坂本真綾が両A面シングル「菫 / 言葉にできない」をリリースした。「菫」は、まるで人生そのものに寄り添うサウンドトラックのような、そんなスケール感のあるバラードである。目の前の横断歩道を通り過ぎる人たちの、いろんな人生に想いを馳せながら、群衆で咲く花である「菫」の名を冠したという。その歌はデビューから25年という歳月を丁寧に積み重ねてきた彼女だからこそ生み出せる、深みのあるシンプルな言葉を、岸田繁(くるり)による一筆書きのような味わいのあるメロディに乗せて届けられている。アニメ『であいもん』のオープニングテーマとして、代々伝わる和菓子屋を継ごうと奮闘する登場人物たちにインスパイアされながら、自らの人生を重ね合わせて言葉を綴った。
つぶやくような冒頭のメロディは、やがてサビのハイトーンで祈るように伸びていき、〈僕たちは繋ぐ生き物だから誰かの夢の続きを/あきらめきれず紡いでいく〉、と唄い上げる部分が心に迫る。人が生きて何かを授かり、また誰かに繋いで、そうやって大きな群れの中に自分がいるんだと感じ取れるような、そんな大きな命のサークルを描いたようなこの曲。
実はこの歌詞、坂本自身が「自分は子供を授からない人生だったなと思っていた時期」に書いたという。彼女が、横断歩道を渡る人々を見つめながら感じていた孤独や寂しさを計り知ることはできないけれど、それでも何かを残して繋いでいくんだという気持ちが温かく優しい音楽になった。何より、この歌詞を書いたあとに子供を授かり、実際にリリースを迎えた現在、母になっているのだから、運命とはわからないものである。自分のこれまでを振り返ったり、これからの未来に想いを馳せながら、人生のいろんな節目にしみじみと聴きたい、そんな1曲に仕上がっている。
一方、自身の作詞・作曲による「言葉にできない」はデビュー当時から親交のあるh-wonderによるアイリッシュな雰囲気のアレンジが特徴的。こちらもアニメ『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』の第3期エンディングテーマとして、「ある少女が自分の故郷をでて独り立ちしていく瞬間」を描いたもの。透明感あふれる凜とした歌声に、前へと進む勇気をもらえる1曲。
さらにカップリングには自身がパーソナリティを務めるラジオ番組「ビタミンM」の放送1000回記念で制作された「千里の道 -studio live-」が収録されている。こちらも、約20年リスナーと向き合ってきた歳月があってこそ、金曜日の夜を楽しく過ごそうという気持ちが軽やかに弾けるような1曲に仕上がっている。まさに珠玉の3曲がそろった、充実のシングル。キャリア的にも、また一人の人間としても、様々な節目の時期を迎えて、これからも坂本真綾の活躍は続いていくことだろう。
文=上野三樹
NEW SINGLE「菫 / 言葉にできない」
2022.05.25 RELEASE
■初回限定盤 (CD+Blu-ray)
■通常盤(CD Only)
〈CD〉 ※初回盤、通常盤 共通
01 菫
02 言葉にできない
03 千里の道 -studio live-
04 菫 -Instrumental-
05 言葉にできない -Instrumental-
〈Blue-ray〉 ※初回盤のみ
坂本真綾 Acoustic Live & Talk 2020
01 宇宙の記憶
02 MC1
03 Million Clouds
04 フラッシュ
05 私へ
06 MC2
07 逆光
08 躍動
09 MC3
10 免疫アップメドレー スピカ〜ユッカ〜CLEAR〜Gift〜tune the rainbow〜光あれ〜Get No Satisfaction!〜プラチナ
11 クローバー
12 MC4
13 いつか旅に出る日