブチ切れろ〉って唄ってもらうわけにはいかないから、多少制限をかけたら、言葉が出てきて。〈シャンプーソング〉って曲なんですけど、そんな過去の憧れや幻想、全部洗い流したいって気持ちを表そうとして〈シャンプー〉って言葉が出てきたんですよ」
洗い流す、って意味なんだ。
「でも洗い流せないのも知ってる、って曲です。だけど彼女は、声が突き抜けてるんですよ。どんなに鬱屈としてても、彼女の声はスコーンと突き抜けていく。だから、洗い流せないって曲を唄っても、この3分間はすっきりさせてやるよ、って気持ちになる。その覚悟を彼女はめちゃくちゃ持ってるんですよね」
LiSAさんとは前から知り合いですよね。
「田淵さん(田淵智也/UNISON SQUARE GARDEN、ベース)がフラッドを教えてくれて、10年前の野音に来てたんですよね。それで好きになったって言ってくれて。〈Dancing Zombiez〉が好きって言ってたから、〈シャンプーソング〉もダンスビートの曲にしてみたんです。あと当初、LiSAちゃんはTHE KEBABSに参加する話もあったから。そのために〈テストソング〉って曲を作って、ふたりでハモれるようにしてたんです。でも最終的に入らなかったから、今は田淵さんが一緒に唄ってる(笑)」
どっかにある鬱屈した気持ちを彼女が唄うのと、佐々木が唄うのでは違いますよね。
「全然違いますね。だから〈冷やし中華〉なんて言葉まで歌詞に入れちゃった (笑)」
彼女が〈冷やし中華〉って唄っても、チャーミングだもんね。
「LiSAちゃんが〈冷やし中華〉って唄うと、きゅうりをチョー綺麗に切って並べてそうなんですよね(笑)」
2500円ぐらいするような高級中華に(笑)。
「俺が唄うと町中華(笑)。そういうワードのチョイスもある」
自分が唄うと違うんだなって、どっかでわかるわけでしょ。
「そう。すごくいい勉強になった。一生懸命LiSAちゃんのために書いたけど、自分のためにもなった。俺はどうやってもこうなんだから、それをそのまま出すしかないよな、って」
ここ最近の佐々木亮介は、歌詞だけじゃなく、サウンド面でもいろいろ試行錯誤が見られますね。
「一時期、バンドの人たちが、ヒップホップに負けないように低音を入れようとしてましたけど、それをやっていくと、バンドのカッコよさがなくなっていく気がするんですよね。ソロをやって、そこは実感した。ソロはDTMで作ることがほとんどだから。低域を意識的に強く押し出して、楽器のパートをうまく分けて、ヴォーカルを前に出せるけど、それやればやるほど、俺が感動してたロックバンドのサウンドってそうじゃないんだ、って思うから。歌が前に出てとかじゃなくて、歌を探しに行くぐらいの感じでいい(笑)」
ははははは。
「それが好きだった。もちろんそういうミックスのやり方はありなんだけど、ロックバンドならではのカッコよさを、今は突き詰めたい。ソロはソロで、面白そうなことを積極的に試してみる。トラップとか、分離がよくないといけない音楽をやりながら、ロックバンドのミックスをしてるから、何をやってんのか理解不能かもしれないけど、これがみんな気持ちいいでしょとか、聴きたいでしょとか思ってやってないんで、ソロは(笑)」
それを積み重ねた先に何かまたあると思ってやってる、と。
「そうそう、最初に、自分の場所を作る、って言ったけど、ほんとそういう感じ。どこにも属さない面白そうなことを一人で試してる。でもそれをやることで、自分がバンドに求めてることもよくわかってきた」
だからこんな時代のシーンで、ロックバンドをやるなら、開き直るしかない、と。
「そう。だからブチ切れるんですよ(笑)。俺の生き方のベースはそこにある。それがよくわかった。だからそこにいろんな面白そうなカルチャーを混ぜていけばいいかな。そう思ってます。それぐらいしかできることないんだから。だから俺シンプルなんですよ、生き方は。迷ってはない(笑)」
これしかないしね。
「そう。生き方のベーシックと、これが好きだっていうものがわかってるから、そこに迷いはない。でも一番面白い答えがどれかを試してるうちに死んじゃいそうだから急いでる。来月、もう36になるんだから(笑)」
文=金光裕史
撮影=笹原清明_えるマネージメント
a flood of circle I’M FREE 2022
代々木公園野外音楽堂
18:00 start/入場無料 ※前方優先エリア有り
VINTAGE ROCK 03-3770-6900(平日12:00〜17:00)