【LIVE REPORT】
Lucky Kilimanjaro〈Lucky Kilimanjaro presents.TOUR"TOUGH PLAY"〉
2022.06.19 at パシフィコ横浜
「楽しいだけじゃなく、悲しさや寂しさ。みなさんがそういう思いを音楽に乗せて、楽しんでくれたら嬉しいです」
アンコールのMCで熊木幸丸(ヴォーカル)が口にしたこの言葉は、Lucky Kilimanjaroの音楽、そしてこの日を象徴しているようだった。
〈世界中の毎日をおどらせる〉をコンセプトに掲げ、カラフルなエレクトロサウンドを鳴らすLucky Kilimanjaro。3月にアルバム『TOUGH PLAY』をリリースし、5月から本作を携えて全国を廻ってきた。そのツアーのファイナルとなったパシフィコ横浜は、自身最大規模のキャパシティとなる会場。この日は、旅の締めくくりであると同時に、彼らにとって新たな挑戦の場でもあったのだ。
登場SEが響くと、熊木を筆頭に、柴田昌輝(ドラム)、山浦聖司(ベース)、大瀧真央(シンセサイザー)、松崎浩二(ギター)、ラミ(パーカッション)が、ステージに登場。演奏が始まると思いきや、「I'm NOT Dead」に合わせてダンスを披露するメンバー。そこに自由な空気が漂うのはもちろんのこと、この日を一緒に楽しもう、というバンドの思いが、胸に迫ってくる。そして「ダンスは自由です。自分の好きなように楽しんでください」と熊木が投げかけ、パワフルなビートが繰り出す「踊りの合図」へ突入すると、客席のボルテージは一気に上昇。序盤とは思えない熱気に包まれたのだった。
そもそもアルバム『TOUGH PLAY』は、〈これが好き〉〈これをやってみたい〉――そんなふうに自分の中に湧き上がる思いを信じて貫こう、といった思いやポジティヴィティが前面に出た一枚である。この日の彼らも作品のモードと同様に、序盤からいつにも増してエネルギッシュなステージを繰り広げていったのだった。熊木は、縦横無尽にステージを駆け巡りオーディエンスを巻き込んでいくかと思えば、フロントマンを支えるメンバーも、伸び伸びとプレイし、スケールのあるサウンドを響かせていく。自分たちの音楽を信じ、より可能性を広げたいといった前向きな姿勢。それがより顕著になっていたのは、グルーヴィな低音が耳に残る「無敵」や、ピュアな衝動を描く「KIDS」などが披露された、中盤のブロックだった。
とはいえ、自分の好きなものを追い求めるのは、決して簡単ではない。本誌2022年5月号に掲載した『TOUGH PLAY』のインタビューで、「やっぱりどういうふうに聴かれるのか、周りの反応が気になっちゃうんです」と熊木は話してくれたが、彼はこれまで自分の好きな表現を追求しながらも、相手にどう伝わり評価されるのか。それにとらわれてしまう時もあったという。さらに、どれだけ発信しようとも、自分の好きなもの、伝えたいことは誰にも理解されず、受け入れてもらえないのでは――といった気持ちを抱えることもあると、過去のインタビューで語ってくれているのだ。だが、そんな拭いきれない寂しさこそ、Lucky Kilimanjaroの音楽に強く根付いているものだと私は思う。
それを今回あらためて実感したのは、ライヴの後半で披露された「Headlight」だ。これは、クリーンで広がりのあるサウンドに乗せて、熊木がじっくりと唄うミドルナンバー。〈たとえ闇に苛まれても/今夢中なこと/追いかける/僕ならではのヘッドライト〉と唄ったうえで、〈それでも寂しさ/もたれかかってくるよな/これでワンセットなのさ/まぁるく愛しいと思いたい〉ともあるのだ。思えば『TOUGH PLAY』のインタビューの際に、「作った曲が思ったように伝わらないこともありますけど、それも含めて自分が選んだ〈好き〉の種類じゃないかな、という感覚もあって。だからその寂しさも肯定したいと思っています」と、熊木は話してくれた。彼は、自分のことはもちろん、同じような気持ちを抱えている人たちの感情も肯定し、音楽を介してより多くの人たちと繋がっていきたい。そんなふうに感じることもあるのではないかと思う。だから、冒頭で触れたMCでの言葉の通り、寂しさ、喜び、楽しさ――生きるうえで感じるものをすべて乗せて、おどりたい。そういった思いからオープンで前向きなサウンドを響かせ、さまざまな人たちと共有していけるのではないだろうか。
この日も、ライヴの終盤に近づくと、アッパーな「エモめの夏」、ユーモラスなダンスナンバー「週休8日」など、開放的な楽曲が次々と投下され、オーディエンスも身体を揺らしたり手拍子するなどして、思い思いに楽しむ姿が見受けられた。まさに今という瞬間にしか味わえない喜びを、バンドと会場が共有している。そうして多幸感が満ちていく中、「HOUSE」「果てることないダンス」「人生踊れば丸儲け」といった、躍動感あふれるナンバーを立て続けに披露し、本編の幕は閉じたのだった。
本編での熱気が冷めやらぬ中、アンコールへ。するとメンバーがステージ上でビールで乾杯するという、彼らのアンコールの演出ではおなじみの「350ml Galaxy」が披露され、リラックスしたムードに。熊木は、アルバム『TOUGH PLAY』が、ツアーを重ねる中でやっと完成した実感があること、ツアーが終わってしまう名残惜しさを語り、充実さをにじませていたのだった。そしてアンコールのラストを飾ったのは「君が踊り出すのを待ってる」。不安や寂しさがあっても、前に進むために、日々をおどろう――この曲に描かれるそんな思いは、彼らがさまざまな人と共有し、広げていきたいものなのだ。だからこの先も、Lucky Kilimanjaroはダンスミュージックを通じて、私たちの日々に寄り添い、未来へ進むヒントを与えてくれるに違いない。そして彼ら自身も、自らの枠に収まることなく、新たな挑戦を続けていくはずだ。
この日の最後には、7月13日にニューシングル「ファジーサマー」を配信リリースすることと、9月からスタートする新たな全国ツアーが発表された。さらなる自信を手にした今、次の一歩を踏み出す彼らから目が離せない。
文=青木里紗
写真=田中聖太郎
【SET LIST】
01 I'm NOT Dead
02 踊りの合図
03 太陽
04 ZUBUZUBULOVE
05 楽園
06 足りない夜にまかせて
07 ひとりの夜を抜け
08 Drawing!
09 雨が降るなら踊ればいいじゃない
10 SAUNA SONG
11 ぜんぶあなたのもの
12 初恋
13 MOONLIGHT
14 Do Do Do
15 無敵
16 Burning Friday Night
17 ON
18 KIDS
19 無理
20 Headlight
21 夜とシンセサイザー
22 エモめの夏
23 週休8日
24 HOUSE
25 果てることないダンス
26 人生踊れば丸儲け
ENCORE
01 350ml Galaxy
02 SuperStar
03 君が踊り出すのを待ってる
DIGITAL SINGLE「ファジーサマー」
2022.07.13 RELEASE
01 ファジーサマー
02 地獄の踊り場
〈Lucky Kilimanjaro presents.TOUR "YAMAODORI 2022"〉
9月11日(日) 大阪:大阪城野外音楽堂
9月18日(日) 神奈川:KT Zepp Yokohama
10月1日(土) 金沢:EIGHT HALL
11月3日(木・祝) 札幌:PENNY LANE24
11月6日(日) 仙台:Rensa
11月12日(土) 福岡:DRUM LOGOS
11月13日(日) 広島:CLUB QUATTRO
11月18日(金) 名古屋:Zepp Nagoya
11月25日(金) 東京:LINE CUBE SHIBUYA
Lucky Kilimanjaro オフィシャルサイト